第3話 青い部屋

「また、部屋の模様替えしたんだ?」

 咲の部屋に入ると、鮮やかなブルーに全身が包まれた。

「来年、高校だからね。ピンクは卒業した」

 濃いブルーの壁と、薄い空色の家具、そこに白いアクセントが入り、爽やかなギリシャのリゾート地のようだ。海風と波の音が聞こえてくる。


 昔、部屋中に散乱していたぬいぐるみの類はすべて無くなり、ローボードの上には写真が飾られている。棚の中にはファッション誌、部屋の中央にはローテーブルがあり、セットのソファにはシンプルな無地のクッションと、飲み物をサーブしたらお洒落なカフェになるだろう。


 私と咲は小学校を卒業後、同じ公立中学に通っている。咲の第一志望は名門の私立中学だったが、残念ながら合格とはならなかった。しかし、高校受験では成功し、来年から編入だ。そして、私は家の近くの公立高校に行く。経済格差が教育格差につながることは、中学生になれば誰だって知っている。


「この部屋にも、あんまり来れなくなるね」

「休みの日には遊びに来てよ」

 半分は社交辞令だということは、お互いにわかっている。咲が行くお嬢様学校と私が行く公立高校では、住む世界が違う。咲が高校で友達を作れば、私が入るスペースなど存在しなくなる。


 もし、母が若くして死ななかったら私も咲のような人生を歩めたのだろうか。いや、多少は家計にゆとりができたとしても、たいした違いは無かっただろう。机やベッドがワンランク上がっても、咲のような部屋には住めない。


 私の代わり映えのしないグレーな人生と違って、きっと、咲はカラフルな人生を歩むのだろう。黄色、ピンク、青と、彩られてきたこの部屋のように。

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