嵐の前

 一月は行く。二月は逃げる。三月は去る。

 そんな言葉の通りに年明けの三ヶ月は過ぎていった。もちろんそれなりに学校の行事はあるわけだが、ほぼ全員が中等部から高等部、高等部から櫻ノ宮の大学に推薦進学するだけのここでは世間で言うところの受験戦争とは縁がなく、それこそ二月八月の荒れる海とは正反対の凪いだ海のような様相を呈している。

 寮では高等部三年……櫻ノ宮では六年生と呼ばれる生徒たちが退寮するのを見送る小さな式があり、先輩と仲の良かった生徒たちはどこか胸にくるようなものがあるようだった。女子高ではよくある話だが、時に友人や先輩後輩という仲よりもう一歩踏み込んだ関係になる子たちが存在する。彼女たちにとっては大きな出来事の一つなのかもしれない。だが、それもまた彼女たちを成長させる糧となるのだろう。

 そんな中、栞と董子の関係は変わらなかった。

 血を与え、唇を重ねる。栞の恐怖はまだはっきりとそこにあった。あれからも何度か董子は遊ぶように栞を誘ってきたが、栞はそのどれもに乗らなかった。董子の中に秘めてある原風景が壊されることだけが恐ろしかった。しかも、身体の関係を拒めば拒むほど、董子の中にある白銀の世界は一層の輝きを増したのではないかと思えたほどだった。

 しかし、このままの関係が続くことが良いことかどうかは栞にはわからなかった。来年には董子は中等部を卒業し高等部へと入る。寮を出るわけではないから関係はそこまで変わることはないかもしれない。

 けれど、大学になったらどうなる?

 そして、その先は?

 董子の世界はどんどんと広がっていく中で、もし今と変わらず栞に執着していれば、それは大きな枷となるだろう。

 随分勝手なものだと栞自身思う。

 自分というカゴに閉じ込めてしまいたいと想い、しっかりと繋ぎとめている。しかし、彼女が本当に欲しているものは与えない。それでいて、その先のことを心配しているなど身勝手にもほどがあると栞にもわかっていた。

 そんな中、その人物が櫻ノ宮を訪ねてきたのは咲いていた花が散り、桜がすっかり葉桜になった時だった。

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