11話 男の闘い2
「ここからは俺の番だ。」
走りながら俺は叫ぶ。
だが、絶対切断の力で殺すわけにはいかない。
『調鎌』で鎌を伸ばし、鎌の峰側を高速で叩き込みそのまま押し出す。
シルファ側も鎌でついてくるとは思っていなかったのだろう。
ぎりぎり剣でガードしているが踏ん張りがきいていない。
「いっけぇー」
シルファを闘技場ぎりぎりまで押し出し、鎌を伸ばすのをやめて様子を見る。
シルファがうれしそうな声を出す。
「おぉ、やるじゃないか。だが、なぜ鎌の刃で攻撃してこない?」
「俺の鎌は絶対切断だ。どんなものでも刃を通せば切ることが可能だ。もちろん人でも、甲冑でも、黒竜でも。」
シルファが驚いた顔をしている。
驚いた顔が出会ったときのセシアに少しだけ似ている。
「なるほど。そんなにすごいのか。黒竜は鱗が異常に硬くてね。どうやってあんなにきれいに首を落としたのか気になっていたんだ。それじゃ少し試してみよう。『
シルファが剣を掲げ、叫ぶ。
すると剣を光が包みこんでいく。
「それは?」
俺が聞くと、シルファが答える。
「これは聖騎士のスキルで簡単に言うと剣を強化できる。例えば、こんな風にねぇ!」
語りながら急に剣を横に振ってくる。
すると光の輪がこちらに飛んできた。
「くっ。『衝鎌撃』」
慌ててこちらも鎌を横に振り衝撃波を飛ばす。
お互いの技がぶつかり相殺する。
闘技場の中央付近が大きな衝撃とともに爆発する。
シルファも俺も間髪入れずにその煙の中に飛び込んでいく。
「ここだ。」
シルファが上から剣を振ってくる。
それを横にステップでかわし、逆に鎌の柄部分で殴ろう鎌を振る。
ゴンッ
剣で受け止められた。
物凄い音だ。鎌の柄の木の部分にヒビが入った。
これも『聖纏剣』の強化効果だろう物凄く硬くなっている。
「得物がなくなりそうだね。降参するかい?」
ここで降参しても、強さは理解してもらえたと思う。
客たちも特に文句は言わないだろう。
だが、ここで、はいそうですか。と負けると男として大事なモノを失う気がする。
「いや、まだまだここからだ。」
再度後ろに飛び距離を取る。
「いくぞ。『調鎌』」
黒竜と戦った時のように鎌を柄を伸ばして空中に飛び上がる。
「『
自分を中心に闘技場全体を闇で覆う。
その闇に紛れる。客席からは見えないだろうが、勝つためには手段を選べない。
昼だろうと明るいところであろうと、スキルによる有利を活かすんだ。
そこで俺はスキルを発動する。
「闘技場自体を闇と化し、そこに私を引き込むとはずいぶんとずるい手を使うじゃないか。私でなければ、何もできずに死んでいただろう。」
シルファの周りだけ闇が晴れ光が満ち溢れる。
さすが"聖"騎士だ。
「あぁ。ずるい手だろうな。だが俺は騎士ではない。俺は死神だ。闇と共に生きるものだしそういうスキルが多いからな。自分の得意なフィールドで戦うのは悪いことではないだろう?ということで終わりだ。」
鎌を地面に突き刺し叫ぶ。
「『
シルファを中心に闇でできた刃が波となって押し寄せる。
この技は先にマーキングしていたポイントから闇の刃を任意の方向に飛ばす。
飛ばす方向も距離も何もかも自由自在だ。
だが、マーキングに少しだけ時間がかかるのでそこだけ注意が必要になる。
今回は常闇で視線を封じ、その間に円形に全体から攻撃できるようにマーキングさせてもらった。
「くっ。『
シルファが光の盾を召喚する。
闇刃がシルファの目前まで流れてくる。
シルファが受けきろうと全力で盾を構えた。
しかし、シルファの直前で闇刃が消える。
「なっ。」
「言っただろう?俺の鎌は一撃必殺になりかねない。だから、この攻撃で死ぬ可能性もあった。スキルは目の前で消させてもらったよ。」
首元に鎌を突き付けて俺は言う。
「ははは。参ったよ。降参だ。」
シルファが言う。
俺は闘技場を包んでいた闇を解除する。
「君のような強いモノと出会えてうれしいよ。しかも君は本気ではなかった。私を殺そうと思えばいつでも殺せたんだろう?」
「あぁ。」
その言葉に偽りはない。
