3話 出会い
馬車から50メートルくらいのところで止まったアシナは武器をしまった。
フードはかぶったままだ。
「下手をすると指名手配されるかもしれないからな。まずは用心だ。必要最低限の情報しか与えないこと。なんなら声も出さないように気をつけなければ。」
武器をしまったまま50メートルほどのところでひたすら待つ。
すると、5分くらいたったころで馬車から1人降りてきた。
見た目は20代前半の女の人だろうか。
長い金髪にすらっとした体型。
腰にはレイピアのようなモノを携えている。
視線は鋭く、こちらを警戒しているようだ。
「こちらは、レビュナ王国の王国騎士所属『雷閃』のレティナである。黒竜の討伐感謝する。そちらは何者か。
フードを取ってもらえないだろうか。こちらに敵対の意思はない。」
はっきりと澄んだ声でこちら側に問いかけてきた。
しかし、ここで声を出すのはまずい。
死神として敵対した場合に今後生きていけない可能性だってある。
録音機能があったら?動画を撮るような機能があったら?
今できる最善の答えは黙っておくしかないだろう。
無言を貫き相手を見続ける。
10分ほどたっただろうか。
どちらも動かず向かい合っていると馬車から1人の女性が降りてきた。
こちらは15歳くらいだろうか。
銀髪の綺麗な長髪。ドレスを着ており、見るからにテンプレのようなお姫様だ。
レティナと名乗った女性がお姫様っぽい人に近寄り何か話している。
こちらまでは聞こえないが、多分危ないから馬車の中へ戻るように会話しているのだろう。
こちらは一向に距離を取りつつ向かい合う。
正直疲れてきた。
「私はレビュナ王国 第3王女 セシアと申します。先程は命を助けていただきありがとうございました。
少し、お話をさせていただきたいのです。フードは外さなくて結構です。こちらに来ていただけないでしょうか。」
正直難しい。だが実際頼る相手がいないのも事実だ。
まずは1体1で姫と話すが利口だろう。
ゆるりと馬車に近寄る。
レティナと名乗った女性はレイピアに手をかけ、こちらを注視している。
なんとしてでも姫と2人きりで話さなければ。
最悪、姫を人質に取ることも視野に入れなければならない。
馬車から10メートルくらいの位置一度止まる。
自分とセシア姫を指差してから馬車を指差した。その後、レティナと名乗った女性を指差し、ここに止まるように地面を指差す。
「な、貴様、姫と2人になろうとは、何が狙いだ?」
レティナがこちらを睨みつけながらレイピアを抜いてくる。
血の気の多い奴だな。
だがこちらは同じジェスチャーを繰り返すのみだ。
「いいのです。レティナ。黒竜を1人で討伐するような相手に我々では5秒と持たないでしょう。それを分かった上でこちらにきていただくようにお願いしています。レティナはこちらでまっていてください。
覗き見るようなことはないように。これは命令ですよ。
どうぞ、そちらのフードの方は私についてきてください。」
姫が馬車に乗り込んだ後ろについていく。
レティナの射抜くような視線を感じるが無視して馬車に入り込んだ。
馬車の中はとても豪勢な作りになっている。
高級感が溢れている。
とりあえず姫の正面に座る。
「まずは、再度お礼を。
この度は助けていただきありがとうございました。
私はこの先の『テスタ』という街に向かっていました。
本当は騎士隊がいたのですが、先程の黒竜に襲われ、私を逃がすために皆残って足止めをしてくださっていました。
そのため、残っているのはレティナ1人になってしまっています。」
なるほど。普通は一国のお姫様が護衛をつけずに変だと思ったが、足止めとして全員やられてしまったのか。
こちらの反応がわかるように軽く会釈をし話を続けさせる。
「この国では黒竜は天災と言われており、過去何度かの討伐隊が組まれましたが倒しきることはできませんでした。それをお一人で倒し切るような冒険者は見たことがありません。
お名前や所属している冒険者ギルドを教えていただけませんか?」
このまま黙ったままだと話は進まないのは明確だ。
今の話を聞いた限りだと、この世界の騎士達は俺に比べてかなり弱い。
何かこの国で追われるようなことがあっても、俺なら対処できるだろう。
情報が得られたからこそ、交渉を始めるなら今だ。
「取引をしたい。」
こちらが反応すると思っていなかったのか、お姫様がキョトンとした目でこちらを見た。
「この世界の転覆を狙う悪しきもの達によって死神が召喚されたという話は知っているか?」
お姫様は目を見開き、さらに驚いていた。
「それは…私が知っている内容と若干違いますが存じております。この国だけではなく世界の滅亡を願う組織『ヴェリアスト』がとある村の1000人の命を犠牲に死神を召喚し、この世界を滅ぼそうとした。と。
ですが召喚は失敗し、召喚陣からは何も出てこなかったと報告を受けています。」
なるほど、死神の召喚はそういう風に失敗したことになっているのか。
1000人も犠牲になって俺が呼ばれたのか。
悲しくなってきたな。
「なるほどな。では、本題だ。
俺は迷い人だ。異世界に住んでいた。
それがその死神召喚というものに巻き込まれたようでな。職業が死神になって、この世界に飛ばされている。
この世界の神様に介入してもらうことで、なんとか死神として暴れまわることなく、今を生きている。
つまり、死神の召喚は成功したことになる。
だが、俺はこの世界に対して特に敵対の意思はない。
俺の身の安全を保障してくれないだろうか。」
セシナ姫は再度驚いたような顔をしながらこっちを見ている。
混乱しているのだろう。無理もない。
目の前に世界の敵がいるのだ。
やはり、交渉は決裂かと諦めようかと思ったその時。
「なるほど。だから私は『テスタ』に行けと天啓をもらったのかもしれませんね。
あなたが嘘をついていないことはわかります。
私はこの世界で唯一の『姫巫女』のジョブを持っていますから。」
ゲームにはなかった職業だ。
スキルなどは未知数。
だが今のを聞くと、
『天啓』つまり神からのお告げを聞くことができる。
それと嘘を見抜ける能力も保持しているように聞こえた。
「信じてもらえるのだろうか。」
「信じます。ですがその交渉にあたり、こちらからもお願いをさせていただけませんか?」
セシナ姫から逆に条件を提示されるとは思っていなく、こちらが驚いてしまう。
黒竜から守ってあげたお礼で条件を出しているのに、まさか条件を出されるとは。
「1つ、貴方を助けるための私が死んでしまっては何もできません。ついては、私が城に戻るまでの護衛をお願いしたいのです。
2つ、フードを外して名を教えていただけませんか?
こちらも同様な理由で顔を隠し名乗られない方を周りに信じろというのは難しいです。
3つ、料理はできますか?」
…??
1つ目と2つ目はまぁ簡単だ。
相手が信じてくれるならこちらも信じるしかない。
3つ目はどういうことだ?
「私とレティナは料理ができません。このままでは城に戻るまで何も食べれません。城までは馬車で3日ほどで着きます。既に体力も限界なのです。」
俺は笑ってしまった。
確かにセシナ姫が言う通りだろう。
フードを外し、名乗る。
「俺の名前はアシナだ。よろしく。護衛と料理は任せてもらおう。」
手を差し出し握手を求める。
「はい。よろしくお願いいたします。アシナ。私のことはセシナとお呼びくださいな。」
握手を返してくれたセシナ姫の笑顔はとても眩しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます