-第三章- 隣の蔦に誘われて




高台にある閑静な住宅街に住む、

駅からも港からも離れた所。


縁が無いのか有ったのか、

出戻った結果ここに居る。

隣近所は土地柄も良く人も良く、

特に困る思いはしていない。

海沿いに住み慣れていた為か、

気分次第の風と語る事があるくらい。


雨季も過ぎて団扇と風鈴が似合う頃、

花火も上がるが煙に巻かれて見えず終い。

同じ港町でも自然と暮らせば、

たわいのない事に気を回す。

四季を風と匂いで感じる癖がある。

生まれ育った所が、

山や田んぼばかりの場所だから。

得か損かは人知れず、

人が生きる大切さだとここに居る。


転居前でも隣近所は気になった。


住み慣れれば生活音も自然の音になる。

運が良いのか悪いのか

向こう三軒両隣は、

宅地面積は広々として良く思うが、

人が良くも癖は人一倍。

たまに聞こえる痴話げんか、

聞きたくないがヒトノサガで地獄耳。

内容は興味が無いし他人事、

風と匂いを気にする暮らしと比例する。


夫婦たるもの〜何とかで、

隣の庭は大きく思う。

かかあ天下か亭主関白、

蔦が目立つお隣は前者の様だ。


ここに暮らして、時が過ぎ数年が経つ……


自然の音だった痴話げんか、

今は二人の声はしない……

二年おきに亡くなった。

はじめは元気なおばあちゃん、

丁度飼い猫が、逃げ出した時。

翌々年には大人しいおじいちゃん、

おばあちゃんがそろそろおいでと

死魔に代わって迎えに来たのかな?


気分屋の風が蔦を揺らす音だけがする、

亡くなってまだ数週間しか経っていない。


ひと気が無いのを知ってか、

お迎えの後でわかるのか、

野良猫たちが彷徨く様になる。

家族親戚と片付け業者の出入りそれ以外、

蔦の絡まった倉庫に住みつく猫も居る。

大嵐も今年は多忙な時で、

週おきにやって来る。

そんな中の雨宿りか持って生まれた本能か、

猫たちの行動はとても不思議に思う。


死魔の姿を感じるのならば、

或いは、あの世の二人がわかるのならば

一つ聞いてみたい事がある。


蔦の家の老夫婦はあの世では相変わらず、

痴話げんかしているのかな?と。



令和元年

長月のある月夜の晩に、

窓の向こうの

隣の蔦の野良猫を眺めながら……




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