包囲
4月26日。
僕らは旅の準備と世話になった面々への挨拶回りを終えると、本土への帰還の旅へと出発した。
翌日の4月27日。
道中に少々アクシデントはあれど、函館までは思っていたよりはあっさりと辿り着いた。
しかし、ここで僕らは大きなヘマを冒すことになる。
「走れ、走れ!」
「だめだ、もう息が……」
油断した。
まさか漁港にこんなにゾンビがいるとは。
ゾンビは昼間は陽のあたらない場所でジッとしている習性がある。
流石に獲物を認識すれば追いかけてくるので、陽光は決定的な盾とはなってくれないのだが。
小型の漁船をいくつかエンジンをかけようと試したときの音で、大量のゾンビを呼び寄せてしまったらしい。
ワラワラとそこら中の影から現れるゾンビ。
ゾンビの習性のひとつに、帰巣本能の様なものがあることが分かっている。
「自分の家」もしくは「自分の居場所」と生前に強く認識した場所に帰ろうとするのである。
後で思えば、このゾンビの集団は本土からの旅行者や僕の様に仕事で来ていた者で、自宅に帰るために本能的に本土に最も近いココに集まったのかもしれない。
流石に海に入れば死ぬくらいは理解してるのか、ココに辿り着いたは良いが、海を渡ることができずに留まっていた状態ってところか。
そんな場所に、僕らは無防備で踏み込んだのだ。
一体一体は大したことのないゾンビではあるが、流石に百人規模を相手にすることはできない。
数の暴力ってやつだ。
奴らはのろのろと歩くだけだし、時々走ることができる個体もいるがせいぜい小走り程度のスピードしか出せない。
しかしながら、大量に四方八方から現れるので逃げ場が限定的となってしまったのだ。
乗って来たハイブリット車周辺には結構な数のゾンビが集まってきていて、もし乗り込むことができても囲まれて身動きできなくなるのは目に見えている。
僕らは比較的ゾンビの数が少ないと思われる方向に向かい、包囲網が完成する前に逃げ出そうと全力疾走しているところだ。
「うおぉぉぉぉ!!」
バキッ!
僕は目の前に迫ってきたゾンビの足目掛けて鉄パイプをフルスイングする。
ゾンビは例によって頭……脳を破壊すれば死ぬ。
しかし、一撃で潰すとなると結構大変で、どうしても数発殴らないことには頭蓋骨は割れてくれない。この状況ではとても無理だ。一、二体
だから、動きを止めることを第一に考え、足を狙っているというワケだ。
「ああっ、危ない!」
「えっ!?」
周囲にはゾンビはいない。
しかしながら、僕は反射的に足の動きにブレーキをかけた。
バーン!!
直後、空から目の前に人が降ってきた。
状況と風体的にゾンビだろう。
倉庫の上階から降ってきたらしい。
見る見る広がる赤い液体。
手足は不自然な方向に折れ曲がり、ぴくぴくと痙攣するフライングゾンビ。
危なかった。
おっさんが叫んでくれてなかったら、飛び降り自殺の巻き添えを喰らってるところだった。
海に入れば死ぬと理解してるっぽいゾンビでも、高所から飛び降りたら死ぬということは理解できないのだろうか。よくわからん。
「助かった!! 行こう!」
僕らは再び走りだす。
とりあえず、このままのペースなら包囲網は突破できそうだ。
ここを切り抜ければ、ゾンビの移動速度なら暫くは僕らに追い付くこっとはできないだろう。
……なんて思ってたときである。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
突然の絶叫。
ギョッとして振り返ると、おっさんが転んでいた。
「た、助けてくれえぇ!」
いや早く立てよ、と一瞬思ったのだが、彼の視線の先を見て理解した。
転んだのは、先程落ちて来たフライングゾンビに足首を掴まれたことが原因だったのだ。
なんて迂闊な……、しかし、ゾンビの転がってるところは脱出口への最短距離であることは間違いないし、まさかまだゾンビが生きているとは僕でも思わなかった。
しかしながら、それは悪手であったようだ。
「おい、早く蹴って振りほどけ!」
「ダメだ、足を捻った!!……う、ぎゃあぁぁぁ!!」
ぐずぐずしている間に、ゾンビはとうとう、おっさんの足に噛みついてしまった。
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