TDB(トラブルドッグボーイ)

@kunisawaissei

第1話


2019年4月

唯一の娯楽であるラジオから流れてくる声は、自分達の笑いを信じ貫いている同世代だった芸人達…


窓からタバコの煙をため息混じりではき、星空に消えゆく煙を見ながらこう呟いた


「俺の進んでいる道は正しいのか?」



いや、待てよ…


そもそも正しい道なんか進んだ事がない…


人生の別れ道では間違いなく大変な方を選び、付き合う彼女はだいたい「私死ぬ!!」と包丁を持ちだしたり、「殺す」と包丁持ち出したりするメンヘラばかりで、更に思い返せば約20年前の中学の入学式で前に並んでいる坊主の生徒をいじって遊んでいたらその生徒と喧嘩になり、その後知ったがその相手が地元で超がつくほど有名な生粋のヤンキー兄弟の末っ子で、すぐに噂が広がり「気合入ってるやつってお前か」とヤンキーの先輩達にベタに体育館裏に呼び出され、何故だかわからないけどヤンキー達に気に入られ、「これやるから明日から着てこい」と短ランボンタンを渡された。

断りきれずに翌日に着ていくと「お前なんだその格好は!!」とすぐに先生に見つかり、これは脱ぐチャンスと思ったら2階の窓からヤンキーの先輩達の視線を感じ、全然思っていないのに震えた声で「うるさいんじゃボケ」と先生の腕を振りほどいた…

もちろんそれは後戻りできない道を自ら選んでしまうことになり、グレたくないのに、世間や親になんの不満もないのにヤンキーの仲間入りをすることになってしまった…


挙げ句の果てには「こいつお前のこと好きやねんて付き合ったれや!どうや?」と先輩に言われ、「…えっ…あっ…はい…」とこたえてしまい、付き合うことになったのが、僕の人生の初彼女…

その彼女は二つ年上で、いつも骨を加えた犬が刺繍されているジャージを着て、何故か前歯が欠けているヤンキー女子…


そして僕のファーストキスは、いつも骨を加えた犬のジャージを着て、何故か前歯が欠けているヤンキー女子に強奪された…


学生時代から進む道を間違え続け、大人になっても選択は間違い続けている…


そんな僕がむかえた人生の大きなわかれ道は2015年12月…


「もうええわ!ありがとうござました」


お笑い芸人としてコンビを組み11年間活動してきた、最後のライブの最後の漫才…

センターマイクを相方と挟み深々とお辞儀をすると、笑いとすすり泣く声と沢山の鳴り止まない拍手…と思っていたが、想像より早く拍手は鳴り止んだ…


芸人時代には、テレビに出るため特技が必要となり色々な事にチャレンジした。


スイーツ芸人を目指し練習したけど、意外と材料費が高く断念…


オカリナ演奏芸人を目指し練習したけど、近隣の人から「うるさい」と注意され断念…


怪談芸人を目指し、沢山の話を集めたが、怖いのが苦手なので断念…


そこでお金もかからず、うるさいと注意もされず、怖くもないのが「イラスト」だった


芸人の引退後はフリーのイラストレーターとして活動を始めたが収入は厳しく、何年も前から借りている1Kの狭くボロボロのアパートから抜け出せずにいた


そこに京都から上京してきた彼女と住み始めた。




「ねぇーワンちゃん飼いたい」

「無理やって…この部屋だし、お金ないし」

「はーい…」


彼女の家族はみんな動物が苦手で、いつか犬を飼うことが夢だった

ただ叶えてあげたいけど、東京という家賃の高い土地で、収入の低い僕には厳しかった…


そこで彼女の誕生日に、うさぎならこの家でも飼えると思い家族に迎え入れることにした


「うわぁー可愛い!!!」

「めっちゃ可愛いなぁ!」

「この耳が垂れてる子連れて帰りたい」


耳垂れうさぎのロップイヤーを連れ、電車に乗り家路に向かった


「名前何にする?」

「そやなぁー可愛い名前調べてみよ」


2人で携帯を取り出し、あれはこれは?と名前を出し合い、決まった名前が「チップ」


このチップとの出会いが、僕の運命を大きく変えることになりました


チップを家族に迎え入れ半年が経った時、いつもご飯はネットで注文していたのですが、その時は注文が間に合わず、近くのペットショップに行くと、可愛い子犬や子猫が沢山…


「可愛いー」

彼女はケージの中の子犬と僕を交互に見て、何か言いたそうにしていた

「あかんで」

「はーい…えっ?この子大きいし、めっちゃ安いねんけど」


ケージの中には、他の子よりも明らかに大きく成長している生後半年のキャバリアの男の子

その子はこちらを見て左右に大きく尻尾

を振り嬉しそうな顔をしていた


「良かったら抱っこしますか?」


定員さんのその問いかけに僕に返事をさせないかのようなスピードで彼女が「はい」と応えた


その子を彼女が抱きかかえると、さらに尻尾を大きく振り、顔を嬉しそうにペロペロと舐め、また彼女も嬉しそうにそれを受け入れ、チラチラとこちらを見る


「ねぇー抱っこしてみたら?」


抱っこがしたい…

俺もペロペロされたい…

でもここで抱っこを受け入れたら、子供の頃から動物が好きだった自分の心が開き、連れて帰りたくなる事がわかっていたので


「俺はいいわ…」


抱っこしたい衝動を抑え、断わった



家に帰ると彼女は「あの子可愛かったなぁー」と僕に聞こえるような大きな声で独り言を言い出した


だがそれは言わないだけで同じ気持ちで、頭の中にはその子と彼女が楽しそうにしている姿がフラッシュバックしていた。


突然ふと気になったことがあった


「売れ残ったらあの子どうなるんやろ?」


その事を調べてみると、そこには知りたくなかった残酷な現実が沢山出てきた…


(保健所に行き、里親が見つからなかったら殺処分)


(預かり屋に行き、ろくにご飯も貰えず病気になっても放置され一生を狭いケージで過ごす)


などなど…


その記事を見て、僕の心は「あの子を迎え入れなければ」という気持ちになっていた。


翌日僕は仕事だったので、彼女がペットショップへ行き迎え入れることになりました。


そしてうちに来たその子には、お互いが好きだったキャラクターから名前をもらい「グー」と名付けました。


グーと過ごせる環境にする為に、引っ越しを決め2人で物件を探しました。


「ここ良くない?」


彼女が見せてくる物件はどれも家賃20万超えの高級マンション…


当然僕の資金面では無理だ…


そこで彼女には憧れのセレブ暮らしを諦めてもらい、築40年の2LDK家賃が95000円の広さを重視したペット可物件に決めた


新しい家族、新しい家で心機一転の楽しい人生を送るはずだったのだが…





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