20話 魚釣島の清明 10/16

 カマディに連れられ、三人はそこからしばらく歩いたところにある建物まで移動した。


 白くごつごつした石を積み上げられた背が高くエッジの効いた角が美しい石垣。

 その石垣が途切れると、石垣と同じ石材の石畳により、敷地内へと誘導される。


 中へ続く石畳は、二段ほどの幅の広い階段になっていて、その行きつく先は、人の背の高さよりも高い石垣になっていて、まるで屋敷が見えないように目隠しをしてるいようだ。

 その白い目隠しの上から、特徴的な赤瓦の屋根が顔を覗かせていた。


 行き止まりの石垣に見えたところは左に石段が用意されていた。

 石の階段を上がり、敷地内に入ると、思いのほか開放的な広い場所になっており、その地面にあたる部分の、ほとんどの面積を石垣と同じ石で敷き詰められていた。


 建物はナギィの家と同じく、赤瓦の屋根の平屋だったが、何棟も連なったような作りになっていて、建物自体敷地の大きさにたがわず立派だった。

 母屋と思われる建物の前は、広すぎない良い大きさの空間があり、井戸や納屋と思われる小屋が建っていた。


 敷地外周の石垣に沿わせて一段高い土塁(どるい)があり、その土塁もまた石垣で土留めがされている。土塁はそれ自体が遊歩道になっているようで、石段で土塁に上がると回遊出来そうだった。


 ナギィと森榮は、幾度か訪れたことがあるのか、慣れているようで母屋脇の入り口とされているらしい上がり口から、草履を脱いで建物の中に入って行った。

 一人残されたメイシアは、あまりの立派なお屋敷に、キョロキョロしてしまう。


 「メイシアは、こういう所は珍しいのかい?」

 孫たちと家に上がることなく、メイシアに付き添っていたカマディが優しく声をかけてきた。


 「はい……とても立派で……なんだか要塞みたいな……」

 と言ったところで、ハッとした。


 自分が住んでいる場所を要塞と言われて、褒め言葉ととるはずもない。

 失礼なことを言ってしまったと、一気に青ざめてしまった。


 「あははは、ウンジュはすぐに顔に出るねぇ。大丈夫だよ。今の言葉、何とも思っちゃいない。……というよりも、要塞は当たらずも遠からず。……まぁ、とりあえず、上がっておくれ。歓迎するよ。」

 ナギィはメイシアの肩に優しく触れると、家に上がるように促した。


 「ここはね、みんなで共同生活をしているのさ。だから、遠慮することは無いよ。みんなが心地よく居れるように多少の気は使わないといけないけどね。でも、ウンジュなら問題ないさ。」


 「あ、あの……私の事、知っているんですか?」

 「あぁ、ヤサヤー。」

 カマディはじっとメイシアを見つめた。


 「……ウンジュはワシの知っているお方と同じ匂いがする。でも、もっともっと若い匂いさぁ。」

 そういうと、カマディはメイシアの頭を優しく撫で、家へ入って行った。


 それが答えだったのか、メイシアにはよく分からなかったが、それ以上掘り下げて聞くべきでもない気がして、カマディの後を静かに追った。



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