第65話『日焼け止め』
8月1日、木曜日。
昨日はバイトの疲れもあったし、花火をしているときの夏実さんの言葉で池津での時間を楽しむことを決意したからか、一昨日と比べてたっぷりと眠ることができたな。
海の家でのバイトは昨日で終了したので、今日は午前中に池津海岸でたっぷりと遊んで、海野さんちの海の家でお昼ご飯を食べたら、東京へと帰る予定だ。
午前9時。
朝食を食べて、少しゆっくりとした俺達は海で遊ぶことに。
海野家の方のご厚意により、俺達が東京に帰るまで4号室と5号室に荷物を置かせてもらえることになった。俺は4号室、咲夜、紗衣、麗奈先輩は5号室でそれぞれ水着に着替えることに。
目の前に海岸はあるけれど、陽差しも強いし、道路を一本挟むこともあってみんな水着の上にTシャツを着て海岸へと向かうことに。昨日、ミスコンで水着姿は見ているのに、Tシャツを着て上の方を隠されるとドキドキしてしまうのは何故なのだろうか。
海野さんちの海の家の近くを陣取って、そこに持参したレジャーシートを敷いたり、4人で割り勘してレンタルしたビーチパラソルを設置したりした。
「……よし。これでビーチパラソルを設置できましたね」
「ありがとう、颯人君!」
「サンキュー、颯人」
「これで日陰で過ごせる場所を作ることができたね。……あと、はやちゃんにお願いがあるんだけど、聞いてもらってもいいかな?」
「何ですか?」
「……わ、私の体に日焼け止めを塗ってほしいの!」
麗奈先輩は持参したバッグから日焼け止めを取り出し、頬を赤くしながら俺のことをじっと見つめてくる。向こうから頼んでいるんだし、日焼け止めを塗っても大丈夫だろう。
「分かりました。俺が日焼け止めを塗りますよ」
「うん! ありがとう!」
「あ、あたしにも颯人君に日焼け止めを塗ってほしい!」
「私も颯人に塗ってほしいな」
「分かった。咲夜や紗衣にも塗るよ。ただ、さすがに3人同時にはできないので順番を決めてくれますか?」
「分かったよ、はやちゃん」
3人は塗ってもらう順番をどうするか話し合う。
その間に、俺は周りの様子を見るが、3人が可愛らしいからか、それとも昨日のミスコンのことを知っているからなのか、男性を中心にこちらを見てくる人が多いな。ただ、俺が一緒にいるからか、見てくるだけで話しかけたりしてくる人はいない。
話し合いの結果、昨日のミスコンと同じように麗奈先輩、紗衣、咲夜の順番で日焼け止めを塗ることに決まった。また、3人全員に塗り終わった後、お礼に3人が俺に日焼け止めを塗ってくれるという。
最初に塗ってもらうことになった麗奈先輩はTシャツを脱いで、レジャーシートの上にうつ伏せの状態になる。
「はやちゃん。この日焼け止めを、背中と両脚に塗ってくれますか?」
「分かりました。では、さっそく始めますね。まずは背中の方からやりましょうか」
「はい! お願いします!」
俺は麗奈先輩から受け取った日焼け止めを右手に出して、麗奈先輩の背中に塗り始める。
「ひゃあっ」
「もう少し優しく塗りますか?」
「う、ううん。日焼け止めが冷たかったのと、はやちゃんに触れられたのが気持ち良くて。今の感じで塗っていってください」
俺の方に振り返って、笑顔で言う麗奈先輩はとても可愛らしくて、艶っぽい。だからなのか、麗奈先輩から甘い匂いがふんわりと香った気がした。
麗奈先輩の背中と両脚に日焼け止めを塗っていく。
日焼け止めが手に付いているのもあるだろうけど、麗奈先輩の肌、触り心地がとてもいいな。あと、ドキドキしているのか、塗っていくうちに先輩の肌が熱くなっていっているのが分かった。
