絶望

「あの日」


2019年12月15日。

世界が終わった日。

そして、狂った世界が始まった日。


原因はいまだに不明。

大半の人々が、一夜にして昏睡状態となったのだ。

もちろん、交通機関や政府機能等の社会活動が崩壊したことは言うまでもないだろう。


昏睡状態にならなかった我々も大混乱だ。

運がいいのか悪いのかはわからないが、我々は圧倒的に少数だったため食料は商店に残された缶詰とか生活物資は十分に行きわたったのだが、圧倒的多数である昏睡状態の人々を治療するどころか面倒すら見れない。

要するに、大半の人々は見殺しにするしかないと勘付いた時の絶望は半端なかった。


そして、更に思いもよらない事態が発生する。

数日後、昏睡状態であった人々の一部が、目覚め始めたのだ。

これの何が問題かって、ただ目覚めたわけではない。

俗に言う、ゾンビとして目覚めたのだ。

……そう、人を襲って喰らって仲間を増やす、アレである。


ゾンビと行っても映画みたいに脳のリミッターが外れてて怪力だとかオリンピック選手並みに足が速いと言うわけでなく、肉体の代謝・自我が大きく低下し、すべての生物を食料とみなして手当たり次第に襲うということ以外は普通に人間だ。

この辺りは、避難所にいた医者の見解の受け売りなんだけどな。


そのゾンビだが、自我が低い故に頭も悪くただ真っすぐに突っ込んでくるだけなので対処に慣れれば脅威ではない。


ただ、ファーストコンタクトは最悪だった。

昏睡状態だった家族や恋人が目覚めたと喜んでいるところにガブリ、である。

その騒ぎでただでさえ少ない無事だった者も何割かは死んだか、ゾンビの仲間入りとなった。


僕はそのとき、札幌にいた。

3泊4日の出張の途中だったのだ。

半狂乱だったよ。

東京には結婚3年目の妻と、2歳になる娘を残してきたからだ。


帰る手段はない。

公共交通機関なんて機能してないし、外は先日から降り始めた雪が積もっている。除雪車なんて社会機能が死んでるからやってこないので、車もバイクも走らせれない。


携帯も繋がらない。

呼び出しの音はするのだが、妻は出てくれなかった。

数日は繋がっていたのだが、妻の携帯が電池切れを起こしたのか、それを伝えるガイダンスが流れるだけになった。

そして更に数日後は、電話回線自体が死んだ。

と言うか、電力供給自体が死んだのだ。

そりゃそうだ。水力発電や原子力発電なら多少は持つだろうが、火力発電の場合は燃料を投下する人がいないのだ。これだけの期間もっただけでも奇跡だ、と誰かが言ってたな。


こうして僕は絶望の中、雪が溶けてなくなる4月中旬まで札幌の避難所……札幌コミュニティに釘付けにされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る