Data.10 黒き進化のメダル
エントリーゲートを抜けると……そこはコロシアムだった。
「ここは本物を再現してるんだな」
石造りの円形闘技場はよく画像で見るアレだ。
天井はなく青空が広がっている。
戦う場所の地面は土と砂かな。滑りにくくて動きやすい。
ぐるりと戦場を囲う客席は満席だ。
「観客は雰囲気づくりのNPC? みんな個性的でかなり作りこんであるな」
『ううん! あれは本物のプレイヤーだにょん! みんな試合観戦に来てるんだにょん!』
「ええっ!? たかがルーキーの試合にこんなに人が来るか!?」
『みんな他人の争いを傍観するのは大好きなんだにょん。自分が傷つくことも恥かくこともないし、メダルが奪われることもないからだにょん』
「人間って醜いなぁ……」
『でも、大声では言えないにょん。強奪系メダルの流行で冒険要素が叩かれてる今、観戦要素はこのゲームの生命線だにょん。観戦のためにログインしてくれるプレイヤーも多いにょん』
「このゲームはグラフィックとか、メダルの多様性とかは本当に素晴らしいからなぁ。確かに他のプレイヤーの持ってるメダルやそのカスタム、プレイングを見るだけでも楽しいかも」
『でもやっぱり自分で集めて戦うのが一番心躍るにょん! ワクワクするにょん!』
「それは同感」
見てるだけで満足できるならコロシアムには出ないさ。
ただ、早くルール説明をしてくれないと不安がなくならないぞ。
『ルーキーコロシアムにようこそ! 最初にルールと賞品の説明を始めるにょん!』
「うわっ! あっちにもチャリンが!」
コロシアムの空中に映像が投影されている。
そこにはチャリンの姿があった。
『あれは私の3Dモデルと音声を使ってるだけだにょん。私の意思は介在していないにょん。アイドル兼マスコット兼宣伝部長はこういう場所にも使われるにょん』
「そうなんだ……」
説明されてもやっぱり同じ人物の声が二方向から聞こえてくるのは混乱する。
チャリンの声って王道のアニメ声って言うか、ちょっとキンキンしてるからな……。
ここは映像の方のチャリンの声に集中しよう。
『試合はトーナメント制! 勝負は1対1! 最後まで勝ち続ければいいだけにょん! メダルはエントリー時に登録したセットを最後まで使い続けないといけません! 変更は禁止されております!』
「語尾がブレてる……」
『くっ~! 新人スタッフにアイドル兼マスコット兼宣伝部長が喋るテキストを任せてんじゃねぇにょん! クソが……にょん!』
「こっちはキャラがブレてる……」
『そして優勝賞品は3つの中から1つを選べます! ゴールドメダル3枚! プラチナメダル1枚! 黒き進化のメダル1枚! どれを選ぶかはあなた次第! なお、すべてに共通して賞金のコインメダルはついてきます!』
会場全体がワーッと湧く。
盛り上がってんなぁ観戦組は。
「本物のチャリン、黒き進化のメダルって何……?」
『それこそがこのイベントに参加した理由だにょん! 進化のメダルはその名の通りメダルを進化させることが出来るメダルだにょん!』
「メダルを進化……?」
『詳しく話すと長くなるけど、要するにメダルが新たな姿に変わるんだにょん! 企業所属のAIとして他社のゲームの名前は出せないけど、あの超有名なあれでモンスターが進化しちゃう感じだにょん!』
「ああ、あれね、あれあれ。でもそれって結構な変化じゃないか? あの超有名なゲームで真剣勝負をしようと思ったら、最後まで進化してることが前提みたいなもんだし」
『その通り! だからルーキーコロシアムで優勝してほしいんだにょん! 進化のメダルにもレアリティがあって、そのレアリティ以下のメダルしか進化させられないにょん。クロガネを進化させるにはクロガネの進化メダル【黒き進化のメダル】が必要だにょん!』
「その黒き進化のメダルはここでしか手に入らないの?」
『もちろんそんなことはないにょん! でも、入手難易度は高いにょん。一番簡単に入手できるのはルーキーコロシアムなんだにょん。普通のプレイヤーはそもそも進化させるクロガネのメダルの入手が難しいから、この序盤のイベントで黒き進化のメダルを賞品としてもらうことは少ないけど、シュウトは絶対にそれを選んで欲しいにょん!』
「ゴールドとかプラチナはもう結構持ってるしな」
やっとすべての疑問が解けた。
コレクトソードをさらに強くできるメダルなんて逃すわけにはいかない!
