第5話 閉ざされた部屋

 言葉通り、咲は見事一年生レギュラーになった。だが、咲の部屋のドアは私の目の前で閉ざされている。


「咲、私だよ。開けてよ」

 まるで、防音室となって私の声が跳ね返されているようだ。


 光があれば強ければ強いほど、影もまた大きくなる。

 そして、人の心は外見ほど美しくない。


 幸せそうに見えた咲の顔に翳りが見え始めたのは、いつからだったろうか。もし、中学生時代のように頻繁に咲の部屋を訪れていたら、もっと早くどうにかできていただろうか。


 世間で注目を浴びた咲と、特に変わり映えのしない私は疎遠になっていたが、先日、咲の母親から咲が半年前から引き籠っているとの連絡を受けた。私は居ても立っても居られず、咲に会うために咲の部屋の前に立っている。


 目立つ生徒に対するやっかみ、十代の女の子特有の恋愛事情など、いじめの種などいくらでも存在する。そして、学校のような人間関係が密で閉ざされた世界では、あっという間に悪意が育ち、未熟な女子高生の心など簡単に壊れてしまう。


 他人の不幸は蜜の味。輝けば輝くほど、その存在が堕ちる姿は周りの人間の邪悪さを満たすのだろう。


 咲は高校を中退した。もう、外に出ても咲を傷つけるものはいない。だが、壊れた心は簡単には修復できず、ひび割れた心は、新たな力が加わらなくとも、そのひび自らが時とともに大きくなる。すべてが砕けちるまで。


「少しでいいから、話をしようよ」

 私は何か返事が来ないかと耳をすませる。だが、まるで無人の部屋であるかのように物音一つしない。


「ねぇ、大丈夫」

 私はドアをノックする。すると、気のせいか、私の耳にかすかな泣き声が聞こえた。


「咲!」

 自分の心臓がドクンと鼓動が強くなるのを感じ、私の声が、知らずさっきよりも大きくなった。


「開けて!」

 いったい何が私を不安にさせるのかわからないが、ドクン、ドクンと私の鼓動がますます強くなる。


「開けるよ!」

 私はがちゃがちゃとドアノブを回す。ドアには鍵がかかっているが、私の直感が何かがおかしいと私をせっつき、力いっぱいドアノブを右へ左へと回す。


「咲!」

 私は右手でドアノブをしつこく回しながら、左手でドアを強く叩き続ける。それでも、私を拒み続けるドアを力づくでこじ開けるため、渾身の力を両手にこめてドアノブを捻じった。


 運動などやったこともない私だが、限界まで力を振り絞り、ついに、バキッという音がし、ドアの鍵が弾け飛んだことを頭の片隅で捉えながら、ドアを開け放った。





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