33話 御嶽(うたき) 7/14
目が覚めると、元気なナギィが復活していた。
「おはよ、メイシア!」
メイシアは寝坊をしたようで、気が付いた時にはもう隣に寝ていたはずのナギィの姿も布団も無かった。
仕方がないので、居間へと来てみると、ナギィが清明の白い装束を身に着け、ハチマキを巻いているところだった。
「おはよう、ナギィ。私、寝坊してしまったみたいで……ごめんね。」
「いいさぁ。オバアがね、昨日メイシアが夜更かししていたから、寝たいだけ寝かせてあげなさいって言っていて、起こさなかったの。」
「そうなんだ。ありがとう。」
「すっきりした?」
「うん。良く眠れたよ。……それで、おばあちゃんは?」
「あぁ、オバアはさっき寝たさぁ。メイシアによろしくって言ってた。」
「……そっか、おばあちゃんに会えないのか……」
「あれ?メイシア、オバアになんか用事でもあった?」
「うんん、いいの。大丈夫。……それで、ナギィはその着物どうしたの?」
「あぁ、これ?んふー。似合う?」
ナギィが立ち上がり、くるりと回って見せ、ニヤリとした。
「……うん、似合ってる。」
「オバアがね、修行するんだから、格好もちゃんとした方がいいからって、用意してくれたんだ。……これ、アンマーのなんだって……」
「アンマー……あぁ、お母さんのなんだ!すごいね。サイズもぴったりじゃない?」
「……うん。」
そういうナギィが、嬉しいような、何とも言えない顔をした。
「……良かったね。」
「……うん。あ、メイシア、朝ごはん食べるでしょ? ちょっと待ってて。おにぎりを作ってあるんだ。」
ナギィが少し目に涙を溜めたまま、台所の土間へ降りて行った。
「ありがとう、ナギィ。」
メイシアはそのまま、居間のテーブルについた。
「ねぇ、ナギィ、森榮はどうしたの?」
「あぁ、アイツは、もう飛び出していったよ。今日はカニを捕まえるとかで……。昼からはまた、オバアが頼んだ清明に見てもらって、お勉強を言いつけられているから、アイツも大変だねぇ。」
「ふふふ。ほんと、森榮も災難だね。」
「はい、お待ちどうさま。お味噌汁とおにぎり。」
ナギィが運んできてくれたのは、野菜と魚がたっぷり入った茶色いスープとおにぎりだった。
「おにぎりは、昨日ナギィが作ってくれたから知っているけど、このスープ……お味噌汁って言うの?色々入っていておいしそう。」
「朝はいっぱい食べないと、昼間の暑さを耐えられないからね。いっぱい食べて!」
「うん。いただきます。……そういえば、マタラさんは? もう帰って来てるよね。まだお休みかな?」
「あぁ、マタラさんは朝番で
「え!そうなんだ……清明って忙しいんだね。」
「ワーも正しい時間は知らないんだけど、みんな交代で番をしているからね。マタラさんは朝と夕方に行くみたい。朝はオバアと交代って事だね。メイシアは昨日の夜、マタラさんとは会わなかったの?」
「あはは……私、昨日ちょっと海まで散歩して……考え事していたら、時間がたっちゃってて、帰って来たの遅かったんだ。」
ナギィは一瞬黙って考えたが、笑顔をメイシアに向けた。
「そっか。……色々心配事とかあるだろうけど、あんまり思いつめないでね。ワーもいるし、オバアも……役に立たないだろうけど、森榮だっているんだし。」
「うん、心配かけてごめ……うんん、心配してくれてありがとう、ナギィ。」
「イチャリバチョーデーさぁ、ふふふ。」
「今日も御嶽へ行くんでしょ?」
「うん。ワーは行くよ。そのためのこの格好だもん。でもメイシアは、来たくなかったらほかの事をしていても大丈夫だよ。」
「うん……どうしようかな。」
その時、忘れていた昨日の、あの不思議な声を思い出した。
──── ……タスケテ……ワタシヲ、ユルシテ…………
あれは何だったのだろうと、メイシアは思い返す。
もしかして、御嶽に行けば、またあの声が聞こえるかもしれない。
気のせいかもしれないが、自分に向けられた声のようなに聞こえて、どうしても放っておいてはいけなような気がしたのだ。
「ナギィ、昨日ね、御嶽で女の人の声って聞こえなかった?」
「?……どんな?」
「助けを求めているような…… 」
「うーん……」
ナギィが首をひねった。
メイシアは、確かに、昨日のナギィはそれどころではなかったのかもしれないと思った。
「……いいんだ。私の気のせいかも。よし、決めた! 私も御嶽へ行くよ。ナギィも心配だし、私も一緒に修行する!」
「分かった。じゃ、昼番の人たちと一緒に行かせてもらおう。もうすぐ昼番の人たちが起きてくると思うから、お願いしなくちゃね。」
昼番の清明はナギィが言った通り、しばらくすると起きていて、朝食を食べて準備をすると、御嶽へ向けて出発をした。
道中に話を聞くには、深夜はカマディはたった一人で祈り、その他は5回の交代で番をしてるいらしい。
昼は気温が高く体力の消耗が激しいので、2回に分かれている。そのうちの初めの昼番に参加しているらしかった。
ナギィについては、昨日の事も話が伝わっていたようで、ありがたいことに居れるところまでいたらいいよ、と言われた。
またあの巨岩のゲートのところまでやって来た。
「ナギィ、大丈夫?」
昨日あれほどまでに具合が悪くなった
メイシアが心配するのは当然なのだが、ナギィは覚悟を決めているようで、弱音を吐くことは無かった。
ゲートをくぐると、うっすらと青い色が空間を漂ってた。
一人の清明かが、朝番の清明に声をかけた。
朝番の清明は、深く集中していたようで、声をかけられて初めて気が付き、交代のために立ち上がった。
マタラが二人を見つけた。
「お二人も来たのね。」
「うん。頑張らないとね。」
そういうナギィは、もうかなり辛そうに冷や汗をかいていた。
「無理しなくてもいいからね。……私、残ろうか?」
ナギィが、眩しそうな顔をしながら、首を横に振った。
「マタラさん、大丈夫。私がナギィについているから。無理させないように注意しますね。」
「……そう?メイシアさん、ナギィさんをよろしくね。何かあったら、すぐに帰って来てくださいね。」
「はい。」
「ナギィさん、それ。カガンさんのね。……とっても似合っているよ。がんばって!」
そういうと、マタラは御嶽から出て行った。
最初の昼番は四人だった。
前列と後列で三人ずつに分かれて、腰を下ろし、祈りを始めた。
また波の音。それから風が草木を撫でる音。
徐々にそう言った音がそぎ落とされていく。
メイシアは、最初から達成の鍵を握っていた。光が漏れないようにぎゅっと固く握りしめていた。
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