ドキドキ!肝試しスタート!②
約束の時間ギリギリに待ち合わせの場所であるバス停に赴くと、羽虫が集っている街灯にぼんやりと照らされながら、長身の少年と小柄の少年が上屋の下で談笑していた。田畑と常史江である。彼らは千佳の姿を発見すると手を振って来た。裏山の姿はない。まあ、別にいなくていいのだけれど。
「こんばんわ千佳さん」
田畑がそう言って来た。彼の服装はというと、カップルらしきサングラス姿の若い男女のイラストが印刷されている白地のTシャツ(sonicyouth?とか書いてある)に、グレーのスラックス、だった。想像してたよりは、オシャレだなコイツ。失礼だけど。
で、一方常史江の私服はというと、チェックのポロシャツに色落ちしたジーンズ、という芋臭い出で立ちである。ファッションに全く関心がないのが一目瞭然だ。彼らしいと言えば彼らしいのだが。
とはいえ、自分が人の私服にダメ出し出来るほどファッションセンスに溢れた人間なのかというと答えはNOだ。なので記載しない。
「ういーす二人とも、あのバカは?」
「さっきから連絡を送っているんだが返事がない。あと15分程待ってみてそれでも来なかったらほっといて三人で行くとしよう」
常史江が携帯を見つめながら呟いた。ああ、早く15分経たないかなあ。こんなにも時間が早く経過してほしいと思った事はない。
「ところでどこに行くのかそろそろ教えとくれよ」
千佳が尋ねると、田畑は携帯の画面を彼女に見せつけてきた。
確認すると、辺りが木々に囲まれた、年期の入った感じのボロ戸建が映っていた。家中が蔦で覆われている。窓ガラスはほとんど割れており、中は薄暗く、不穏な雰囲気が漂っていた。
画像下の文章を読んでみると、○○駅から約10分との文字。何だ、随分と近いんだな。
「何でも昔ここで殺人事件が発生したみたいでね。それからしばらくして解体される事になったみたいなんだけど…解体工事中、従業員の怪我が続出したみたいでねえ。業者もビビっちまって、作業は中止になったみたいだよ。実際に行ってみた人も、体のどこかを怪我したりだの、女の姿を見ただの言ってるらしい」
田畑はひとしきり説明し終えると、ニヤリと笑い、携帯をしまった。
「どうだい千佳さん、考え直すなら今の内だぜ?」
「み、見くびるんじゃないよ。行くに決まってるじゃないか」
田畑の説明を聞いて内心怖気づいたのは事実だが、そんな素振りを見せないよう、千佳は強がって即答した。まあ、超能力者の常史江がいるので、心強かったのもある。
それから10分が経過したところで、向こうから長髪を棚引かせて見覚えのある男が現れた。千佳と犬猿の仲である裏山椎名だった。
全身黒づくめで、マトリックスのような地面スレスレのロングコートを着ていた。
気持ちわるっ。
彼は得意げな笑みを浮かべてこっちに手を振りながら歩み寄って来た。
「待たせたな、親愛なる友人達よ。髪形と身だしなみを整えるのに大分時間がかかっちまったぜ。悪いな」
言葉とは裏腹に彼の表情から反省の色は伺えない。まったく、自分勝手な男だ。大体肝試しに行くのに何故そこまで身だしなみに時間をかける必要があるのだ?
「これで揃ったね。じゃあ早速行こうか」
「歩いていくのもなんだし、コイツを使おう」
常史江がそうこぼすと、バス停の駐車スペースにシルバーのミニバンが突如出現した。常史江が能力で出したと考えるのが妥当だろう。裏山が素っ頓狂な声をあげた。
「ややっ!ぶったまげたぜ。こりゃアルファードか?それともセレナ?はたまたヴォクシー?」
「特に決めてない。最大8人乗りだ。俺は運転席に乗るからどこに座るかは勝手に決めてくれ」
常史江はそう言うと運転席のドアを開けた。
「ちょっと常史江。アンタ運転できんのかい?大体アンタまだ17…」
「大丈夫だ。コイツは自動運転機能に光学迷彩を搭載している。何も問題はない」
ふ、ふ~ん、便利なものね。
というわけで常史江が運転席、田畑が助手席、千佳が2列目の座席、裏山が3列目の座席という形で決定し、目的地へと自動で車が発進し始めた。内装は従来のものと何ら変わらない。室内の温度は丁度よく、揺れも少なく快適だった。
ただ一つどうしても気に障るのは、奴に後ろから眺められ続けなくてはならない、という点だ。これは正直かなりこたえる。
千佳がソワソワしていると、突然シートに衝撃を感じた。裏山が後ろから蹴って来たのだろう。
「ぎゃっ。何すんだいアンタっ」
千佳が振り向くと裏山は後頭部の後ろで手を組み、さらには足まで偉そうに組んでいた。
「今から寝るからよ、到着したら起こしてくれや。そ~っとな、邪険に起こすんじゃねーぞ」
「はあ?何で私がそこまで面倒見なくちゃならないのさ」
「あ~ん?人間国宝の俺様に意見するか?」
千佳と裏山が低レベルな舌戦を繰り広げていると、常史江がバックミラーでその様子を一瞥しながら言った。
「中良さそうだな。二人とも」
「そ、そうだね…」
田畑が気まずそうに返事した。
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