35話 御嶽(うたき) 9/14
そうしているうちに、夕番の
二人で、マタラに声をかけた。
「おはようございます、マタラさん。」
「おはようございます……って言っても、お昼なんですけどね。お二人は、先ほどの
「……う、うん。途中で抜けてしまったけど、でも、昨日よりは成果があったかな?」
「それで、マタラさん。私たち、もう一度御嶽へ行きたくて、今日もマタラさんたちとご一緒させてもらっていいですか?」
「それは構わないけれど、……そんなに、根を詰めて大丈夫?それに、
あからさまに、マタラが心配そうな顔をした。
ナギィが慌てて、大丈夫だと言おうとした時、それを聞いていたカマディが台所から口を挟んだ。
「マタラ、すまないが、また
「祝女さま!
メイシアとナギィが視線を合わせて、やった!と合図を送った。
「でも、絶対に無理は禁物ですよ。昨日みたいに、お顔が真っ青になる前に切り上げてください。わかりましたか?」
マタラの迫力に、二人は愛想笑いをしながら頷くしかなかった。
カマディが、ヤシガニを調理する間についでだと夕番の清明たちに、おにぎりを握ってくれた。
それを食べながら話はさっきの「声について」に及んだ。
「マタラさんは昨日、スイを守ってくれるようにお願いをするって言っていましたが……私はたぶん、その土地に宿っている者の声を聴いて話しかけてみたんですけど……」
「まぁ!ジュンニナー?メイシアさんも、力をお持ちなんですね!こんなに早く声が聴けるなんて。」
「え……まぁ、はい……」
メイシアはそこに感嘆されるとは思っていなかったので、少したじろいでしまった。
「メイシアさんも、頭の中で光の
「カジマヤー?……ってなんですか?」
メイシアはカジマヤーという言葉を聞いたことが無くて、首をひねった。
「あぁ……カジマヤーって島の言葉なんですね……。子供のおもちゃで、紙で作るんですけど、ふーっと息を吹きかけたり、風を当てると回るんですよ。」
メイシアはローニーの領地にあった風車を思い出した。
「あー……風車、みたいなやつかな?それだったら……無いです。それよりも水の中に潜っているような感覚に近いかもしれないです。」
「へぇ~!メイシアはそんな感じなんだね。」
ナギィがしきりに感心した。
しかしそれは、ナギィだけではなく、それを聞いていた他の清明たちも、感心していた。
「メイシアさんは、すごく珍しい方なんですね……。そんな話は初めて聞きました。やはり、異国の方だからでしょうか?」
「……そうなんですか?というか、そうなのかな?よくわかりません……」
「アキサミヨー……メイシア、ヤーは……。」
台所から上がってきた、カマディがメイシアの横に座った。
「おばあちゃん?」
「デージナトン……。ワシは、そういうお方を一人だけ知っておる。ヤーはやはり…… 」
「オバア、それは誰なの?」
「……ユイ
まさかの名前がカマディの口から飛び出し、居間にいた清明がざわめいた。
「ユイ加那志は力の強いお方だったのだが、いつも気を抜くと溺れそうになるとおっしゃっておいでだった。世界は水で満たされていると。」
メイシアはその感覚が自分と同じか、すごく近いのだと確信をした。そして同時に、カマディの言葉に違和感を感じた。
「おばあちゃん、ユイ
「あぁ……それは、今はワシはこちらの暮らしがかなり長いやっさぁ、御殿へ上がっていないから、ユイ加那志とは話せていない。今も、溺れそうになっておいでかもしれないなぁ。」
「ふーん……」
「オバア、
「ヤサヤ。
「うん、それがいいさぁ。」
ほんの一瞬。カマディが動揺したのだが、誰も気に留めなかった。
「でも、メイシアが御主加那志と同じだなんてすごいなぁ。きっと、メイシアは特別なんだね。」
ナギィが無邪気に言い放った。
その言葉に、清明に囲まれているメイシアは恐縮してしまう。
「……私は、別に…… 」
そんなメイシアの横でカマディがぼそっとつぶやいた。
「ヤサヤァー、メイシアは特別さぁ。だから
それを聞き逃さなかったナギィが、いつもの冗談の相手をするように返した。
「えー?悪いものか、めっちゃくちゃ良いよ!」
「……そうじゃな。メイシアはジョウトウさぁ。のぅ、メイシア。」
そういうとカマディはニコニコしながら、メイシアの頭を撫でた。
何かが腑に落ちなくて、メイシアは心の中がモヤモヤしたが、それの正体がつかめなくて、より一層モヤモヤを募られた。
────
ジュンニナー / 本当に?
アキサミヨー / あれまぁ
デージナトン / 大変なことになった
スー / お父さん
ヤサヤ / そうだな
ユタイ / 手紙
ジョウトウ / 良い
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