籠の中
夢を見た。
栞は真白なシーツのベッドに横たわっている。そこに誰かが座る。董子だ。先生、と甘えるような声を出して絡みついてくる。それをとらえようと栞はするが、触れる寸前で董子が白い薔薇の花びらとなってさっと散ってしまう。
何度も何度も現れては、触れようとする度に散ってしまう。
ああ、そういう関係なのだと栞は悟る。今まで栞が築いてきた関係は、櫻ノ宮という限られた閉鎖空間でのみ成り立つことの出来る関係なのだ。世間どころか、あの隔絶された世界から一歩出ただけで栞と董子の関係は崩れてしまう。
その内に栞の目から涙がこぼれる。触れたかった。燕城寺董子という少女に触れ、抱きしめたかった。それでも、それはもう叶わない。
陽炎のようだ。いや、もしかしたら彼女は本当に陽炎なのかもしれない。そのくらい彼女は儚い存在だった。
場面が暗転する。
見たことのない景色。日本じゃない。広い道に、小洒落た平屋の一軒家が並ぶ。どの家にも広い庭があって、青々しい芝生が敷き詰められている。空が痛いくらいに青い。
一つの家のドアが開く。中からは朝に訪ねてきた燕城寺詩織が出て来た。後ろにいる誰かに話しかけているようで、笑いながら家を出てくる。でも、彼女は一人だった。後ろには誰もいない。
悟る。そこにいるはずなのは董子なのだ。だけど、彼女はきっとそこでは生きてはいけない。燕城寺董子という人物はそんな開放的な場所では華を開かせられる人物じゃない。
彼女の持つ儚さは、手入れのされた小さな箱庭でのみようやく花開く、幻想と言っても良いくらいのものに違いない。広々とした場所で咲き誇る董子など、それは燕城寺董子であって燕城寺董子ではないのだ。
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