ガチで出る!!!??
ドキドキ!肝試しスタート!①
午後11時、所狭しと本棚が並ぶ一室で、寝間着姿の遠井千佳はまるで夢遊病者の如く、決して広いとはいえない部屋の中をただ行ったり来たりしていた。別に精神を病んだりしたわけではないし、催している訳でもない、この挙動は、千佳が小説の今後の展開に頭を悩ませている時、どうしても行ってしまう癖の一つであった。
耳元ではイヤホンから耳にタコができるほど聞いた作業用BGMが鳴り続けている。
デスクの脇にある小さいシェルフにはノートが満遍なく詰めこんであり、知らない人が見れば勉強熱心だなあ、などと感心されかねないがこれらは全て彼女の描いた小説だった。
千佳が延々と落ち着きなくああでもないこうでもないと模索していると、普段滅多に鳴る事はない彼女のスマホの着信音が鳴ったので、千佳は少々狼狽しながらイヤホンを外すと、潔癖症の人間が汚い物を触る時のような手つきでスマホを仕方なく手に取った。一体誰からだろうか?
画面を確認すると『田畑畑作』と表示されている。千佳はほっとしてすぐに電話に出た。
「はいもしもし、どうしたんだい田畑?」
「こんな遅くに悪いね千佳さん、あのー明日って予定あるかい?」
千佳はデスクに腰かけて明日用事があったかどうか思いだそうとしたが、出不精気味で万年暇人の自分に大した用事などある訳がないかと判断した。
「いや、特にないけど」
「そっか。ほら、せっかくの夏休みだしさ。みんなで肝試しでも行こうかなと思って誘ったんだけど、どう?いい感じに不気味な所を発見してさ」
肝試し、か。そんなの保育園のお泊り会以来やった事ないな。まあ、もしかしたらいいインスピレーションを得る事が出来るかもしれない。小説に活かせそうだ。
だが、安心するのはまだ早い。重要なのはメンバーだ。
「面白そうだけど他に誰がいるんだい?」
「ああ、僕と常史江君と…」
田畑は少し言いにくそうに呟いた。
「後、裏山君」
「げーっ!出た裏山。わたしゃあいつ嫌いなんだよ。それにアンタあいつの事許したのかい?」
「ま、まあ彼も反省しているみたいだからね…君はどうする?」
う~む、裏山がいなければ「行く!」と即答するところなんだがなあ…。まあ、しょうがない。せっかくの機会だ。夏休みを存分に謳歌しようではないか。
「ok。私も行くよ。待ち合わせ場所と時間は?」
「よかった来てくれるんだね。じゃあ22時に○○校の近くにあるバス停に集合で頼むよ」
電話を切った後もしばらく千佳はノートとにらめっこしたりしていたが、いつの間にかデスクに上半身を預けて眠りに落ちてしまった。
翌朝、千佳はやかましい目覚まし時計の音で目を覚ました。音を止めて半開きの目で時刻を確認する。午前8時。もう朝食の時間だ。千佳は気だるげに私服に着替えると、自室を出て階下に降りた。するともう既に母と父と弟が食卓を囲んでいた。
父は牛乳を飲みながら朝刊を読み耽っており、弟は携帯ゲーム機に熱中していた。彼曰く、三度の飯よりもゲーム、がモットーだそうだ。母はそんな弟に注意している。テレビではニュース番組が放送されてれいる。まあ、いつも通りの光景だ。
「…おはよ」
アンニュイな表情のまま、千佳は弟の隣に腰かけた。献立はどうやら白米に目玉焼き、ウインナー二本と小松菜に牛乳、といった感じだった。
「ちょっといい加減ゲームやめなさいよアンタ!」
最近小皺が目立つようになった母が弟に対して語気を強めて言った。怒るとより一層皺が目立つ。
「わかったわかったってすぐ終わるからマジで」
しかし一向にやめる気配は無い。
「ちょっとお父さんからも何かガツンと言ってやってよ!」
聞き訳がない息子に痺れを切らしたのか、母が父にそう言った。
「えっ?い、いや…別にまあいいんじゃないの?はは」
父はしどろもどろでへらへらした様子でお茶を濁すつもりのようだ。父はかなりの恐妻家だった。
千佳は何気なくテレビを確認した。
「速報です。本日午前7時過ぎ○○市○○町の民家で×××子さん(24)がベッドの上で死亡しているのが発見されました。遺体には刃物で刺されたとみられる箇所が複数あり、警察は殺人の可能性も視野に入れ捜査しています。部屋には争った形跡はなく……」
「嘘~!この街で?怖くて外歩けな~い!」
母が年甲斐もなく甘えたような声を出した。全員が無視した。
しかし、これは大ごとだ。特にひっかかるのは部屋に争った形跡がないという点だ。ナイフで一度でも刺されればきっと誰だって痛みで大暴れするだろう。なのにそういった形跡がないというのは不可解だ。まさか、また新たな超能力の仕業なのだろうか?その可能性が0ではないのが恐ろしい。何にせよそんな事をする頭のおかしい輩はとっとと捕まってほしいものだ。もっとも犯人が超能力者ならば、ちょっとやそっとでは捕まらないだろうが。
「あ~私今日友達と約束あるからさあ…。ちょっと帰り遅くなるかも」
「あの背の高い彼氏と会うんだろ?姉ちゃん」
「はあ?」
千佳はどぎまぎした。このガキ、一体何を言い出すんだ?
「この前TSU〇AYAで一緒にいるの見たぜ。デレデレしちゃってさあ姉ちゃん。見られたものじゃねえよ。なあ、あの兄ちゃんとどこまでいったのよ?」
「う、うるさいんだよこのマセガキ!アイツはただの友達だよ!いいから喰え!食わんか!」
そう叫ぶと千佳はムキになって半ば無理やりウインナーを弟の口に突っ込んだ。
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