第3話父さんの思い

 家に帰る着き俺は部屋に行くため階段を登る。

 ギーギーと木が軋む音にどんどん緊張が膨らんでいく。本当に大丈夫なのか?プロゲーマーになれるのか?そんな不安をこの音は掻き立てていく。

 部屋の扉を開けるとそこには大きなダンボールが1つと『END THE GAME』と書かれたゲームソフトのケースがビニールに包まれて太陽の光を反射させて光っていた。


「やっと俺の夢への第一歩を踏み出すのか」


 ボソッと心の声が漏れてしまった。

 俺が興奮してゲームを見ていると扉をノックする音がして聞き慣れた低くておっとりとした声が俺に喋りかけてきた。


「入ってもいいか?」


「いいよ」


 そう素っ気無い態度で返事をすると、案の定自分の息子にまで低姿勢な父さんがゆっくりと扉を開けて入って来た。


「どうしたんだよ?急に部屋に来るなんて」


 俺はいつもと同じ様に思春期らしい態度をとった。


「すまないな。大きな荷物だったから手伝える事が無いかと思ってな」


 父さんはそう言いながら自分頭の後ろを撫でながらヘラヘラしていた。

 その姿を見て俺も情けなくなってしまう。

 父さんは普通のサラリーマンをしている。しかし40歳を超えても昇進できないので普通ではなく、ヘッポコサラリーマンだ。俺はそんな父さんが嫌いだ。


「あぁそうだったの。じゃあそこのダンボールの中身出して」


 せっかくなので父さんをこき使ってやろう、そう思いながら父さんに指示を出した。

 ダンボールを開けて中身を取り出すと最新型のフルダイブゲーム機が入っていた。ゲーム機と言っても、フレームは白く、人が1人入れるくらいの大きさで、顔を置くであろう位置に中が見える様に黒いガラスの様な物が付いていた。


「わぁー!すげっえー!」


 思わず父さんの前で声が漏れてしまった。俺は慌てて口を塞いだ。


「フハハハハ」


 父さんが今まで聞いたこともないくらいの笑い声を上げた。


「春風お前はプロゲーマーになりたいのか?」


 いつもとは違う凛々しい声で俺に問いかけきた。

 部屋の空気がピシッと張り詰めたのが分かった。多分、父さんも感じているのだろう。


「あぁプロゲーマーになりたいよ。なって俺は世界で活躍したい!」


 部屋の空気感のせいで父さんに高々と夢を宣言し、俺は自由の女神のように高々と指を掲げていた。

 俺はその事に気づき慌てて元の姿勢に戻った。恥ずかしい、そんな気持ちを知られないように黙り込んだ。

 すると今度は父さんが立ち上がって話し始めた。


「父さんはな、昔ゲームを作る仕事がしたくてなゲーム会社に就職したんだ。そしてゲームをいくつか作ったが特にヒットする商品も出せずに辞めてしまった。それからは仕事に熱意を持つ意味を見失ってしまい今に至る訳なんだ」


 始めて父さんが自分から俺に話しをしてくれた。いつも優しい以外に取り柄のない父さんが。


「だから春風お前には夢を叶えるだけで無くその先の所まで行って欲しいんだ。だから頑張れよ」


 そう言った後父さんは何も言わずにゲームの配線作業に取り掛かった。配線作業が終わると俺はゲーム機を開けて中に腰掛けると、父さんがもう一度声を掛けてくれた。


「お前ならプロゲーマーにだってなれる!俺はお前の努力を知ってる。夜遅くまでゲームのコマンドを見て勉強したり、それを試したりしている事を。だから」


 少しの間を空けて父さんはこの日一番の声でいった。


「夢を摑み取れ!そしてその先の景色まで見届けろ!」


 そう言うと、父さんはゲーム機を閉じた。

 俺はその言葉を噛み締めながらゲームの世界へいざなわれていった。

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