13話 魚釣島の清明 3/16
「わぁ!すごいな!海だ!青いーーー!」
小さな丘を越えると、姿を現した一面の海原にストローが目を輝かせた。
「チャー、海で遊びたい!」
「またそんな事言って……。オズでも充分遊んだだろ?」
ウッジが、またか……とため息をついた。
「アレはアレ。コレはコレだもんっ」
「え……チャルカ、どこでそんな言葉を覚えたの……」
「皆さん、あと一息ですよ。この半島の先端に見える、山がポッコリしているあの島が、
そう言ったのは、チルーだ。
チルーとストロー、ウッジ、チャルカ、メリーは馬に乗っていた。
馬は三頭。
出発が決まり大急ぎで準備を整え、あわただしく一行は出発したのだった。
そして、こうして、なんとか一日で魚釣島が見える地までやってきた。
「チルー、本当にこのスイの国は海がきれいだね。前にも海のある街に少しの間暮らしたけれど、海はいつ見ても気持ちがいい。」
心地いい潮風を受けながら、海に向かって馬を進める。
「はい。
「それはいい。帰ったら、教えて。」
「もちろん。しかしながら、ストローさまも、ウッジさまも、乗馬が様になってきましたね。」
「チルー、チャーも一人で乗りたいっ!」
チルーの前にちょこんと乗せられたチャルカが、振り向きながら不満の声をあげた。
「チャルカさまは鐙(あぶみ)に足が届かないので……申し訳ございません。もう少し大きくなられたら、また乗りにいらしてくださいね。」
もうこの会話を何回もしたのだろう。チルーが困り顔で、チャルカに言い聞かせた。
「チャルカーーー、わがままばっかり言わないの。その話は終わっただろ。」
「ぶぅーーーーーー」
『きゃりっ』
頬を膨らませるチャルカにメリーが頬ずりをする。
「オラは国でトナカイのソリには乗っていたけど、馬は初めてだもんなぁ。そんなに早く上達なんてできないし、オラたちが上手くなったんじゃなくて、この馬が賢いんだよ。」
「そうそう!ウチも、こういうの苦手な方だと思うから、馬のおかげだな。」
「百戦錬磨の
「……はぁ。その海榮さんが来られないなんてなぁ。」
「仕方がないですよ。海榮さまは、唯一、スイ
というと、海榮の出発までの一連の実らない根回しと、残念そうな顔や口ぶりを思い出し、チルーの表情が少女のように柔らかくなった。
それを目敏くウッジが見逃さなかった。
顔をニタニタさせたて、チルーの馬に近寄ってきた。
「あれぇ?もしかして、チルーって海榮さんのこと……」
「な、何をおっしゃっているのですか!そんな事あるはずがございません。」
「またまたぁ。そんなに否定するなんて、ますます怪しいなぁ」
「もぉ。ウッジさま、その様にだらしの無い顔で馬に乗って、舌を噛んでも知りませんよ!」
「ええっ?ウチ、だらしの無い顔してた?」
「知りませんっ!」
チルーは、ぷいっと顔が見えないように馬を頭一つ前へ進ませた。
「えーーー、ごめん、チルー。許してっ」
「え、何々?どうしたの? チルー、海榮さんに何かされたの?」
海の眺めに心を奪われていたストローが、チルーの様子がおかしい事に気が付いて、話に寄ってきた。
「はぁぁぁぁ。ほんと、ストローってそういうの疎そうだよねぇ。」
ウッジが憐れむような顔をストローに向けた。
「えーーーーー、なに?ちゃんと説明してよ。オラにもわかるように!」
「だからぁ、チルーは、海榮さんの事をーーーー……」
「もぉ!おしゃべりはおしまいです!急ぐ旅なんですよ!陽が傾くまでには船着き場のある集落までは行かないと。少し速度を上げて駆け足で参りますよ。ハイッ」
チルーは慌てて振り向き声を上げると、馬の胴を蹴りスピードを上げた。
慌てたのは二人だった。なぜなら、そんな速さをまだ経験していないのだ。
しかし、チルーの馬が駆け出すと、それに合わせて、二人の馬も有無も言わせず駆け出した。
「えーーーー!まだウチらには、その速さは無理だよーー!」
「ちょっと、オラにも説明!」
二人はもんもんとしながらも振り落とされないように必死でチルーを追いかけた。
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