15話 魚釣島の清明 5/16

 通してもらった部屋に付くと、宿の女将がお茶を淹れながら話しかけてきた。


 「ネエサン、ガクマ、辛そうねー」

 ウッジに言っているらしかったが、ウッジは聞き取れなかったのか、不思議な顔をして固まっているとチルーが察して通訳をしてくれた。


 「ウッジさま、腰が痛そうですね、と。」

 「あぁ、そうなんです。馬に乗るのが初めてで、遠出をしたものだから……」


 「ネエサン方、異国ヌチュなんやさぁ?」

 「わたくしだけが十六夜いざよいの者です。王宮からやって来ました。この方々は王宮のお客様です。」


 「ンチャ、どおりであか抜けておいでだと思ったさぁ。アンセー、おもてなししないとねぇ。マッチョーケヨー、ユタを呼ぶんさぁ」

 そういうと、女将がお辞儀をして部屋を出て行った。


 「ん?チルー、女将さん、なんて?」

 女将がいなくなったので、ウッジが質問しながら、ゆっくりと畳の上に寝転がった。

 そこへ寝転がったウッジの上にチャルカが乗ろうと四つん這いで近づいてきた。


 「ダメだよ、チャルカ!」

 「いひひひひ……ウッジぃ……」

 ダメと言われて引き下がるはずもなく、チャルカは悪い顔はそのまま。

 逃げようと悶絶するウッジがチャルカとメリーのおもちゃと化した。


 「女将さまは、おもてなしをしてくださると……。ユタを呼んでくださるそうです。」

 「ユタ?海榮さんが言っていた……?という事は、オラたち向こうに渡らなくても良くなったって事?」


 「いえ、違うと思います。ユタというのは……、厳密にいうと、実はわたしくもユタなのです。」

 「え?どういう事?」


 「はい。十六夜の女性は太古より祈りの力を持っているとされていて、皆ユタなのです。実際は力が強い者、弱い者。ほとんど持っていない者もいるのは事実ですが。しかし皆、この世ならざる者にお願いをしたり、助けを求める時、力の大小にかかわらず、御嶽うたきへ行き祈るのです。」

 「なるほど。……という事は、誰か力のあるユタをここへよこしてくれるってことなのかな?」


 「そうですね……たぶん。清明シーミーかもしれないですね。」

 「清明シーミー?」


 「清明というのは、ユタの中でも力が強く、強力な結界を張る力すら持っています。今や、この国の要でもあり……そうですね。そう考えるとこの地に清明は多く集まっているはずですので、清明が来てくれるのかもしれません。」

 「……ん?なんで清明が多く集まっているの?」

 「それは……」


 「っちょっと!二人とも話し込んでないで、チャルカとメリーを止めてよ!」

 ウッジか纏わりつく悪ガキどもに、耐え兼ねてSOSを出した。


 「チャルカさま、こちらに座ってお茶を飲んでください。」

 と、チルーが自分の横をトントンと指示した。


 「えーーーー、まだウッジと遊ぶーーー」

 「こら、チャルカ、そんな事をして、ウッジが一生立てなくなったらどうするんだ? 腰を痛めるって、それくらい大変な事なんだよ。」

 ストローが、人差し指を立てて諭した。


 それを聞いた途端、もしかしたらウッジの腰は大事おおごとなのかもとしれないと、思い始めたチャルカが瞬間湯沸かし器のように泣き出しそうになった。


 「……ぅ、ウッジーーーーー、ごめんなさぁいっ!」


 「ちょっ、ストロー!大げさだって!チャルカを泣かせてどうするの!ほらチャルカ。一晩寝たら大丈夫だから……」

 「……ほんとに?立てるようになる?」


 「うんうん。もう、マシになってきたはずだから、ほら……うっ!」

 と、ウッジが起き上がろうとして、また固まった。


 それを見たチャルカが不安になって、泣き出しそうになった時、廊下から声をかける者がいた。




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