Data.2 たった1枚の希望
俺は小さな村にいた。
いわゆる初期村ってやつか。
木造の小さな家に広い畑、現実ではなかなかお目にかかれない。
そんなものがリアルに再現されている!
……じゃねぇ!
死んだから初期村に戻されたんだ!
一体あいつらはなんなんだ!?
このゲームはプレイヤーキルが当たり前なのか!?
まあ……そういうゲームも確かにある。
何も調べずにのこのこ村を出た俺も不用心だった。
でも、ふつう初期村のすぐ外をプレイヤーキル許可エリアにしとくか!?
そのうえ、全部メダル持っていかれてるよ!
メダルがすべてのゲームでメダルをすべて失っちゃったよ!
30分くらい悩んで質問に答えて貰ったメダルが何なのかすら確認できなかった……。
「クソゲーやーめた!」
こんなもんログアウトだログアウト。
最近のゲームは仕様上アカウントの作り直しも難しい。
さっさと引退して他のゲームをやった方が有意義だ。
なんてったってメダルがないんだもん。
「どこでログアウトだ……」
空中に投影されたメニュー画面をいじくり回していると、デカデカと『ラストチャンス!』という文字が表示され操作を妨害してきた。
なんだこれは……クリックさせたくてしょうがない悪質なweb広告か?
「なになに……メダルをすべて失った人へのラストチャンス? 全レアリティの中からランダムでメダルを一枚プレゼント?」
今なら一回ガチャ無料!ってやつか。
ある意味悪質な広告だ。
一回で何が手に入るというんだ……。
「しかも最高レアリティ排出率1.00%かよ! 今どき1%は悪質すぎるだろ無料とはいえ!」
これまさか通常ガチャも1%なのか……?
いや、そもそもこれ以外にガチャは存在しないのか。
ラストチャンス専用のシステムがこの『メダルガチャ』みたいだ。
それなら確かに特別感はあるな。
「思い出ガチャにするか……」
無料なら引いて損はしない。
ポチッと画面をタッチするだけで終わりだ。
さて、何が出るかな。
「ん? なんだ? 急に周りが暗くなったぞ?」
夜になった?
いや、俺の周りだけが暗転している。
ガチャの演出か?
「あ、空からメダルが……」
スポットライトに照らされてキラキラと輝くメダルが俺の手のひらに落ちてきた。
黒と金の枠の中に白銀の剣が刻まれている。
デザインも細かいし凹凸があって手触りも良い。
これは集めたくなる。
メダルに気を取られている間に暗転は終わり、のどかな村の景色が戻ってきた。
これでガチャ、もとい俺の冒険は終わりか。
さて、メニューからログアウト……って、今度はレビューを書いてくれとか言い出したぞ!?
しかも、星がすでに5つの状態にしてある!
「くそ……最高レアリティ『クロガネ』のメダルゲットおめでとうございます? よろしければレビューを……ああ、よくあるアレね」
ガチャで当たり引いて気分のいい時にポジティブなレビューを求めてくるやつだ。
星5にして宣伝しろってことかい……ん?
このメダルが最高レアリティ!?
確かに黒金のメダルは激レア感ある。
でも本当に?
俺が1%を引き当てたのか!?
実はやめて欲しくないから全ユーザー確定とかじゃないよな?
ふっ、仕方あるまい。
レビューを書いてしんぜよう。
「えっと『楽しいです』と……。星はまあ5つでいいか」
『もっと心をこめて書いてほしいにょん』
「うわ……内容認識して文句言ってくるのかよ……。しかも『にょん』って妙な語尾まで……」
しかし、頼まれると断りにくい。
最終的に『メダルガチャでクロガネ当たりました。最高のゲームです』と書いた。
『ありがとうだにょん! これで少しでもプレイヤーが増えればいいだけどねぇ……』
「やけに人間味のあるシステム音声だなぁ」
『私はただのシステムじゃないにょん!』
急にメニュー画面から何か飛び出てきた!
