Data.9 ルーキーコロシアム
「なにっ!? 強奪の勲章を奪われただと!?」
メダラミア某所――。
薄暗い空間の中に4人の男がいた。
うち3人はシュウトからメダルを奪った三人組である。
「あれは強いから流行ってるんであって、入手が容易なわけじゃねーんだぞ!? 誰に奪われた!? さっさと奪い返してこい!」
「それが初心者みたいでPK許可エリアに出てきてくれないんすよ……」
「お前らは初心者にメダルを奪われたって言うのか? しかも、初心者なのにメダル強奪系のメダルを持っていただと? 見え透いた嘘は俺様の怒りを煽るだけだぞ!」
「ち、違うんです! 俺は賭けバトルをしたんです! クロガネのメダルを奪うために!」
「クロガネだと? もっと嘘くせぇ!」
「俺たちが全部のメダルを奪っちまったから、あいつはメダルガチャを引いたようなんです!」
「メダルガチャ……だと? うむむ……あのクソほど役に立たない救済要素に当たりが入っていたというのか……?」
「そうとしか考えられません! 俺たちが最初に襲った時はスロットに初期メダルしかセットされてませんでした! そこから復讐されるまで三十分も経ってません! あいつはこのゲームの常識を何も知らなかったし、フレンドがいたとも思えません!」
「フレンドがいたにしても、メダル交換にはいくつか条件がある。クロガネのメダルを交換してもらうのは不可能……か。どうやらお前らの言っていることは本当のようだな」
「嘘ならもっと上手くつきますよ! こんなの俺たちだって信じられなかった!」
「開き直ってんじゃねぇ! どちらにせよ強奪の勲章は奪われた! 常識も知らないクロガネ一枚だけの初心者に負けたのも事実!」
「す、すいません……イバンさん……」
「調子に乗ったルーキーに現実を教えてやらねばならん。しかし、PK禁止エリアでは何もできん。狙うならルーキーコロシアムだ。クロガネのメダルを手に入れたなら、あのイベントに出ない理由はない」
「しかし、イバンさん。俺たちはゲーム開始30日なんてとうの昔に過ぎてます。ルーキーコロシアムには出場できません」
「ならば、俺たちのギルドのルーキーを出すまでだ。有望な新人がいると聞いているが?」
「ガラハドですか……。あいつは確かに動きが常人とは違いますが、あまりギルドへの忠誠心がありません。命令に従うかどうか……」
「はっはっはっ! 従うさ……。ルーキーコロシアムで勝てば誰もが欲しがるメダルが手に入る。強さを追い求めるあいつならば絶対に食いつく。今すぐ伝えてこい」
「は、はい!」
三人組はドタドタと去って行った。
「面白い……。ちょうど俺様も暇してたところだ。イジメがいのあるルーキーだといいんだがなぁ……はっはっはっ!」
● ● ● ● ● ● ●
『ついにルーキーコロシアムの日が来たにょん!』
ルーキーコロシアムは10日に1回ペースで開催されている。
参加条件はゲーム開始30日以内であること。
つまり、ゲーム開始日にコロシアムが開催されていたら参加することが可能なのだ。
まあ、当然だけど1日目じゃロクにメダルも集まらないし参加する人はいない。
「ここまで大体1週間か。もうちょっと余裕をもって次のコロシアムに挑戦でも良かったんじゃないか? 参加できるのは一回だけだし」
『待ちたいなら待ってもいいにょん。でも正直、シュウトのメダルビルドは初心者のそれを超えてるにょん! さっさとルーキーコロシアムで優勝して、新天地を目指すにょん! シュウトだっていつまでも同じフィールドをウロウロしてると飽きない?』
「確かにそれはそうだ」
コロシアムまでの間にも俺たちは比較的安全なフィールドを冒険し続けた。
しかし、レイドモンスターに出くわすなんてミラクルは二度もなく、手に入るメダルはせいぜいシルバー。
強い刺激に慣れすぎた俺にはぬるい冒険だった。
目標にしていた良い盾も手に入らずじまいだ。
「でも、ルーキーコロシアムで優勝することが新天地に向かうことにつながるのか? そもそも、このイベントで何が手に入るんだ?」
『ふっふっふっ~、それは始まってからのお楽しみだにょん! ちゃんと説明があるにょん! さあさあ! コロシアムの中に入るにょん!』
大昔の円形闘技場を模した建物の中に入る。
「外に比べて、中はかなり近代的なロビーになってるんだな」
『ここはメダラミアの世界とは少し違う空間だにょん! コロシアムは中規模の街になら大体あって、すべて繋がっているんだにょん! どの街からでも気軽にイベントに参加できるにょん! あ、だからと言って街から街への移動には使えないんにょん。入ったところから出るにょん』
「なるほどねぇ、通りで活気が違う」
たくさんの人がウロウロしている。
これが全員ルーキーコロシアムの参加者……ではない。
ここは冒険のフィールド『メダラミア』とは違う世界だから、いくらでも空間を作り出して同時にいろんなバトルイベントを行える。
大半はそっちに参加するのだろう。
『メニューを開いてエントリーの手続きをするにょん!』
自分のメニュー画面で大体のことが出来るシステムはここでも健在だな。
ページを開いて、参加するイベント『ルーキーコロシアム』のエントリーボタンをタッチだ。
「これでいいか?」
『ちょっと待って……よし、と! 準備完了だにょん!』
「俺、どっかミスしてた?」
『いやいや、メダルスロットのマスク設定をしてただにょん』
「また聞いたことのない用語が……」
『そのまんまの意味だにょん。コロシアムではメダルスロットのメダルが他のプレイヤーに公開されてしまうんだけど、公開されるのは試合中に使用したメダルだけにょん。使わなければセットしていてもバレないにょん』
「ほうほう、メダルを温存すれば秘密のままにしておけるってことか」
『そうだにょん! でも、1枚だけはあらかじめ公開しなければならないにょん!』
「俺の場合なにを公開したの?」
チャリンと一緒に決めたコロシアム用のメダルカスタムは……。
●W クロガネ 【コレクトソード】
●W プラチナ 【シュレッダーブーメラン】
●A プラチナ 【アルマジロアーマー】
●S ゴールド 【破断粉砕撃】
●S ゴールド 【火炎旋風】
●S ブロンズ 【ハイジャンプ】
●S ブロンズ 【ヒールポーション】
こんな感じだ。
防御面に不安が残るが攻撃力はバツグン。
速攻で試合を終わらせる強気のカスタムだ。
『ハイジャンプだにょん!』
「ええ……よりによって一番低いレアリティを選んだのか。まあ、お気に入りの一枚ではあるけどさ」
『ちっちっちっ~、ルーキーはこれだからダメだにょん。勝利に一番必要なのは秘密だにょん。自分から切り札を公開する奴はアホだにょん』
「だからってブロンズはどうなんだ? 他の参加者を見た感じ最低でもシルバー、中にはゴールドを公開してる奴もいるぞ……。これじゃ俺がメダルをロクに集めてないみたいじゃん」
『能ある鷹は爪を隠す……だにょん。舐められてるくらいの方が戦いやすいにょん。さあさあ、もう時間だにょん! エントリーゲートにGOだにょん!』
なんか、いよいよ試合となると緊張してきた……。
昔から本番に弱かったんだよなぁ俺。
でも、集めてきたメダルは嘘をつかない。
必ず優勝して新天地を目指すぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます