7話 ギリア


夜が明けた。大変だった。


最初は2人に襲われそうになったが、


姫巫女の力なのかセシア姫のスキルがレティナを抑えて静かに眠らせていた。




しかし、セシア姫とは一線を越えてしまった。


『月夜花』にやられて意識がない間とはいえ、


彼女の初めてを奪ってしまったことになるのだ。




護衛として、何より人として失格だろう。


申し訳なさと自己嫌悪で頭がぐちゃぐちゃになってしまう。




セシア姫に記憶は残っていないはずだ。


まずは、残っている冒険者3人を城につれていって、


2人の安全が確保されたら、


すぐにでも城を出よう。


なんならこのまま国外に逃げてしまう手もある。




本当はすぐにでも本当のことを話し、


謝罪するべきだ。




だが、今の関係を壊したくなかった。


たとえ、別の国に逃げることにしても、


この世界で頼れる話し相手というのが、


いなくなるのが嫌だった。








「おはよう。」




朝ごはんを作っていると挨拶が聞こえてきた。


レティナだ。




「昨日あの後、警戒して起きていたはずなのだが。


馬車に乗って横になってからの記憶がない。


そして今冒険者の人数が1人減っていて3人が拘束されている。


つまり何かが起こったことは間違いないと予測しているのだが、


何か知っていることはないか?」




来てしまったこの質問。


問題のない範囲で答える。




「昨日は冒険者4人が2人ずつに分かれて俺と馬車に襲い掛かった。リーダー格の男が言うには、俺を殺して2人を犯して報酬全てとレティナ達の弱みを得ようとしていたらしい。俺に襲い掛かってきた2人は返り討ち。だが馬車に向かっていたやつらに2人は眠らされていた。馬車に向かったうちの1人は俺が殺めてしまった。ただ、主犯のリーダー格は殺していないので、何か聞きたかったらそいつに聞いてくれ。」




「な…貴様ら…」


レティナが鬼のような形相で冒険者をにらみつけていた。




「おいおい、『雷閃』サマよぉ…こんなどこの誰とも知らない無名の言うことを信じるのかい?俺らは冒険者ギルドから派遣されたBクラスだぞ?俺らがそんなことするわけないだろ。逆だよ。逆。この知らねぇ奴が馬車に近づいて行ったから俺らが助けようとしたんだぜ?ご丁寧にこんな演技までしてくれているがよぉ」




冒険者がなんと言い返してきた。


昨日あんなに痛い思いをしたはずなのに、こりなかったのか。




「お前らよくそんなことが言えるな。まぁ嘘をついているかどうかは、セシア姫が起きてきたらわかることだからな。覚悟しておけよ。」




俺はそう断言する。


冒険者たちから暴言が飛んでくるが無視だ。


レティナと朝食を食べ始める。




「そういえば、セシア姫はどこにいったんだ?」


「姫様はまだ寝ておられる。具合が悪いそうだ。」




ドキッとした。体調が悪い理由は明らかに昨晩のせいだと思う。




「ちょっと様子を見てくるよ。食欲がないなら、軽い食事でも用意するからな。」


「あぁ、分かった。頼んだぞ。」




レティナからの返事もあったので、馬車に向かう。




馬車の前まで移動した俺は、ドアをノックしてみる。




「はい。」




セシア姫の声が聞こえた。




「アシナだ。」


「アシナ?どうしたのですか?」


「どうしたは、こちらのセリフだ。体調が悪いようだが大丈夫か?もしも食欲がないなら、軽い食事でも用意する。」




セシア姫からは少し考えているようだった。




「あの…少しお時間よろしいですか?」




セシア姫からの声がかかる。




「あぁ。」




答えると馬車のドアが少しだけ開く。


アシナがドアを引き、入り込むとそこには真面目な顔のセシア姫がいた。


昨晩とは違った顔に思わずドキリとしてしまう。




「お願いがあって、こちらに入っていただきました。」


「あぁ。」


「城についてからのことです。私はあなたと約束しました。身の安全を保障するとその言葉に偽りはありません。帰ってすぐに父と正直な話しをしたいと思っています。」


「任せたぞ。」


「はい。ですが、父に話しても何もなしで終わるとは思っていません。黒竜を1人で討伐できるような方ですからね。どの国もあなたを欲しがることは間違いないでしょう。それか仲間にならないのであれば殺してしまえ。と。


