え? もう期末試験なの……?

 ついこの前、中間試験で無様にも天音に敗北したと思ったら、早くももう期末試験の時期だという。

 時間がたつのは本当に早い……早すぎて、明日にはもう高校を卒業してそうな気すらしてしまう。

 え、時間を飛ばした? と思うくらい、本当に早い。

 だから一気に時間を飛ばして、早くこい夏休み。


「というわけで先輩、放課後は図書館デート……もとい、テスト勉強を学園の図書館でしましょう!」

「え、勉強なんて別に家ですればいいだろ、わざわざなんで図書館で……」

「どうしても私は図書館でしたいんです! ……ダメですか?」


 うっ……その上目遣いやめろよお前!

 その顔されると、なんか言うことを聞かなきゃいけない気になるんだよ!

 最近その顔悪用すること、多いぞ……!


「はぁ……まぁ、別に行ってもいいけど」

「やったっ! ……くふふ、楽しみですね先輩!」


 勉強をしにいくのに、何が楽しいのだろう?

 俺には天音の考えていることは、やっぱりわからないな……。


 * * *


 勉強するなら自分より成績が上の人間がいた方がいいだろうと、今日の勉強会に五百里と音琴も誘ったのだが

「自分たちは馬に蹴られたくない」

 などといい、さっさと帰ってしまった。

 まったく、友達甲斐のない連中である……ちょっとは勉強を教えてくれてもいいだろうに。


「そういえば、先輩は図書館で勉強ってしたことあるんですか?」

「いや、ないな……五百里たちとする時は近所のファミレスとか、うちでやるし」

「なるほどー、つまり私が『初めての女の子♡』ってことになるんですね! くふふ、『先輩の初めて♡』もらっちゃいました!」

「その言い方、なんか卑猥じゃない? ってかなんでそこ強調して言ったの?」

「ちなみに私も『初めて♡』なんです!」

「今その情報必要だった!?」


 ほら、今のトコ聞いてびっくりした女の子が顔真っ赤にしてるじゃないか。

 違うよ、君の想像しているようなことは、何一つないから安心してね?


「くふふ、卑猥に聞こえるのは先輩がえっちだからですねー!」

「理不尽……っ!」

「さて、それはそうと……それじゃあ図書館にある、個室の利用も初めてってことですね」

「あるのは知ってたけど、縁はなかったからな」


 そう、この学園の図書館には、珍しい施設がある、という噂を聞いていた。

 それが、「学習用個室」である。

 事前申請が必ず必要で、そんなに広いわけではなくせいぜい4人で手一杯。

 PCも設置されており、すぐに調べ物が可能という至れり尽くせりな部屋、らしい。


「確か利用申請が事前に必要なんだっけ」

「ふふーん、もちろん、申請済みです! 事前に申請しておいた私をたくさん褒めてくれてもいいんですよ? なでなでしてくれてもいいんですよ!?」

「はいはい、えらいえらい」

「愛が足りない!!」


 ぷくーっとむくれる天音の頭を、ぽんぽんと撫でてやる。

 これだけでにへーっとだらしない笑顔になるのだから、この程度ならお安いものだ。


「じゃあ、ちょっとカウンター行って来ますね」

「悪いな」


 天音がカウンターで利用説明を受けている間、図書館をキョロキョロと見回す。


 図書館、って聞いてたけど……この蔵書量は凄いな。

 市の運営している、中央図書館の蔵書量と遜色ないんじゃないだろうか?

 と言っても、あっちの図書館で本なんて借りたことないから、どの程度あるのか詳しくはしらないけど。

 前行ってた時は、散々寝てたからなぁ……。


「ああ、ここの図書館凄いですよね、私も初めて来た時はビックリしました」

「正直図書館とか全く興味なかったけど、これは普通の日にも来てみたくなるな」

「じゃあ期末テストが終わったら、私と図書館デートですね!」

「お前はほんと、なんでもデートに結び付けるのな」


 なんなの、恋愛脳なの?

 この作品には恋愛要素はありません! って作者が言ってても、無理矢理恋愛に結び付けそうな奴だ。

 きっと恋愛要素0な作品にも無理矢理恋愛要素をくっつけて映画化する人たちも、天音のような恋愛脳なのだろうなぁ……。


「さ、それより利用許可が下りましたから、早速行きましょう」

「そうだな、ちょっと楽しみになってきたわ」

「くふふ、私も楽しみです!」


 ……何が?


 * * *



 初めて入った学習個室は、なかなかいい感じの部屋だった。

 一つ一つをしっかりと区切り、「個室」として独立しており、

 だからといって空気が溜まって暑くも寒くもならないよう空調もしっかりしており、椅子もふかふかの横長ソファー型で……えっこれ勉強するための部屋だよね? 凄い居心地よさそうな部屋なんだけど!?


「これはなかなかいいな……申請が必要とかアホらしいと思ってたが」

「ですねー、正直舐めてました。椅子がソファーで横並びなのもいいと思います!」

「おい、あんまりくっついて座るなよ、机の横幅結構広いだろ?」

「くふふ……まぁまぁ! ちなみにこの個室、別名があるのを知っていますか?」


 別名だと?

 そういえば映画館のときも、プレミアムシートの別名……とか言ってたな……まさかこいつ!?


「もうお気づきですね! そう! このブースは『カップル専用勉強部屋』と呼ばれており……」

「帰る、お疲れ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 待ってくださいよぉ先輩!」


 シャツの裾を掴み、必死になって俺を引きとめようとするが、そんな事を聞いてなお俺がここに留まると思うのか! ええい話せ天音! こんな場所にいられるか! 俺は家に帰らせてもらう!!


「いいじゃないですか一回くらい! 私のお願い聞いてくださいよぉ!」

「こら、離せ天音! ……ええい俺は帰る! 帰るといったら帰るんだ!」

「いーーやーーでーーすぅーー!!」

「こらっ、そこの部屋、うるさいですよ!」

「「申し訳ありませんー!!」」


 ほらもー! 天音のせいで怒られたじゃないか!

 これ以上騒いでいたら、また怒られるだろうし、それは恥ずかしいし、それは俺にとっても本意ではない。

 仕方なく……仕方なく! 席に戻るんだから! 勘違いしないでよね……っ!!


「ほらほら先輩、一緒に勉強しましょ♡」

「最近お前、性格悪いぞ」

「先輩に振り向いてもらおうと必死なんです! そう思うなら、そろそろ私とお付き合いしませんか?」

「諸般の事情でその時間が取れない状況のため、 今回はお断りさせていただきたく存じます」

「もー! なんでですかー!」


 ぺしぺしと二の腕を叩いてくるが、非力な天音の攻撃など痛くもかゆくも……

 痛くもかゆ……おい天音、痛いぞさすがに!?


「ほら、勉強すんだろ? さっさとやろうぜ」

「むー……私としては勉強より、もっと先輩といちゃいちゃしたいんですけど?」

「勉強しに来たんじゃなかったの!?」

「勉強するつもりだったんですか!?」


 あれっ、テスト勉強しようって誘ってたよね、君!?

 えっ、最初からテスト勉強する気なんてなかったの!?


「お前、まさか最初から勉強する気なんて……」

「くっ……バレては仕方がありません……えいっ!」

「あっ、お前!」


 ぽす、っと膝の上に天音の頭が乗ってきた。

 こいつ、最初からこれが目的だったのか!?


「くふふふふふ……先輩の膝枕……はぁはぁ……」

「おいやめろ天音、やめて、やめてくださいお願いします……!」


 個室の中とはいえ、外から中が見えるようになってるんだぞ!?

 さすがに公共の場で女の子を膝枕は恥かしすぎて死んでしまいます!


「いやでーす、今日の私は、先輩にめいっぱい甘えデーなのです!」

「なんでそんな日勝手に作った!? 言え! なんでだ!!」

「くふふ、さぁ、頭を優しく撫でてください!」


 さぁさぁ、と期待に輝く瞳を向けてくるが、あいにくそんな事をするつもりはない。

 変わりに、天音のデコに思いっきりデコピンをくれてやることにしよう。


「そんなこと……するかっ!」

「あいたーっ! 先輩! DVですか!? 酷いです、付き合ってください!」

「その会話、前後おかしくない?」


 額を抱えて悶絶しているが、意地でも俺の膝から頭を上げるつもりはないようだ。

 あまりやりたくはないが、頭を無理矢理持ち上げてやめさせるしかないかぁ。

 はぁ、やだなぁあんま女の子の頭持ち上げるとか。


 そう思った俺は、遠くを見ようとして……ふと見てしまった。

 悶絶している天音が、足をバタバタとさせていたせいで、スカートがまくれ上がっていて……。


「お、おい天音、スカート!」

「えっ? ……あっ!」


 焦って起き上がり裾を押さえるがもう遅い。

 ばっちり見えました、薄いピンク色の……。


「……見えましたか、先輩」

「ギリギリ、見えませんでした」

「ほっ、よかったです……いやー危ない、今日実ははいてなかったんですよねー!」

「薄いピンク色だっただろなんでそんな嘘つくの!?」

「なんで見えてないとか嘘ついたんですか?」


 ジトーっとした目で見てくる天音から、そっと目線を逸らす。

 気まずい。


「……今度膝枕、してやるから……」

「はいっ、楽しみにしてます! くふふ、さぁ勉強しましょうか!」


 にこーっと笑顔になり、上機嫌で教科書を開いた天音を見ながら、ハメられた……! と思った俺を、誰も責められはしないと思います……。

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