14話 魚釣島の清明 4/16

 なんとか、半島の先端である集落に着いたのは夕方だった。


 地理的には半島の先端で、外海に面しているのだが、集落の家々には青々と葉の茂る分厚く背の高い垣根があり、集落に一歩足を踏み入れると、景色も体感も一変した。


 「さっきまで海岸線だったのに、ここはまるで森の様だ……」

 さっきまで吹き付けていた風も止み、音も静かだった。

 穏やかな空気に、ストローが周りを見渡しながら感心をした。


 背の高い垣根の為、夕方ともなると陽光が少なく暗い。


 「この木はフクギと言って垣根なんですよ。地面に近い部分にも葉っぱを茂らせてくれる木で、島では防風林として使われているんですよ。ほら、ちょっと見えにくいですが、垣根の向こうは人家なのです。」

 チルーが言うので、それぞれが目を凝らすと葉っぱや枝の隙間に、背の低い建物が見えた。


 「迷路みたいっ!」

 子供はこういう場所が好きなのか、チャルカが興奮して大きな声をだした。


 「チャルカさま、ここは漁師の集落ですので、もうお休みになっている方もいらっしゃるかもしれません。お静かに。」

 「……ごめんなさい、」


 「さぁ、到着いたしました。今日はこの宿に泊めていただくことにしましょう。」

 チルーの馬が垣根の途切れたところから、敷地内に入った。

 後の二頭も後に続く。


 垣間見ていたこれまでの家よりは、少し大きめの建物だった。

 背が低くどっしりとしている。


 その印象は屋根一面の赤瓦の屋根のせいだろうか。

 建物よりも、大きく一回り張り出された屋根。

 その屋根に赤い瓦が規則正しく整列させられ、白い漆喰で固められていた。


 四人は馬から下り、隣接している馬小屋に、三頭を繋ぎとめた。


 道すがらの話では、集落で唯一の宿屋に部屋をとり、翌朝、船を出してもらい、島に渡る事に予定という事だった。

 チルーは一人、宿の中に入り、宿の者に事情を説明している。


 疲れた三人は玄関先で座り込んでいた。


 しばらくして、宿の者と話を付けてきたチルーが、グッタリ気味の三人と一匹に声をかけた。


 「皆さま、初めての馬での遠乗りはお疲れでしょう。今晩はゆっくりお休みくださいね。もう少し頑張って、立ってください。お部屋に案内してくださるそうですよ。」


 「オラ、お尻が痛くて……。よいっしょ。最後の駆け足が効いたよ。チルー、急に走り出すんだもん。」

 「それは……急がなくては、暗くなるまでに、ここへ辿りつけなかったからですよ。」


 「チャーは大丈夫!」

 そういうと、シュタッとチャルカは立ち上がった。


 「チャルカさまは、体が軽いですからね。それに、馬のリズムに動きを合わせるのもお上手でしたよ。」

 「やったぁ!褒められた!ウッジ!」

 チャルカが無邪気にウッジの前で飛び跳ねた。


 「う……チャルカ、やめて……振動が……。」


 「どうしたの?ウッジ。」

 チャルカが下を向いたまま固まって動かないウッジの顔を覗き込んだ。


 「…………だよ……」

 「え?なに?聞こえない。」


 「腰が砕けそうなくらい痛いんだよ!……うっ!」


 見かねたストローが、ウッジに手を差し伸べた。

 「ウッジ、大声出すから……。ほら、オラにつかまって。」

 「ありがと……」


 「ウッジさま、申し訳ございません……そこまでだとは……」

 「いや、チルーのせいではないよ、ウチがこういうの苦手で……イタタタタ……」


 「さ、私にもつかまってください。」

 「ウッジー、大丈夫?」

 『ぴちゅっ』


 「ちょ、メリー、大丈夫じゃないから頭に乗らないで……振動……。チャルカも服を引っ張らないで……」

 ウッジはストローとチルーに両脇を支えられて、何とか宿の者が案内する部屋へ移動した。


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