謎の美少女、花野香織、その秘密!!!!!

いまじなりーふれんど

男は教師を務めていた。授業のカリキュラム作成、テストの採点、そして教員会議を行ったりと、実に多忙な日々を送っていたが、有意義な仕事だと感じていた。そして同じく教師を務めていた女性と結婚した。きっかけは飲み会だった。男は軽妙且つ、軽薄なトークで彼女を魅了し、二人はあっという間に意気投合した。お互いのフィーリングがピッタリ、というやつだった。酒の勢いもあってか、二人は二次会を終えると、そのままホテルに直行した。部屋に入ると、彼女はシャワーも浴びず、おもむろに服を脱ぎだした。男は辛抱溜まらず舌なめずりをすると…閑話休題。とにかく性格だけではなく体の相性も最高というのがよくわかった。男は一夜にして彼女の虜になった。

そんなこんなで彼女は妊娠した。そのまま彼女は仕事をやめた。男はより仕事に精を出した。次第に学校のガキ共の相手をするのが煩わしくなってきていたが、家に帰れば彼女が待っている。男はそう考えて自分を鼓舞させた。そのうち、彼女は出産した。女の子だった。成長していくにつれ、母親似である事が見て取れた。

男は目に入れても痛くないといった具合でその子を溺愛した。学校の小生意気なガキ共とは、月とすっぽんだった。同じ生き物とは思えなかった。

しかし男にも悩みの種が訪れた。その子が幼稚園に入園すると、時折誰もいない空間に向かって会話することが増えたのだ。男はそんな事はやめろ、と注意したが、何度言っても治る気配はなかった。男はその内、飽きてやめるだろう、と気にも留めなくなった。

そんなある日、男は娘と同じ園に通う男子が怪我をしたという話を聞いた。遊具から落ちたらしい。娘はその場に居合わせていたらしく、クロ、という人物がやったと男に伝えた。怪我をした男子は娘をよくからかっていたらしく、それに腹をたてたクロが滑り台から男子を突き飛ばした、というのだ。しかし、クロなどという園児はいなかったし、あだ名のようなものでもないようだった。他のその場に居合わせていた園児達も、その子が自分でバランスを崩し、滑り台から落下した、と言っているらしい。娘は少し妄想癖があるのかもしれない、と男は思った。だが時が経つにつれ、娘がそのような不可解な言動をする事はめっきりと少なくなった。男は胸を撫でおろした。やはりあれは幼少期特有の妄想だったのだな。なんでも小さい子供はイマジナリーフレンドを作る傾向があると聞いたことがある。

イマジナリーフレンドというのはもちろん架空の友人の事であり、人付き合いが苦手な子供に起こりやすい現象らしい。娘は内向的な性格なので、きっとそれを発症させたのだろう。

男はそう断定した。


更に数年が経ち、娘は美しく成長した。男は父として鼻が高かった。やがて娘も親元を離れ、嫁ぐ日が来るのだろうか。何年先だろうか。できれば永遠にそんな日はきてほしくないなあ。男はそう思いながら年甲斐もなく枕を濡らした。妻はおいおいと泣く男のそんな姿を見て呆れ果てた。

しばらくして、男は夜に娘の部屋から話声がするのに気付いた。まさか、男でも連れ込んでいるのではあるまいな?そう勘ぐって男は鼻息を荒くし、目を血走らせ、涎を垂らしながら部屋のドアに近づき、耳をそばたてた。取るに足りない下らん男が娘と同じ部屋に二人きりでいるなど、男には看過出来なかった。そんな光景を見たら、自分は何をしでかすかわからない。最悪、明日の朝刊に自分の名が乗ることになるだろう。だが、部屋からは娘の声しか聞こえてこなかった。男は娘の悪癖がまだ続いていたとは、と驚いた半面、男を連れ込んでいる訳ではない事がわかり、品のない笑みを浮かべた。

中学生にもなって下らんマネはよせ、そう伝えようと、男は心を鬼にし、娘の部屋の扉を開けた。その時、男は奇妙なものを部屋の中に見た。

机に座る娘と向かい合って、全身が黒い靄で出来た人間が立っていた。

そいつの顔には目も鼻も口も無く、凹凸が存在しなかった。そいつは男の存在に気付いたのか、顔を男の方に向けると、一瞬で部屋から消滅した。男は背筋が凍った。見てはいけないものを見てしまった感覚。全身から嫌な汗が噴き出した。部屋の入り口で男が立ち尽くしていると、娘が言った。

「どうしたの父さん、勝手に入ってこないで」

まるで何事もなかったかのような口調。男は張り付いた表情のまま、逃げるように無言で部屋を後にした。心臓の動悸がまだ収まらない。あれは一体何だったのだろうか。幽霊だとか悪魔だとか言ったオカルト的な存在に否定的だった男には、受け入れられない光景だった。仕事に追われ疲労した事によって幻を見たのだろうか?いや、きっとそうなのだろう。そうに違いない、男はそう何度も心の中で唱えた。そう思っていないと気が触れてしまいそうだった。

だが今後、また娘の部屋から独り言が聞こえたとしても絶対に中には入らないぞ、男は心にそう誓った。

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