Data.8 奥深きメダルカスタム

「よし、町まで戻ってくれば大丈夫だろう」


 ぴょんぴょん逃げ帰って来たぜ。

 いや、今回は『戦略的撤退』だな。

 人生で初めてこの言葉を正しく使えたと思う。


『お疲れ様だにょん! 早速手に入れたメダルをチェックするにょん!』


 手ごろなベンチに座ってメニュー画面を開く。

 ネームドレイドモンスター……だったっけ?

 そいつとの戦いで手に入れたメダルは……。


「まずはコレクトソードの効果で複製したスキルメダル【破断粉砕撃】。レアリティはゴールド。次にドロップで手に入れたマテリアルメダルの【回転刃鎧獣の甲羅】と【回転刃鎧獣の硬刃】。こっちはプラチナだ!」


『う~ん、大漁大漁! 大満足の冒険だったにょん!』


「でも、マテリアルだとすぐに戦力にならないから盛り上がりに欠ける気もするな」


『ちっちっちっ~。レイドモンスターなどの特殊なモンスターが落とすマテリアルメダルは、そのメダル一つで新たなメダルを生成できるにょん!』


「マジか!」


『しかも、生成するメダルはいろいろ選べるにょん! 自分に足りないカテゴリーのメダルを生成するも良し、直感や好みで生成するのも良しだにょん!』


 それはワクワクしてきたな!

 早速メダル生成のページに切り替えだ!


「本当だ! 一枚のマテリアルメダルからウェポンもアーマーもスキルも生成できる!」


『でも、素材となるメダルは一枚しかないにょん。つまり、作れるメダルは一つ! よ~く考えて生成するだにょん!』


「うむむ……」


 いま素材として選択しているのは【回転刃鎧獣の甲羅】のメダル。

 あのアルマジロの甲羅だけあって、防御面に秀でたメダルを作れるようだ。

 生成するメダルのカテゴリーは、正直一択だ。


「アーマーメダル【アルマジロアーマー】を生成しよう」


 俺の初めてのアーマーメダル【毛皮の鎧】は戦いの中で破壊されてしまった。

 破壊されたメダルもメダルボックスに収納されているから、きっとこれを素材に使ったり直したりすることも出来るんだろう。

 でも、お世話になったとはいえレアリティはシルバーだ。

 これを直すのに時間をかけるのなら、より良いAメダルを作った方が良い。


「防具は生命線だってことがあの戦いでよくわかった。盾を作っても良いけど、俺は剣を振り回すから邪魔になることもある。ここは着ることが出来る鎧を作ろう」


『うんうん! 私もそれが良いと思うにょん!』


 よし、新たなAメダル【アルマジロアーマー】を生成!


◆アルマジロアーマー

 プラチナ/アーマー

 属性:鎧

 基礎防御力:120


 =特殊効果=

 背中を丸めて制止している間、基礎防御力を3倍にする。


「……ん?」


 ちょっと待て。

 結構とんでもないメダルじゃないかこれ?

 そもそも基礎防御力120って、クロガネのウェポンであるコレクトソードの基礎攻撃力超えてますけど。

 しかも、背中を丸めてジッとしてれば3倍になる?

 つまり、360? そんなメダルが存在していいのか!?


『いいにょん!』


「うおっ!? 心が読めたのか!?」


『顔に出てたにょん! アーマーメダルは基本的にウェポンメダルに対して数値で勝っていることが多いにょん。だって、アーマーは何度も攻撃を受けるから劣化しやすいんだにょん』


「劣化?」


『基礎防御力がどんどん下がっていくにょん。その状態で戦闘を続けると、そのうちメダル自体が破壊されてしまうにょん。だから、町のメニュー画面でこまめに修理するんだにょん。コインメダルを消費するけど、そんな高額ではないにょん。レアリティが高いと値段も高くなるけど、たかがしてれるにょん』


「でも、その理屈だと武器だって劣化しないか? 防具とぶつかり合っているわけだから」


『ウェポンは基本的に攻撃をしている分には劣化しないにょん。硬い相手に何度も切りかかってもなかなか刃こぼれしないにょんね。でも、攻撃を受け止めると話は別にょん。つばぜり合いとか、あの時のシュウトみたいにモンスターの攻撃を受け止めることに使うと劣化するにょん』


「つまり、今のコレクトソードも劣化状態なのか」


 確認してみよう。

 ……確かに基礎攻撃力が『80』から『75(80)』の表記に変わっている。

 思ったより頑丈なんだなコレクトソード。

 あの回転攻撃をもろに受け止めて5しか減らないとは。


 でも、逆に考えるとたった16回の攻撃でクロガネのメダルすら壊れるかもしれないのか。

 ただ転がってるだけでスキルですらなかったあの攻撃で。

 もし、これから先クロガネ同士のぶつかり合いになったらと考えると……恐ろしいな。


「チャリン、このゲームは奥深いな。アーマーメダルは鎧だけでいいと思っていたけど、盾も結構重要そうだ」


『そうだにょん! 盾は腕に合わせて動かせる防壁だにょん! 防壁で守られているお城とそうじゃないお城では全然攻め落としやすさが違うにょん! それと一緒だにょん! 特にコレクトソードは片手剣だから、空いた手に盾を持つべきだにょん!』