チャリンももっと早くそれを教えてくれれば、こっちのモチベも爆上がりだったのに。
とにかく今は早く戦わせてくれって気分だ!
『じゃ、1回戦を始めまーす! 第一試合は『シュウト』さんVS『レックス』さんです! 2人をバトルフィールドにワープ!』
俺の体がフッと浮き、次の瞬間には闘技場の中心にいた。
対戦相手は俺と同じ男キャラ。
長めの金髪でイケメン風に仕上げてある。
なかなかキャラメイクに時間をかけてそうだ。
「よろしく、ハイジャンプくん」
「ああ、よろしく……ハイジャンプくん?」
「だって、マイ・フェイバリット・メダルにブロンズを選ぶ奴なんて珍しくてね。しかも、そこそこ簡単に手に入る【ハイジャンプ】をだよ? これはネタだと僕は受け取ったんだけど? もしかして……本気?」
「えっと……あはは」
最初に公開されるメダルって、そのプレイヤーの切り札って認識なのか!?
チャリンは何も言ってなかったぞ!?
『勝手にみんなが言ってるだけだにょ~ん……。戦う前から切り札を明かすなんて信じられないにょ~ん……』
小声で言い訳してきた!
まったく……おかげで観客にもヤジられてるじゃないか!
「頑張れ~ハイジャンプく~ん!」
「プレイ初日に間違ってきちゃったのかなぁ?」
「ちゃんと情報集めとけよ! まあ、ロクな攻略サイトがないけどな!」
「おらおら、さっさと殺しあえー!!」
「無様に負けるところを見せてくれよ! お前の負けに賭けてるんだからな!」
ここは世紀末か?
てか、ルーキーの試合が賭けの対象になってるのかよ!?
「ああ、かわいそうに……。このゴールドメダル所有者の俺が初戦の相手じゃなければ、ハイジャンプくんでも1回は勝てる可能性があったのに……。この科学世紀に神はいないということか……」
「さっきから偉そうなこと言ってるが、あんたもゲームを始めて1か月以内の初心者だろ? そんなに実力の差はないと思うけど」
「ふっ……愚かな。このゲームにレベルはない。コツコツ長く続ければ強くなれるわけでもないのだよ。すべてはメダルと出会えるかという運命の力……。俺は2週間でゴールドを手にする運命力があった!」
「運命力……ね」
それだけなら、俺は誰にも負けない自信がある。
『さあ、両者位置についたかなー? バトルスタート……って、次に言ったら試合開始だよ?』
決闘のように数歩後ろに下がり、向かい合う。
『バトルスタート!!』
「食らえ! ゴールドの力を!
鋭く尖った氷の破片が吹雪のように吹き付ける。
やはり、スキルメダルはゴールドの時点で侮れない性能のものが多い。
彼が調子に乗る気持ちもわかるな。
「コレクトソード! メダルコレクト!」
「なにっ!? 俺のスキルが吸収されていく!? な、なんだその剣は!?」
「これが俺の運命だ! 吸収したメダルの効果を発動! コレクトバースト!」
氷槍雪連弾・斬!
無数の氷の刃がレックスの体を切り刻む!
「クロ……クロガネだと……!? そんなことが……ぐあああああああああッ!!!?」
まるで現実のような断末魔と共にレックスは消滅した。
コロシアムの空中に『WINNER シュウト』という文字がデカデカと表示される。
だが、偽のチャリンも観客もシーンと黙ったままだ。
『ああ……1回戦から一番の秘密を公開してしまったんだにょん……』
本物のチャリンの声だけが耳元で聞こえた。
すまない、チャリンの気持ちはよくわかる。
でも、俺は小心者だ!
切り札を温存して負けるのが怖い!
だから見せつけてやる……。
「これが俺の本当の切り札、コレクトソードだ!」
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