21話 魚釣島の清明 11/16

 通されたのは、入ってきた側を表だとすると、裏手にある部屋だった。

 戸の外は裏庭になっていて、表の直線と直角で作られた石垣の美しさとは違って、こちらは曲線の美しさ。

 表からぐるりと繋がっている土塁の石垣が優美な曲線を描き、そこに植えられた木々が美しい木漏れ日を庭に落としていた。



 「ナギィ!森榮しんえい!こっちに来るばぁよ。」

 カマディが呼ぶと、違う部屋にいたと思われる二人がやって来た。


 「なん? 」

 「君達ウンジュナーは、この部屋を使うと良い。森榮はワシのところで寝たらいい。」


 カマディが思いがけない事を言い出したので、メイシアは理解が追いつかない。

 代わりにナギィが口を開いた。


 「オバアどういう事?私達ワッターは帰るつもりなんだけど……」

 「そう急ぐことは無い。もうすぐここに、次のウチャクが来るから、これまでここに居ればいい。……ヤサヤー、メイシアにはそれまで、ウヒ……少しばかり、付き合って修行してもらおうかねぇ」


 「え?……えぇ!修行って何ですか?っていうか、もうすぐって、どれくらい……」


 「ヤサヤァ……」

 カマディが耳を澄ましているのか、深く考えているか目を閉じた。


 サァァと、裏庭に風が吹き、土塁の木々を通して木漏れ日がサラサラと揺れた。


 カマディは静かに目を開いた。


 「三、四日、と言ったところじゃなぁ。気が進まんのなら、無理にとは言わないが、きっといい経験が出来る。」

 「……。」

 なんと返していいのか、わからないまま黙ってしまう。


 「ついでに、ナギィもさぁ。」

 「ちょっと、オバア、ワーはついでってどういう事なのぉ……!」

 「あはは。まぁそんなに脹れるな、ナギィ。ワシの時間も有限じゃからな。今のうちにナギィに伝えたい事がたくさんある。」


 「もぉ。有限って言ったって、また家にだって帰って来るのに、大げささぁ」

 カマディはにっこりとして、無言でうんうんと頷いた。


 黙って聞いていた森榮は、不満が無いようで、話が終わったのを待っていたかのようにカマディの袖を引っ張った。


 「オバア、クワガタ採りに行ってもイー?」

 「森榮は、ちょっと暇するかもしれないけど、いい子にしているんだよ。」

 「うん、約束ヤクスクすん。だから、行ってきてもイー? 」


 「イーよぉ。ただし、御嶽ウタキには足を踏み入れたらダメだよ。御嶽は……」

 「わかってるっ。イキガはダメなんさぁっ」


 「ヤサ。ワラビと言えども、イキガは禁足。破れば、オバアでも森榮を守れ……」

 「わかってるさぁ、行かない。絶対ジョーイ行かないっ!ジョーイ、ジョォーイ! ヤクスク! 」


 「わかったわかった。気を付けていっといで。おなかが減ったら帰って来るばぁよ。」

 カマディの言葉を聞き終わらないうちに、森榮は「はーーーーーーいっ」といい返事をして外に飛び出していった。


 「アキサミヨーあれまあ……」

 カマディは呆れたようにつぶやいた後、少し肩を落としたようにメイシアには見えた。


 「ハンマヨーなんてことだ、森榮は……。オバアの話をちゃんと最後まで聞かんて、なんて悪ガキヤナワラバーヤサヤ! 帰ってきたらゲンコツさぁ! 」

 ナギィが鼻息を荒くした。


 「まぁまぁ。そんなに怒らんさぁ。あの子はあの子でちゃんと役目がある。」

 「また、オバアは、森榮に甘いんだから!」


 「あはは。ワシは、ナギィーも愛してるよカナサンドー。森榮も愛おしいカナサン。さぁ。ここまでナギィがフニを漕いできたんじゃろ?疲れているだろうから、お茶でも飲んで一服したらいい。」


 二人は言われるまま、居間へ移動した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る