# 5. 禁則事項です

「で、そのタコはどこへ消えたのだ。殺ってはいないのだろう?」

「ぶつかったのはタコじゃないんだけど。ぶつかった子は、あなたが気絶している間にどっかに行ったわよ」

「ふむ。その行儀の悪いタコ、懲らしめる必要があるな」


 今までベンチに座っていたのだけど、突然立ち上がった幼なじみを私はなだめにかかる。


「しなくてよろしいし、ぶつかったのはタコじゃないし、ちゃんと謝ってくれたから!」


 このノリのこの子、なんか余計なことしそうで怖いんだけどー!


「俺は謝られた記憶がない」

「そんなこと言ったら気絶させられた記憶もないんでしょ!」

「ごもっとも」


 説得すると、案外大人しくうなずいた。


「残念だ。タコを倒し、あわよくばもっとタコ焼き食いたかった」


 かと思えば漏らした本音は、なんか可愛げがある。


 食いしん坊かな?


「帰るときに買ってあげるから、大人しくしててね……」

「そうか。であれば、期待している」


 わくわくした表情で見られて、私はちょっとたじたじになる。


 そういえば。


「ねえ転生者さん、聞きたいことがあるんだけどね」

「なんだ。悪いが俺がもといた時代のことを話すことはできない。機密にあたる」

「まだ何も聞いてないから」


 それにさんざん喋ってたじゃないの。


 ろくじ何とかタコとか。

 長くて名前覚えられなかったんだけど。


「それで、なんだ?」

「私の名前、知ってる設定?」

「……設定も何も、知らないんだが」

「むう」


 聞いたの私だけど。

 演技だったとしても、きょとんとした顔で私の名前を知らない、とか言われると、ショックが大きいんだけど……!


「知らないなら、気軽に私と話してるけど、警戒しなくていいの?」

「する必要があるのか?」

「だってどこかの時代から来たって設定でしょ?」

「いやだから設定では」

「この時代で何かやることがあったんじゃないの?」


 ああでも、最初に「ここはいつだ」って聞いてきたから……。

 もしかしたらどの時代に行くかは狙いをつけていない設定?


「そんな気軽に干渉して大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない」


 その、何が大丈夫なのか全くわからなくて不安になる回答、やめてくれないかな。


「はあ、そう」

「だが、この時代においてはお前を頼るのがいい。いまのところ、直感でそう感じた」

「その直感、信じていいの?」

「どうにもならないときは、直感に従うと決めている」


 それ、無計画って言うよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る