文化祭

 なぜか麻吹先生が出したトンデモ計画の責任者はミサト。


「ボクがやったら藤堂に勘付かれちゃうだろうし」

「エミもよ。それにこれは南さんの恋の仲立ちをするのを引き受けたミサトさんのお仕事だと思うよ」


 うぇ~ん。あの時はちゃんと引き受けるって言ってないよ。でも、こうなってしまっては仕方がない。まず嫌がるアキコを強引に説き伏せ、他の部員も密かに説得。


「おもしろそう」

「やりますよ」

「南先輩のためですもの」


 やはり問題は藤堂副部長。イベントの練習日は週末と休日。写真部が総出でやるようなものだから、バレないわけがないじゃない。そしたら麻吹先生は、


「あん、分割でやればイイだろ」


 四月の二・三・四週の六日あるから、分散させてやればバレにくいってさ。もう無理くりの理由を付けて部活を休ませて練習に。藤堂副部長に、


「どうも週末の出席率が悪いな」


 そう言われた時には背中に冷汗がびっしょり。


「みんな用事があるみたいですね」

「重なる時は重なるってホンマやな」


 ミサトもレッスンに連れて行かれたけど、着いたのはどこかのスタジオ。


「あれっ、ユッキー先生と、えっと、えっと」

「コトリだよ。覚えといてね」


 どうなってるの?


「シオリちゃん、シャリスのラウダーか」

「あれ一度やりたかったんだ」


 そこからダンスのレッスン。ダンスと言ってもフォーク・ダンスぐらいしかやっていない素人集団だから大変。それにしてもユッキー先生や、コトリさん、麻吹先生も上手いもんだな。


「最後は廊下だな」

「カーペットもいるからな」


 こっちはヒーヒー状態だけど、


「野川、小林、尾崎。ちゃんと撮ってるな」


 レッスンの間も休めないのよね。これを撮るのが目的だけど、


「部長、ちょっと息が」

「尾崎さんもそうか。かなりきついよな」

「それにしても、エミ先輩タフですね」


 三分ほどの曲で全員が全部踊るわけじゃないけど、とにかく動きが激しくて振付を覚えるだけでも半端じゃない。とにかく練習日が限られてるから朝から夕までビッシリ。でもね、でもね、楽しいの。これはミサトだけじゃなく全員が熱気に乗せられてるようにしか見えないもの。


 そしたらユッキー先生たちがダンスのコーチとなにかもめてる。


「素人の方がされるのは危険です」

「あれをやるのが楽しみやねん」

「わたしも」

「それでもですね」

「ほなら見といて」


 コトリさんが連続バク転から、なんとバク宙。


「わたしだって」


 えっ、あのユッキー先生が。


「ユッキー、ずるしたやろ」

「コトリも他人のこと言えないよ」


 元体操部だったのかな。アキコはこのパフォーマンスのメインだから、踊る時間も長いのよね。最初は悲壮な顔して歯を食いしばってやってたけど、


「きっとこの先に・・・」


 そうよ、そうよ。イイ表情してる。これだけみんなで応援してるんだ。副部長がNOなんて言ったら許さないから。


 文化祭は五月二日が校内文化祭で、三日が外からの見学者もいれるんだ。父兄はもちろんだけど、OB・OGや、近所の人もいっぱい見に来るんだ。写真部は作品の展示とミニ写真教室、プリクラ・サービスとか記念写真がメインかな。


 三日のお昼の当番を副部長とアキコにして準備完了。お昼のチャイムが鳴り始めると同時にパフォーマンス開始。見学者を装ったユッキー先生と、コトリさんが不自然に立ち止まり


『Louder,Louder,Louder・・・』


 このメロディーが写真部の展示を行ってる教室に突然鳴り響き、


『I am staring of my window・・・』


 このメロディーに乗って麻吹先生が突然踊り込んでくるのよね。あれだけ足が良く上がると感心する。麻吹先生が不自然に立ち止まっていたユッキー先生と、コトリさんに手を懸けると、激しく踊りはじめるの。そこから次々に踊りの輪が広がっていくのだけど、


「尾崎なんやこれ」

「とりあえず撮っときます」


 というや否やミサトもダンスに加わっちゃう感じ。やがてパフォーマンスは、教室から廊下へ、


「行くで」

「まかせて」


 ユッキー先生とコトリさんの見事な連続バク転からのバク宙。


「南、どないなっとるんや」

「それが、わたしも・・・」


 突然踊り始めたアキコに副部長は目が点状態。その頃に廊下に赤いカーペットが敷かれて、写真部員は両側にスタンバイ。戸惑う副部長を引っ張り出して、カーペットの端に立たせて。もう一方の端にアキコ。音楽が終り、意を決したように歩き始めるアキコに、


「頑張って」

「絶対だいじょうぶ」

「わたしたちが付いてる」

「勇気を出して」


 副部長の前に立ったアキコは、


「今日は驚かせてすみません。でも、どうしてもアキコの気持ちを聞いて欲しかったのです」


 アキコの顔が緊張で真っ青だ、


「好きなんです。エミ先輩やミサトに較べたら可愛くないかもしれませんが、良かったら付き合って下さい」


 呆気に取られていた副部長でしたが、


「オレと・・・」


 ここでゴメンナサイなんてやったらマジで殺すと思ってたら、


「喜んで!」


 これが顔を真っ赤にしての大絶叫。副部長もきっと好きだったんだよ。この瞬間に『Every thing about you』が流れて、手をつないで照れくさそうにカーペットを歩く二人。そんな二人に左右からフラワー・シャワー、最後はもみくちゃにされて祝福されてる。すっとミサキの背後に麻吹先生が立ち。


「撮れてるか」

「ええ、もうバッチリです」


 う~ん、感動だ。完璧すぎるラブ・パフォーマンスが撮れてるはず。だって、これ演技じゃないのよね。アキコはこの日のために想いを重ね、副部長はそれをしっかりと受け止めてくれたんだ。これをモノにできなければ、カメラマンじゃないもの。


「ところで麻吹先生、費用は」

「気にするな。だからユッキーとコトリの参加を許可してる。おかげでバク転シーンを盗られてしまったからな」

「出来るのですか?」


 ニヤッと笑った麻吹先生は、


「ちょっと自信がない」


 これでアキコの恋も実を結んだし、写真甲子園の組み写真も撮れてるはず。それにしても、あんなドラマチックな告白が出来て羨ましいな。ミサトも彼氏が欲しい。でも彼氏にするなら・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る