メダリオン・オンライン ~AIさんと行く世紀末ゲーム大紀行~

草乃葉オウル@2作品書籍化

Data.1 最悪のスタート

 メダリオン・オンライン――。

 武器、防具、スキル、素材に至るまで、RPG要素のほぼすべてをメダルに置き換えたVRMMOだ。


 とにかくレアなメダルをゲットすれば強くなれるというシンプルなゲーム性。

 少年の心を熱くする収集・交換システム。

 異世界感あふれる広大で多彩なフィールドでの冒険。

 7つのスロットに好きなメダルをセットし、自分だけの組み合わせで全国のプレイヤーと戦う対戦要素。


 技術の急速な発展、人工知能の開発でオンラインゲームはよりリアルで複雑な方向へと進化した。

 中には運営自体を人工知能に任せる会社もあった。

 しかしその結果、人の手から完全にゲームが離れて制御できなくなるという大きな事件も起きた。


 そういう時代の流れもあって『メダリオン・オンライン』の古臭さは一周回った新しさ、あるいは安心感としてプレイヤーたちに受け入れられた。


『戦いだけがRPGじゃない、自分だけの宝物メダルを探しに行こう』


 この素晴らしいキャッチコピーに惹かれ、俺もまたメダリオン・オンラインの世界に降り立とうとしていた!


『プレイヤーネームを入力してください。ここで設定したプレイヤーネームはゲーム内や公式サイトで公開されることがあります』


 まずは名前か。

 俺の名前は集人しゅうとだから、そのまま『シュウト』でいいな。

 ありきたりなようで少しカッコいい語感。

 両親のセンスに感謝だ。


『アバターのデザインを決定してください。ここで設定したアバターはゲーム内や公式サイトで公開されることがあります』


 まあ、オンラインゲームなんだから当然人に見られるだろうな。

 ダサいアバターにはしたくないけど、俺デザインセンスは皆無なんだよなぁ。

 毎回マイキャラを作れるゲームでもデフォルトにしているくらい苦手だ。

 このゲームには……おっ、『おまかせ』があるじゃん!

 これを試してみよう。


『リアルの容姿を元にアバターを作成します』


 目の前に現れたのは俺に似てるようで似ていない爽やか黒髪イケメンだった。

 なるほど、リアルの容姿を元にそれを美化してアニメチックに変えているのか。

 これなら多少自分の面影も残るし、身バレの心配もない。

 いいサービスだ。これでいこう!


『これからいくつか質問をします。それの答えによってゲーム開始時に入手できる3枚のメダルが決定します』


 おっ、もうすぐゲームスタートか。

 思ったより簡単に設定が終わるんだな。

 さすがシンプルさを売りにしたメダリオン・オンライン。


『なお、ゲーム開始時に入手できるメダルは比較的容易にゲーム内でも入手できます。リラックスして質問に答えてください』


 配慮が行き届いてるなぁ。

 序盤から取り返しのつかない要素って萎えるからね。


 その後、俺は20個ほどの質問に答えた。

 思ったより多かったけど、心理テストみたいで楽しかったな。


『すべての設定が完了しました。それではゲームを開始します』


 黒かった視界が白く染まる。

 いよいよだ……。


『ようこそ、メダルが支配する世界メダラミアへ』




 ● ● ● ○ ○ ○ ○




 俺は小さな村にいた。

 いわゆる初期村ってやつか。

 木造の小さな家に広い畑、現実ではなかなかお目にかかれない。

 そんなものがリアルに再現されている!


「すげぇ……」


 普通のゲームはそれなりに遊んできたが、VRゲームは初めてな俺。

 こりゃみんな戻れなくなるわけだ。

 ワクワク感がダンチだ!


「村の外はどうなってるんだろう!?」


 心のままに村の外へ。

 広がっていたのは草原、遠くには深い森!

 そして遥か遠くにはでっかい山!


「すごい! すごいぞ! いま目に見えている場所は全部冒険できるんだ!」


 シンプルさを売りにしているメダリオン・オンラインだが、フィールドの作り込みだけは他にも負けていないと聞いたことがある。

 他を遊んでない俺に比較はできないけど、それが事実だと思える素晴らしい景色だ。


「こっから俺の冒険は始まるんだ! えっと……まずは何をすればいいんだ?」


 俺はゲームを遊ぶ時にあまり情報を集めない。

 最近は娯楽が多いから開発側も興味を持ってもらおうと発売前に半分くらいネタバレしてくるからな。

 未知の世界への冒険がゲームの醍醐味だ。


 メダリオン・オンラインは人気ゲームだし発売してしばらく経つ。

 入手するまでネタバレ防止には苦労したけど、その分ワクワク感は増した。


 ネタバレは悪だ――。


 この俺の信念が揺らぐ事件は、初期村への帰り道で起きた。

 俺はテンションに身を任せて村から離れてしまっていた。

 そして、その行動の危険性がまったくわかっていなかった。


「おっ、こんなところに新人さんかい?」


「あ、どうも」


 俺以外のプレイヤーさんだ。

 オンラインゲームなのだから当然存在する。

 整った装備の感じからして、同じ初心者ではなさそうだが。


「楽しんでるかい?」


「ええ! それはもう! 始めたばっかりですけど! 手に入るまでネタバレ対策した甲斐がありました!」


「そうかい! そうかい! そりゃ良かった! 今度ゲームをやる時は事前に情報を集めとくんだなぁ!!」


 いきなり3人のプレイヤーが切りかかってきた。

 当然避けられない俺は3つの斬撃をモロに食う。


「ぐは……っ!」


 地面に倒れ伏す。

 体が動かない……。

 初期設定中に説明されたが、このゲームには体力ゲージなんかは存在しない。


 より世界への没入感を増すために、数字やゲージ類は極限まで排除されている。

 いろいろわかりにくそうだなと俺は思っていた。

 でも、今ならわかる。

 俺はいま死んでいる……。


「いきなりプレイヤーキル許可エリアに飛び出してくるから、なんかレアメダルでも持ってんのかと思ったらゴミメダルばっかじゃねーか!」


「今時wikiや掲示板すら見ずにオンラインゲームを始める化石みたいな奴がいるんだなぁ」


「まっ、ゴミメダルも売れば金になるし、場合によっちゃ素材になる。ありがたくいただいておくとしようぜ」


 3人は笑いながら去っていった。

 そして俺の視界は真っ暗になった。

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