31話 御嶽(うたき) 5/14

 メイシアは驚き、周りを見渡したが、その声の主の姿などあるはずもない。


 ナギィにも聞こえているかもしれないと、声をかけようとナギィを見ると、ナギィはすごい冷や汗を流し真っ青な顔をしながら祈っていた。

 あまりにその姿が苦しそうで、声をかけずにはいられない。


 「ナギィ、無理しちゃダメだよ……。」

 「うん……でも、慣れるってマタラさんも言っていたから……」


 二人の会話に気が付いて、マタラが後ろを振り向いた。


 「……まぁ!ナギィさん、真っ青じゃないですか。もう今日はこれ以上は駄目です。今すぐ、メイシアさんと一緒に家に戻ってください。」

 「でも、ワーは……」


 「ダメです。徐々に慣れたらいいんですよ。もし、ナギィさんが倒れでもしたら、祝女のろさまはとても悲しまれます。」

 「そうだよ、今日はもう帰ろう、ナギィ。」

 「…………。」


 「メイシアさん、ナギィさんをお願いしますね。」

 「はい。」


 「ナギィ、立てる?」

 「……うん、なんとか、」


 「帰ったら、ちゃんと休んでくださいね。」

 「うん。マタラ、ありがとう。」


 そういうと、メイシアとナギィの二人は御嶽を後にした。





 ゲートをくぐると、御嶽の方を見ても不思議と青い光は見えなくなった。




 「ナギィ、歩ける?」

 「うん……こっち側に来たら、ちょっとだけ頭の中が眩しいのが止んで来たよ。ゆっくりだったら、大丈夫だと思う。」


 「うん。ゆっくり帰ろうね。」

 「ちょっとだけ、ここで休んでもいい? ちょっと休憩したらもっとマシになると思う。」

 「わかった。ここでちょっと座ろうか。」


 メイシアは、御嶽が見えない位置へと移動し、転がっている丁度よさげな大きさの岩にナギィを座られた。

 メイシアも、その横に座った。



 ふと、メイシアの目に、二つの壺が目に入った。


 御嶽の巨岩が少しえぐれ、天井ようになっている部分の下に二本の氷柱のような岩が垂れ下がっている。

 これを鍾乳石という事は、書庫のある洞窟で、牧師さまから教わって知ってはいたが、その下に壺が鍾乳石一個に対して一つずつ配置されているのだ。


 壺は、鍾乳石から滴る水を集める役割があるように見えた。


 「メイシア、もう大丈夫。そろそろ、行こうか。」

 ナギィが、立ち上がろうとした。


 「え、本当に大丈夫?私に気を使わなくてもいいよ、もうちょっと休んだら?」

 「うん。でも、ほんと大丈夫。御嶽ウタキから出たら、かなりマシになったの。」


 「そう。……良かった。じゃ、ヨンナーヨンナー帰ろうか。」

 「わ!メイシア、十六夜人イザヨイーンチュみたい!」


 「あはは、ほんと?おばあちゃんが確か、こういっていたなぁって。」

 「うんうん、ゆっくりは、ヨンナーって言うよ。」


 二人は立ち上がり、家へ向かって歩き出した。


 ナギィはまだ頭痛はするのだろうけれど、顔色もずいぶんと良くなってきていた。



 「ねぇ、メイシア。友達と旅をしているって、言っていたけど、どうして旅をしているの?」

 「それは……」


 「あ、ごめん。……それって、もしかして……オバアと話していた……その……あれかな……」

 ナギィは、カマディがメイシアに言った「家族を無くしたんだね」という言葉を思い出していた。


 「うん……そうだね。始まりはそれ。」


 「話したくなかったら、話さなくてもいいよ? 」


 「うんん。いい機会だから、聞いて。」


 メイシアは、自分の村が一夜にしてなくなってしまった事、ストローやウッジ、チャルカと出会って旅を始めた事を話した。

 オズでの出来事は話しても大丈夫なのか、少し心に引っかかったが、ナギィの事を信頼して、オズでの不思議な体験、玉座の君に命じられた事を話した。


 「その玉座の人が……ロードさま……?」

 「……すごいオーラがあったし、私たちの願い事も叶えてくれるって言ってたし。」


 「メイシアは、すっごいなぁ……!虹の国から来たばかりか、ロードさまに会ったことがあるなんて!」

 「……うん、それは私も夢を見ていたんじゃないかな?って思うくらい、信じられない。奇跡だと思う。……でも、今は友達とはぐれてしまったし……」


 「そうだねぇ……でも、オバアがお客さまが来るって言っていたし、それって、メイシアの事を探している友達の事なんじゃないかな?」

 「そうかなぁ。そうだったらいいんだけど。友達と早く合流して、アンタレスの炎を手に入れて、オズに戻らないと……。」


 そこまで言って、メイシアは何も言えなくなった。


 まだアンタレスの炎について、何の手がかりも掴めていない。それどころか、ストローたちとはぐれてしまっている今、全てが成し遂げられるといった希望を持つことすら、絶望的だった。


 冷静に考えれば、オズへの帰り方も聞いていない。

 もしかしら、体良ていよくオズから追放されたりではないかとさえ、不安が生まれた。


 「……なんくるないさ。メイシア。」

 「え?」


 「ナンクルナイサ。何とかなるよって意味。……大丈夫。だって、メイシアはユタでも清明シーミーでも祝女のろでも無いのに、ロードさまにまで会うくらい運があるんだよ。絶対なんくるないさ!」


 「……うん、そうかな……。なんか、ナギィにそう言ってもらえたら、何とかなるように思えてきた!」


 「うんうん。その意気!ワーも協力するから、頑張ろ!」



 そんな話をしてるい間に、二人は家へ到着した。



 もう空は夕刻。紫色に燃え、青い虹と月が輝いていた。





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