5話 護衛2
夜になった。ここまでは『紅蓮の焔』の連中も目立った行動はしていない。
晩御飯は俺が作っているし、食べているのは、俺とレティナ、セシアだけなので、何か盛られていることもないだろう。
うまそうだから飯をよこせと絡んだりはしてきたが。
俺はこの後の夜が怪しいと思っている。
寝るときは防具は外すが武器はいつでも取り出せるようにしておく。
この二日間レティナとセシアは馬車の中で、俺は近くにある木に腰掛けて寝ている。
寝る準備をしていたら『紅蓮の焔』のリーダー格が話しかけてきた。
「おう、明日も移動で大変だから早く寝ろ。足手まといになったらわかってんだろうなぁ?」
こんな、あからさまに邪険に振舞ってどうするのか。これから何かしますよと言っているようなものじゃないか。
「あぁ、わかってるよ。もう寝るところだ」
「ハッ、そうかい。まぁ俺らの邪魔だけはするなよ。」
そうして俺は寝たふりをする。
ここからが正念場だ。
★★ ★★ ★★
月がちょうど真上に来た頃、とうとう動き出した。
2人がこちらに、2人が馬車に向かっている。
俺は背中を向けて寝たふりをしているが、マップで位置はバレバレだ。
馬車の乗り場の死角になるように
馬車の乗り場から馬車を挟んで反対側に俺となるようにしている。
まずは音もなく、こちらに来ている2人を無力化しよう。
しかし、気づいてしまった。
ここはゲームの世界ではない。命を奪えば人は死ぬ。
ソネストアのPvPモードとは違うのだ。
経験値を失って復活するわけではない。
武器を持つ手が震えてきた。
どうする。
そうこうしているうちにこちらに向かっている2人があと5メートルというところまで来た。
もう、悩んでいる暇はない。
殺さず無力化する。
1メートルほどのところまで来たところで飛び起き、2人の首を叩く。
「カッ」
「ハッ」
2人とも一瞬のうちに気絶した。
実はこれ…かなり危険で死ぬ可能性があるって聞いたことあるんだけど
どうんだんだろう。
すぐに馬車の方に向かう。
すると、リーダー格の男と熊のような大男が馬車に入らずにこちらを見ていた。
「あぁん?なんだ?てめぇはくたばってなかったのか。」
殺意を隠そうともせずこちらを見てくる。
「俺らはこれからお楽しみなんだよ。黙って寝てろや。」
「お前らは、国から頼まれてセシアを迎えに来たんじゃねぇのか?」
少なくともこの言葉に嘘はなかったはずだ。
「あぁその通りだ。その言葉に嘘はねぇ。だが、何もしねぇとも言ってねぇ。まずは、邪魔なお前を殺す。次にこの『月夜花』で中の女どもが完全に寝て、目が覚めなくなるのを待つ。そこで調教して、俺らの言うことを聞かざるを得ないようにするんだよ。そして、邪魔なお前がいないことで、姫さんを助けた国からの報酬は全て俺らに入る。姫さんと騎士の2人が子供でも孕めば俺らはこの国でも最高位の立場になる」
簡単な話だろ?と言いたげな顔でこちらを見ていた。
『月夜花』ソネストアの中では『淫眠花』という呼ばれ方がされたアイテムだ。
対象の意識を奪い、興奮させる変態御用達のアイテムだ。
満月の前後数日しか使えないアイテムで、使われたとしても起きた時には記憶がない。ゲーム内だとスクリーンショットでその行為を納めて脅すと言うクソ野郎が沸いたほどだ。
ソネストアでは「開発に変態がいる!!!」と騒がれたアイテムである。
ソネストアの中では対プレイヤーでは効果がないように設定されていたが、NPCに手を出してやばいことになったプレイヤーもいた。
この世界でも同じものがあるようだ。
「こいつら…ゆるさねぇ…」
セシア姫とレティナ。
まだ2日の仲とはいえ、誰にも会えずしんどい時に出会えた心を許せる相手だ。
絶対に何もさせない。
一瞬のうちに装備のフルセットをアイテムボックスから装備する。
顔が隠れる黒いフード。月明かりしかない夜の中で闇に紛れる。
さらにオンオフ系のパッシブスキル『闇夜の友』の効果で存在感を限りなく落とす。
ここまでくると察知系の能力がなければ絶対に見つけられないだろう。
「なんだ?あいついなくなったぞ?ビビって逃げたのか?」
頭がめでたい奴らだ。俺が逃げたと思ったらしい。
まぁこんな綺麗に姿を消す方法なんてソネストアにはなかったからな。この世界でもありえないことなんだろう。
「んじゃそろそろ馬車の中にお邪魔するかー。これから朝まで楽しまなきゃな!」
ギャハハと大声で笑いながら熊のような大男に命じ馬車のドアを開けさせるリーダー格。
一気に近づき、熊のような大男の首を切り落とす。
命を一瞬で刈り取る、一撃必殺の絶対切断。
逃れようはない。
首を切断した返り血がリーダー格の顔に飛び散る。
「んな、なんだよ!おぃい!」
明らかにビビっている。
もう一押しだろう。
スキル『闇夜の友』の効果をオフにし、後ろから耳元に声をかける。
「残念だったな。お前はゆるさねぇぞ。俺はセシア姫を守ると約束した。どうなるかわかってんだよなぁ?」
「上等だ、ゴラァ」
折れるかと思ったら逆上してしまった。
キレながら腕を振り上げてくる。
さっと後ろに距離を取り顔を見る。
本気でキレているようだ。
追い打ちをかけるように声をかける。
「死ぬ覚悟はできたようだな。なら、かかってこい。俺は大事な人たちを守るのにためらいはない。」
この大事な人たちというのは、この世界で生きるために大事なのであってロリコンではない。
断じて違う。
まずは軽く揉んでやろう。
再度スキル『闇夜の友』を発動し闇に紛れる。
「な、また、あいつ消えやがった。」
驚いているが反応などしてやらない。
思いっきり殴りつける。
殺してなんかやらない。
「うがぁ」
ボキッという音とともにぶっ飛ばす。
この感じだと骨の数本はイっているだらう。
「おい、てめぇ、卑怯者がどこに隠れてやがる。正々堂々とやり合え。」
何か言っているようだがお構いない。
鎌の先端で突くように攻撃し、身体中に生傷をつけていく。
チクチクチクチク
治るような傷とはいえこんなにやられたらかなりの痛みだろう。
チクチクチクチク
「お、おい。悪かった。やめてくれ。頼む!」
チクチクチクチク
「すみませんでした。本当にやめてください」
チクチクチクチクチクチクチクチク
「」
黙ってしまった。
あまりの痛みに気絶したようだ。
仕方ないので、手足を縛り仲間と一緒に転がしておく。
先に倒した2人も拘束するのは忘れない。
平穏が訪れた。
馬車の近くに寄って中を覗き込む。
「大丈夫か?」
外から声をかけるが反応はない。
馬車のドアを開け中に入る。
艶めかしい2人がこちらを見た。呼吸も乱れている。
「遅かったか…」
月夜花の効果にやられているようだ。
これ以上近くにいると俺の貞操が危ない。
朝には治るはずだから、それまで馬車のドアを背に明かないようにすれば大丈夫だろう。
急いで振り向き馬車から離れようとする。
「…アシナ」
後ろから抱きしめられ、首元から声が聞こえる。
セシア姫のかわいい声が聞こえてしまった。
俺は硬直し身動きができなくなる。
そのまま俺は馬車に引き倒された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます