1章 ここは異世界

1話 死神を呼びだした世界

僕、蘆名悠人は普通のVRMMORPGプレイヤーだ。




特別なプレイヤーになりたかった。


自分だけの何かがほしかった。


装備、パーティー、ジョブ…。


その中でも今回のイベントで手に入れた新ジョブ『死神』これはゲーム内で他に持っているものはいないだろう。




死神の能力はどんなものでも一撃必殺の『絶対切断』これによりかなりハードなレベリングを行えた。




レベルはカンストしたし、ステータスも一般的なジョブよりかなり上だ。


スキルも使いこなせるようになった。


しかし問題がある。




ここはどこなのだろうか。


未だにチュートリアルも出て来ず、ログアウトの表示もない。


レベルをカンストして今更チュートリアルも何もないが。




魔物を倒しながら森を走り続け、やっと平原に出た。左側には湖がある。


周りをぐるっと見渡してみたが、やっぱり街は見当たらない。




とりあえず、死神っぽくみえる顔が隠れる黒いローブや大鎌の装備などを外し、火を起こす。


水浴びをしないと流石に身体がまずい。


装備一式をアイテムボックスにしまい、近くにあった湖で水浴びをする。




「どうやってログアウトしたものか。」




このままでは学校の単位がやばいことは明確だろう。


卒業できなければ育ててくれた人たちに申し訳が立たない。




解決策がないまま、湖から上がり体を乾かす。


これからの目標を考えよう。




「まずは、人のいる場所に出ること。ここがどの辺りなのか確認すること。活動資金を集めること。


まず、やるべきなのはこのあたりだろう。」




自分に言い聞かせる。流石に1人は寂しくなってきた。


基本的には動きっぱなしでほとんど寝ていなかったこともあり、疲れがピークに達してきたため、軽装に着替え仮眠をとることにした。




★★★★★★




目を開けるとそこは何もない空間だった。


真っ白な世界。




「はじめまして、蘆名悠人さん」




急に正面から声が聞こえた。


何も見えない。




だが、ぱっと瞬きをした瞬間に目の前に人が立っていた。


まるで最初からそこにいたような存在感だ。




声をかけてきたのはとても綺麗な美女だった。


といってもこの手の類は、ライトノベルとかでよくある神様であろう予測を立てる。


このパターンでいくとよくあるのが、実は神様の手違いで殺されていて、異世界に。。。というパターンだ。


フラグが立っては嫌なので、下手なことは言わないほうがいいだろう。




「こんばんは。はじめまして。」




軽く会釈をし相手の出方を待った。




「まずは、挨拶を。私はこの世界の神です。名を「カリア」といいます。もちろん、本来であれば姿形という概念はないので、今はあなたの深層意識がそう望んでいたため、それに合わせて女性の姿をとっています。」


「は、はぁ…」




普通に美女を望んでいたとか恥ずかしい。


顔から火が出そうなアシナをよそに話を続ける。




「次にあなたの現状について説明します。


この世界にはいくつかの大陸があり、色々な国が存在します。あなたがいた地球ほど大きくはないですが。




この世界では、人間が存在するのが地のためにならないと、人々を消し世を浄化することを掲げているものたちがいます。その者らが死神を召喚する儀式を行い、あなたは召喚されてしまいました。




つまり貴方はこの世界を滅ぼすために召喚された者です。


ですが、私が介入することで召喚される場所を逸らすことに成功したため、このような場所に召喚されてしまっています。もしも、この世界を滅ぼそうと企む者たちの前に召喚されていたら、魔法で記憶を封じ込められ、すべてを破壊尽くすまで元に戻れない呪いをかけられていたことでしょう。この世界に何も関係がなかったあなたに対しては謝罪の言葉しかありません。申し訳ありません。」




アシナは言葉を失ってしまった。


要は異世界召喚だ。フラグが早くも回収されてしまったのだ。


この何も知らない場所に1人になってしまっている。




「帰る方法はあるんですか?」




「申し訳ありませんが、存在しません。」




『カリア』の言葉はアシナにとっては絶望だった。




「どうしてですか?この世界に呼べたということは、あちらの世界からも呼べるのではないですか?」




「あなたがいた地球にはマナが存在しないため、召喚魔法が使えないのです。使えれば私の力を使って貴方を召喚対象にし、戻すことができるのですが、あの世界は私の管轄外。どうにもならないのです。」




アシナは黙ってしまった。いや、黙るしかなかった。




「地球上での貴方が消えているという事実は世界のつじつまが合うようになっているので、問題にはなっていません。」


「そういうことじゃないんだよなぁ。」


「大変申し訳ありませんでした。」




アシナはふーとため息を一つ吐いた。このままでは拉致があかない。




「わかりました。戻れない前提でこの世界で生きることにします。そのためにもいくつか教えていただきたいです。」


「なんなりと。」


「まずはじめに、この世界には異世界召喚者は珍しいですか?」




「時々召喚されています。あなたの世界からだけではありませんが。


 基本的な召喚事例は他国との戦争のための勇者のようなポジションですが、


 たまに迷い込む方もいらっしゃいます。この世界ではそのような者達を迷い人と言います。」




「わかりました。これからは人に会ったら迷い人というようにします。次に近くの人里を教えてくれませんか?」




このまま人に会えないようでは生きるに生きれないからな。




「そこは問題ありません。明日、とある馬車が魔物に追われて逃げてきます。その魔物を倒すようにしてください。その際ですが、この世界の人々の中には死神の召喚がされた事を知っている者たちがいます。死神と名乗るのはやめておいたほうがいいでしょう。


合わせてステータスを改竄するスキルをお渡しします。今現在設定されている死神から、戦士などに変えておくと良いと思います。」




話しながら『カリア』の手から飛んできた光が自分を包む。


『カリア』の話が終わり、すぐにステータスを開くと職業欄を死神から戦士に変更する。




「わかりました。これで大丈夫だと思います。次にこの世界での生き方についてです。よくある異世界モノの様に何か使命がありますか?」




「自由に生きていただいて問題ございません。死神のごとく殺戮のままに生きるのも。この世界の果てを探しに向かうも。国お抱えの騎士になるでも。」




本当に自由に生きて良いようだ。




「わかりました。」




ここまできたら覚悟を決めるしかないだろう。




「最後にモノの価値やお金などはソネストアと同じです。あなたが作成した他のキャラたちの装備やアイテム、お金を全て貴方のアイテムボックスに追加しました。これで少しでも謝罪とさせていただければ。」




「ありがとうございます。」




貯金はかなりあるので生きていくのもなんとかなりそうだな。




「質問は以上です。覚悟は決まりました。」




「本当に申し訳ありませんでした。」




『カリア』様がそういうと少しずつ世界が光りだす。


眩しい光の中目をつぶってしまい、意識が遠のく。




その中でアシナは思う。




覚悟は決まった。


どうせ戻れないなら、この世界を楽しんでやる。


この世界で死神という力をもって、特別になってやるんだ。




そう思い、アシナの意識は途絶えた。

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