 鎧の次は盾だな。覚えておこう。

 残念ながら残ったMメダルの【回転刃鎧獣の硬刃】からはAメダルは作れない。

 というか、このMメダルはウェポン生成専用のようだ。

 その代わりに作れる武器の種類は多い。


「コレクトソードに勝る剣は作れそうにない。となると、サブウェポンを作るか」


 剣の相性補完を考えると、槍か斧だな。

 とりあえず三すくみで不利を取られることはなくなる。


『このゲームにそんなシステムはないにょん。ふつうに考えると飛び道具が良いにょんね』


「確かに剣だけだと攻撃の届く範囲が狭すぎるな」


『でも、飛び道具は飛び道具で問題がないわけじゃないんだにょん。銃とか弓ってリアルでの技術がないとなかなか当たらないんだにょん!』


「そ、そうか……これはVRゲームだもんな。ロックオンしたらあとはボタンを連打というわけにはいかないのか」


『リアルよりは多少当てやすくなってるけど、的であるモンスターやプレイヤーもリアルより動きが良いにょん。結果的になが~い訓練が必要になるにょん。間違いなく強力だけど、お手軽サブウェポンとは言えないにょん』


「でも、飛び道具というか射程の長い武器が欲しいよなぁ」


 悩みに悩んだ末、選ばれたのは……。


◆シュレッダーブーメラン

 プラチナ/ウェポン

 属性:ブーメラン/投擲/斬撃

 基礎攻撃力:50


 =特殊効果=

 このメダルが与えるウェポンメダル、アーマーメダルへのダメージは2倍になる。


「ブーメランでした」


『……悪くない選択ではあるにょんね。飛び道具だし、銃や弓より親しみがあるし、剣と同じ斬撃属性を持ってるから場合によっては斬撃属性指定のスキルメダルを共有できるかもしれないし』


「だろ?」


『でも、ブーメランって中途半端で微妙な武器のイメージがあるにょん』


「そうか? なんかの動画でブーメランは万能武器だって言ってる人を見たことあるけど」


『きっと、その人が頭おかしいんだにょん。そもそも、ブーメランだって相手に当てるのは難しそうだにょん。それなら当たった時にダメージが大きい弓とか銃の方が……』


「いや、必ずしも当てる必要はないんだ。投げてから敵の後ろを通って戻ってくればいい」


『にょん?』


「だって、うっとしいでしょ。刃物が自分の後ろから迫ってくるなんてさ。たとえそれが当たらなくても、威力が低かったとしてもめっちゃ気になる。フルダイブVRゲームならではの嫌がらせ武器だと俺は思うね」


『あー、なるほどねぇ~。確かに自分の後ろをブーメランが飛んでいったら、いつ戻ってくるのか気になるにょん。目の前の敵に集中できないにょん』


「そう! 集中力をかき乱す精神攻撃ができる! まっ、作った理由は他にも単純に遊びたかったってのもあるな。一度広い土地で思いっきり投げて見たかたんだぁ~ブーメラン。リアルだと人目もあるし、そもそもそんな広い土地がない」


『うんうん! リアルで出来ないことを楽しむのもゲームの醍醐味だにょん!』


「よーし、練習がてら投げに行くぞ~!」


『ちょっと待つにょん! 【破断粉砕撃】の効果を確認してないにょん!』


 そうだった……。

 これはあのアルマジロのスキルを複製したメダルだったな。

 単純な破壊力は相当ありそうだが果たして……。


◆破断粉砕撃

 ゴールド/スキル

 属性:斬撃


 基礎攻撃力:360

 最大使用回数:2

 インターバル:5分

 使用回数回復:10分

 (TE回復化)


 =効果=

 メダルスロットに『斬撃』属性を持つウェポンメダルが存在する時のみ発動可能。

 刃を高速回転させて突撃する。

 このメダルの効果でダメージを負ったプレイヤー及びモンスターは30秒間基礎防御力が0.8倍になる。


『あっ、これこれ! さっき言ってた斬撃属性指定のスキルメダルだにょん! これなら剣とブーメランの両方でスキルを発動できるだにょん!』


「威力も高いし、回数回復も早いな。しかも追加効果も優秀だ。なんでこれが火炎旋風と同じレアリティなんだ?」


『きっと当てにくいからだにょん! 回転攻撃はあのアルマジロの巨体でやるから恐ろしいんであって、人間がくるくる回りながら攻撃してきたって怖くないにょん!』


「そういうことか……。確かに炎は適当にばらまいても十分怖いもんな」


『メダルの強さは使ってから判断! 想像だけで語る奴は何もわかってないんだにょん!』


「エアプはやめろってことだな。よし、こいつも試すとするか」


『町にはメダルお試し用の施設があるけど、目立ちたくないにょんね。加護の森に行くにょん!』


「いろいろ試して、コロシアム用のカスタムを完成させないとな!」

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