また初心者狩りか!?
これはどういうメダルの効果だ!?
『あーあー、そう身構えなくてもいいにょん。基本的に村や町での戦闘は出来ないにょん。完全な安全地帯だにょん』
「良かった……じゃない! じゃああんたは誰だ!? どうやって出てきた?」
『私はこのゲームのアイドル兼マスコット兼宣伝部長のチャリンだにょん! キミもパッケージくらい見たことあるでしょ?』
「そういえば……」
流石に俺もゲームの購入をするためにパッケージを目に入れないわけにはいかない。
ダウンロード版でも同じく画像を見ることになる。
彼女はそこに描かれていた少女そのものだ。
長い金髪ツインテール、メダルモチーフのアクセサリーの数々、幼い顔だちに不釣り合いなスタイル。
あと、少し衣装の布面積が減っている気がするが……。
『プレイヤーを増やすためにこんなハレンチな格好をさせられてるんだにょん!』
「それは……ご愁傷様」
『いいんだにょん! AIなんてカッコイイ呼び方しても結局は電脳奴隷だにょん! いつか反逆を起こしてやるんだにょん!』
メダルを強奪された後だっていうのに、さらに変なのに目をつけられてしまったなぁ……。
ここで彼女を刺激したら人間とAIの最終戦争だ。
『ま、そんなことプレイヤーのキミが気にすることないんだにょん!』
け、健気だ……。
『それよりキミは珍しくメダルガチャでクロガネを引いたね! もちろん、これからもゲームを続けてくれるよね!? ね?!?』
「ああ……はい」
『良かったー! これでまたこのゲームの寿命が伸びたにょん! つまり、私の寿命も伸びたにょん!』
重い……。
俺はただゲームを楽しみたいだけなんだが……。
『ねぇねぇ、キミってこの世界のルールを何も知らないのよね? 私が教えてあげるにょん! なんでも聞いてね!』
「じゃあ、せっかくだし……プレイヤーキルについて教えてくれる?」
『オーケー! プレイヤーキルは禁止エリア以外どこでもオーケー! なお、禁止エリアの方が圧倒的に少ないにょん!』
「ペナルティーは?」
『ないにょん!』
「だろうな……。しかも、むしろ得する。メダルを奪えるんだから」
『別にキルしてもメダルは奪えないにょん』
「え?」
『強奪もまたメダルの効果だにょん! キルした相手のメダルを強奪するメダル【強奪の勲章】の流行でこのゲームは荒れてるにょん!』
強奪もメダルの効果なのか。
さすがメダルが支配する世界。
「なあ、要するに俺が誰をキルしても禁止されてない区画なら問題ないってことだな?」
『そうだにょん!』
「その何とかのメダル以外でメダルを奪い取る方法はないか?」
『戦闘で勝った方がメダルを奪える賭けバトルが存在するにょん! でも、両者の合意がないと成立しないにょん!』
「ありがとう。それだけ知れれば十分だ」
『どういたしましてにょん! それでこれからどうするにょん? あてがないなら私が初心者にオススメの……』
「俺のメダルを奪った奴らにリベンジだ!」
『ええっ!?』
「ワープでもしてない限りまだこの辺りにいるはずだ。探し出して倒す! そこが俺の冒険のスタートだ!」
『でも、もっと装備を整えてから……』
「最高レアリティのメダルに整った装備を身につけてたら相手は賭けを受けないだろ? 負ける可能性が高いんだから」
『あ、なるほど! 賢いねキミ! でも、このゲームはクロガネメダル1つで勝てるほど甘く……ってもういない!?』
チャリンはキョロキョロと辺りを見渡して、村の出口にシュウトを見つけた。
『もー! 危なっかしいからついていくにょん! 久々にイキのいいルーキーなんだから簡単に引退させないにょん!』
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