そこでですが、私の直属の護衛になりませんか?」






昨日の1件から城に送り届けたらすぐに国外に出ようと思っていたこともあり、


このお願いには困ってしまう。


この国を出たとしても他国で命を狙われる危険に変わりはない。




できればこの国にいて、近すぎず遠すぎずの距離感でお互いいるのが望ましいだろう。




「気持ちはありがたいが、申し訳ない。直属の護衛にはならない。」




セシア姫がとても悲しそうにこちらを見てきた。




「だが、護衛をしないわけでもない。この世界には冒険者ギルドというものがあったな。そこで依頼という形で引き受けるようにしよう」




「冒険者ギルドでの国からの指名依頼はSランク以上の冒険者に限りますよ。そんなこと言わずに。」


セシア姫は引き下がらない。




「この世界にはダンジョンは存在しないのか?」




VRMMORPGのソネストアには、ダンジョンがあった。最下層までいくとレジェンダリー武器が手に入るといわれていた、全100層のダンジョンだ。




だが、ソネストアレベルのカンストが100に対し50層くらいで敵のレベルが100になってしまい、


60層くらいまでいくと120レベルの敵が出てきたため、最下層に降りたものはいない。


同様なダンジョンがあれば、ギルドでのランク上げも簡単にできると考えた。






「えぇありますよ。ギリアから少し離れた場所にダンジョンが。そこは魔物が異常に多く冒険者たちがいつもスタンピードが起きないように魔物を狩ってくれていると聞いています。」




「そこでレベルの高い魔物の素材や装備などのアイテムを手に入れてこよう。それを納品することができたら冒険者ギルドのレベルもすぐに上がるんじゃないか?」




「確かにそうですね。前に聞いたときは現在35層が最高と聞いています。前聞いたときから少し時がたっているので今は38層くらいですかね。もっと深いところまで潜ることができれば、ランクは上げられるかもしれません。ですが、危険です。護衛をしていただきたいのに、命をかけなければならないダンジョンに行くなんて。」




「どうせ死神というジョブを持った時点でこの世界では常に命をかけなければならない。それならば自分が望むように好きに生きたい。」




「わかりました。では、ギルドのランクが上がるまでは私の護衛をお願いします。ギルドのランクが上がったら指名依頼とさせていただきます。」






どうやっても俺をそばに置きたいらしい。


これはどんなことを言っても聞きやしない。


梃子でも動かないだろう。




「わかったよ。セシア姫」




ちょうどお互いの意見を言い合った落としどころだろう。


俺は国に飼われるつもりはないからな。




「それともう一つ。私のことはセシア姫ではなく、セシアと呼んでください。」


「あぁ。わかったよ。セシア。」




うれしそうなセシア。


笑顔がかわいい。


若干、外でそんな呼び方をしたら不敬罪で殺されたりするヴィジョンが浮かんだが、


本人がそれでいいといっているのだからいいだろう。




「体調が悪いのは治ったのか?」




セシアは体調が悪いといって馬車に残っていたのを忘れていたようだ。


キョトンとした顔をしたあとに顔を赤らめる。


「はい。。。」




「んじゃご飯を食べに行こう」


俺は優しく笑顔で声をかけた。






★★★★★★




ご飯を食べ終わり馬車を走らせること3時間。


やっと川が見えてきた。




「これはでけぇ」


向こう岸には町が見える。




川といっていたが普通に湖と呼んでも差し支えないほどの大きさだ。


船着き場とその周りには家が建ち、普通の町に見える。




「この町に名前はないのか?」




気になったことをレティナに聞いてみる。




「あぁ。ここは正確にはギリアの一部として扱われているからな。正確にいえばもうすでにギリアに入っているのだよ。」




なるほど。川を挟んで両側にある町をギリアというのか。


町の中に入るとまっすぐそのまま船着き場まで移動する。




漁に出るようなサイズの大きさの船の先に豪華客船並み全長200メートルほどはありそうな船があった。


どうやら、セシアが『テスタ』に来た時に乗っていたものようだ。


セシアが1国の姫であることを再認識する。




船には、船を守るための兵が乗っており、冒険者3名の身柄の拘束と姫の護衛を変わるとのこと。


ギリアの城につくまでは気を抜いてもよさそうだ。




俺は与えられた船の一室に入りベッドに横たわった。






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