[3-5 side dy side]翼の少女は未来のいつかを思いえがく


「ふぅん、サボテンのステーキって美味しいんだねー。最近の流行りだっていうのは聞いてたけど、はじめて食べたよー」


 お師さまはサボテンって植物を知ってたみたい、さすがだなって思う。

 酸味があって歯ざわりの良い食感に、チーズのまろやかさとソースの甘酸っぱさが絡んで、すごく美味しい。

 手際よく作ってくれたリュカさんも、きっと料理の腕はプロ級なんだろうな。


 リュカさんとサボテン談義に花を咲かせるお師さまの横で、ジウさんは二本の長い棒のような道具を使ってサボテンを口に運んでた。

 はじめて見る道具だけど、指づかいが複雑すぎてまるで手品みたい。

 シオンさんは今まだ療養中なので、もう少ししたらお師さまが卵スープを届けてみるって。症状があまり重くなければいいのだけど。


 私も、リュカさんやシオンさんみたいにササッと料理をしたり、お師さまみたいに薬の調合や看病ができるようになりたい。

 でも、今の自分すらよくわからないのに、将来を思い描くなんてできそうになかった。

 

「メルト、どうしました? 何か変なモノでも入ってましたか?」


 つい手をとめ物思いにふけってしまった私を心配したのか、隣のリュカさんが心配そうに覗きこんできた。

 優しげなブルーの目が瞬いて、ゆると首を傾げた拍子に白銀の髪が肩を滑ってく。

 その所作を見たら、私の胸の奥がまたくらりと揺らいだ。


「だ、大丈夫です。ちょっと考えごとを、し、してただけでっ」


 自分でもよくわからない動揺を悟られたくなくて、普通の顔で返事したつもりだったのに、思いっきり噛んじゃった。なんかもう、すごく恥ずかしい。

 私はどうしていつも、こんなになっちゃうんだろう。


「そうだねー、ご飯食べながらだけど、今後の方針も決めておこうか」

「え、その前にジウさんに事情を説明した方が良くないですか?」

かしこまらんでいいと言っておるではないか。おれなら薬草狩りの際に詳しく聞かされたわ。随分と厄介な事情を抱えておるようだな、お前たち、というよりはエメルティアが、か」

「畏まってなんか……って名前ですか? じゃ、ジウって呼びますね」


 お師さまはもうジウさんにいろいろ話していたみたい。ってことは、私のせいで火竜がきて森を焼いたことも知られているんだ……。

 いたたまれない気分でうつむいていたら、リュカさんがそっと手を重ねてきた。にこ、と優しく笑いかけてくれる。


「メルトは何も悪くないんですから」

「そうそう、向こうは向こうの意図があって仕掛けてくるんだしね。それに、シオンの事情だってあるし」


 リュカさんとお師さまが言ってくれて、その優しさに私はちょっと救われた気がした。

 そういえばシオンさんも、王様から無理難題を言いつけられていたんだっけ。


「ああ。お前が気にする事ではないぞ、エメルティア。それにおれ自身も、あの竜とはまだ勝負がついておらんしな」

「ありがとうございます。……リュカさま、お師さま、ジウさま」


 目の奥がじんと熱くなった。

 みんなの優しい気持ちにこたえるため、くよくよ考えるのはやめよう、って思う。

 私は私の、できることを――……。


「シオンが回復したら、明日は彼を連れてちょっと調べ物をしてくるよ。相手の名前もわかったことだしね」

「ならばおれは物資の調達に行こう。攻め入るにも迎え撃つにも、いくさ前の準備は万端にせねばな」

「え、ジウも一緒に戦うんですか?」

おうよ。奴め森厳しんげんなる樹海を気軽に燃やしおって。相応に懲らしめてやらねばな」


 みんな、今後に向けた準備を手わけしてするみたい。

 私はいつもならお師さまについてゆくのだけど、どうしたらいいのかな。

 なにを言うべきか迷ってる私を、お師さまが見た。両目を細め、口の端をつり上げて、いつもの笑顔で口を開く。


「メルトはリュカと、図書館に行ってもらえる? 明日の朝にリストを渡すから、ソレを二人で調べてきて」

「図書館、ですか?」


 当たり前だけれど、私はルーンダリア国をよく知らない。

 リュカさんなら知ってるのかなと思って隣を見あげたら、彼はブルーの目をキラキラさせて勢いよく椅子から立ちあがった。


「はい、了解です! 図書館ならよく知ってますから、任せてください」

「よろしくねー。ついでに二人でお昼も食べてきたら?」

「え、ええ。そ、そうですね! そうします!」


 リュカさんも、焦ったときとか緊張したときは私と同じような噛みかたをする。そんな彼を見ていると、心の奥がほわっとあったかくなる気がするんだ。

 いっしょに図書館で調べ物をして、お昼はどこかで。

 楽しそう、って思った。


「よろしくお願いします、リュカさま」

「はい! 大丈夫ですよ、任せてください!」


 まっすぐ向けられた満面の笑顔につられて、私もつい笑っていた。

 リュカさんの言う「大丈夫」には、不思議な力がある。優しく紡がれるその声の響きは、私の中の不安をやわらかく包んで消し去ってくれる。


 いにしえの火竜につけ狙われてる私がいつまで生きていけるか、私自身にもわからない。

 でも、叶うなら。

 この優しいひとに、最後まで一緒にいてほしいって思った。


 お願いです、どうかもう。

 私を――置いてはいかないでください。



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