-第二章- 隣の蔦が枯れる頃




暑い日差しに乾いた風が吹く、

騒がしかった蝉の音が鎮まると

飼い猫が失踪して帰るまでを回想する。


その珍事件は十日間、

丁度隣のおばあちゃんが亡くなって

通夜と葬儀と重なった時。


おばあちゃんが亡くなったとは知らず、

リードを付けたまま帰らずの日々は

ぼくら家族を困惑させた。


無事に帰って来た季節、

あれから二年の月日が流れた……


色々あり過ぎてこの暑さで、

今は猫もぐったりと疲れて寝ている。


おじいちゃんもおばあちゃんも

夫婦だけで暮らして居た。


おじいちゃんが残されて二年が過ぎ、

おばあちゃんの三回忌も無事に済み

それを境に身体も悪くなり

介護のお世話と遠方からの家族が支えたが、

今日未明亡くなった……


おばあちゃんが亡くなった時と

同じ顔ぶれの葬儀の中、

二年前に逃げ出した猫が窓際で

じっと外を見ながら顔を洗って居る。


葬儀も出棺になる頃、突然の雨が降る。


それまでしんみりと泣いていた参列者たちは

急いで傘を差す者や、

そのまま雨にうたれて佇む者と。


九十年間住み慣れたこの家から、

離れるのが寂しくて降らした雨。


それとも、

おばあちゃんとあの世で会えて

再会したと報告の歓喜の雨。


息子さんやその子供たちが

馴染んだ家に大勢駆けつけてくれた、

嬉し涙の雨。


窓際の猫は、顔も洗い終えて欠伸する。


二年前を思い出し、

猫は人には見えないものが分かるらしい

猫にも二年前を回想している。


もう逃げ出すこともしなくなった、

家から出ても辛い思いをするだけだった。


雨はまだ止んでいない。


枯れた蔦の葉が雨にうたれて

一枚、二枚と静かに落葉する。


今日は節気の処暑だった、

二年前の倉庫の蔦の葉とは違う色。


猫ならず植物にも、

この雨の想いが伝わっている。


おじいちゃんが手入れした、

庭の小さな畑も荒れている。


土砂降りの雨の中、

乾いた風が背高の緑を揺らしている。


土弄りが好きなおじいちゃんだった。


自然も出棺を黙って見送る雨の中、

蔦の葉だけは揺れずに落ちていく。


あくる日、

塀を越えて落ちた蔦の葉を竹箒で

俯き静かに集めてる、

リードを付けた猫を抱えて。


おじいちゃん、おばあちゃん、

一緒にあの世で安らかに……




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