最初から殺しにいくのであれば、なめられている間に大鎌で首を落とせばよいだけだ。
「セシアは、あぁ見えて度胸がある。まだ君たちにその気はないかもしれないが、私にとっては自慢の娘だ。何かあったときは、頼む。」
シルファが小声で俺に伝えてくる。
「あぁ。この世界で居場所のない俺を救ってくれた恩人だ。精一杯応えるよ。」
俺の返答にシルファはうれしそうな顔でこちらを見た後に、周りに聞こえるように叫ぶ。
「これにて終了だ。客席からは見えていなかったと思うが、私の負けだ。最初はいい勝負をしていたように見えたかもしれないが、彼は手加減をしてくれていた。」
周りから歓声が聞こえてくる。
シルファが再度こちらを見て話しかけてきた。
「さて、それではこれで終わりだ。今日は泊まっていくといいよ。黒竜から救ってくれた英雄だからね。」
「助かるよ。」
俺はそう答えた。
★★★★★★
夜、あてがわれた部屋のベッドで天井を見上げながら、この世界にきてからのことを思い返していた。
最初は森の中。聞いた話によるとあそこは死の森と呼ばれているらしい。
そのあとは「カリア」様が出てきて、死神という正体を隠せっていわれたっけか。
一瞬でバレたけど。
次の日は馬車を助けようとしたら黒竜がでてきた。
黒竜を倒してあっという間にセシア、レティナと仲良くなって、
冒険者事件。あそこではいろいろあったな。
そして…。
それからここにきて、シルファ様と戦って。
いろいろあったけど、充実していたのは間違いない。
「今はなんだかんだこの世界にきてよかったな。死神とばれたらどうなるかわからないけど。」
はぁ~と長い溜息をつく。
コンッコンッ
ドアが2回ノックされる。
「はーい」
俺は返事をする。
「私です。セシアです。」
セシアだ。きっとあの日の話だろう。
ドアを開け招き入れる。
するとセシアが抱き着いてきた。
「私は今からとんでもないことを言います。懺悔に近いでしょう。聞いていただけますか?」
驚きのあまり硬直してしまう。
「あ、あぁ。」
「あの日、私は確かに記憶がありました。レティナが混ざってこないようにスキルで止め、あなたに抱いてもらえるように。なぜそんなことをしたのか。一目ぼれだったと思います。黒竜に追われてもう死ぬしかないと思ったときに、現れたローブの人その人はとても格好良かった。その人は料理もできて、いろいろな話をしてくれて。。」
一呼吸おいてセシアが続ける。
「私の嘘がわかる能力についてはご存じだと思います。そのため、私はどこに行っても姫巫女としてしか見られないのです。みんな私を道具としてしか見てくれませんでした。あなたが初めてです。私を大事な人と言ってくれたのは。私たちを城に送り届けてからあなたがいなくなってしまうのが怖かった。」
セシアは本気で好いてくれていた。
それを理解した。
あの夜も望んでいたことだったのだと痛いほどわかってしまった。
セシアを抱きしめる。
「大丈夫だよ。俺はこの国から出て行ったりしない。ここには大事な人たちがいる。」
セシアに伝える。
腕の中にいたセシアがこちらを見上げ笑顔を向ける。
「私はあなたが好きです。その気持ちに偽りはありません。」
「あぁ。」
「ですが、私を今すぐに選んでほしいというわけではありません。私は一目ぼれでしたが、あなたが自分の中の答えを見つけてから悩み悩みぬいて、私に答えをください。」
すぐにでも答えようとする。
しかし、セシアの鋭い視線が俺を黙らせてしまう。
「答えを急がないでください。あなたはまだこの世界の一員になったばかり。これからたくさんの出会いと別れを繰り返すと思います。」
「…わかった。」
俺の返事にセシアがニコリと笑う。
「では、私は戻りますね。おやすみなさい。アシナ。」
「あぁ、お休み。」
セシアが部屋を出ていく。
去り行く後ろ姿に何も言えなかった。
セシアがこちらをちらっと見て、そのまま去っていく。
声をかけてあげられない自分に嫌気がさす。
俺は拳を握り締めた。
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