塗り方が良かったのか、途中で彼女に止められたり、塗り方の注文をされたりすることもなく、背中と両脚に日焼け止めを塗ることができた。
「麗奈先輩。背中と両脚、一通り塗ることができました」
「ありがとう。とても気持ち良かったよ。はやちゃんさえ良ければ……前の方も塗ってみる? ……はやちゃんなら、ま、前の方も塗ってくれていいんだよ?」
「か、会長さん! それはさすがにまずいんじゃ? そうしてほしい気持ちは分からなくはないですが……」
「泊まった部屋ならともかく、ここは海水浴場ですからね」
「2人の言う通りですね。周りの目もありますし」
「ふふっ。みんなかわいいな。2人も順番待ちしているし、今日はこのくらいで。はやちゃん、ありがとう」
そう言って、麗奈先輩は可愛らしい笑みを浮かべながら軽くキスをしてきた。そのことに周りがざわついている気がするが……気にしても仕方ないか。
麗奈先輩がゆっくりと体を起こして移動すると、入れ替わるようにして2番目の紗衣がTシャツを脱いだ状態でうつ伏せとなった。
「颯人。麗奈会長と同じように、背中と両脚をお願いします」
「了解」
俺は日焼け止めを手にとって紗衣の背中を触ると、
「きゃっ!」
麗奈先輩よりも大きな声を出して、体をビクつかせる。紗衣って背中が弱かったっけ?
「大丈夫か、紗衣」
「……う、うん。日焼け止めが意外と冷たくて。麗奈会長が冷たいって言ったとき、本当にそうなのかなぁって思っていたんだけどね」
「意外と冷たいでしょう?」
そう言う麗奈先輩は、紗衣の横に座って腕に日焼け止めを塗っていた。
「あたしも塗ってもらうときには覚悟しておかないと」
「それがいいと思う。颯人、お願い」
「ああ」
俺は紗衣の背中に優しく日焼け止めを塗っていく。
麗奈先輩とは違って引き締まっている感じがする。紗衣は小さい頃から運動が得意だからな。普段からピュアスイートで接客のバイトをしているっていうのもあるのかな。
「んっ……」
気持ちいいからなのか、それともくすぐったいからなのか、今みたいに小さく声を漏らすことが多い。特に両脚を塗るようになってからは。小さい頃から彼女を知っているからか、凄く色っぽくなったなと思う。
「よし、これで大丈夫だろう」
「……うん。ありがとう、颯人。好きな人に日焼け止めを塗ってもらうのってとても気持ちいいね。もちろん、颯人が上手なのもあるけれど。ありがとね」
紗衣は麗奈先輩に負けないくらいの可愛らしい笑みを浮かべて、彼女のように俺にキスをしてくれた。そのことで、さっき以上に周りがザワザワしている気がするけど……気にするな。
紗衣と入れ替わるようにして、今度は咲夜が俺の前でうつぶせの状態になる。
「あたしも2人と同じように背中と両脚を。ただ、その……背中はあまり強くないから優しくしてくれると嬉しいな」
「分かった。じゃあ、最初は丁寧にやっていくからな」
「うん、お願いします」
俺は咲夜の背中に日焼け止めを優しく塗り始める。
「あっ、確かに冷たいね」
「でしょ、咲夜」
「……うん。颯人君、今みたいな感じで塗ってくれるかな。とても気持ちいいから」
「分かった」
引き続き、咲夜の背中に日焼け止めを塗っていく。咲夜の肌は柔らかさがあるな。触り心地がとてもよろしい。
あと、咲夜は背中が弱いって言っていたけれど、小雪も触られると弱い部分があったな。そう、確か小雪は脇腹が――。
「ひゃああっ!」
「ど、どうしたの? 咲夜」
「はやちゃんに何かされちゃった?」
「……わ、脇腹が凄くくすぐったくて。小さい頃から、背中とか首筋が弱いけれど、颯人君に塗られているからか脇腹まで弱くなっちゃったのかな。もちろん、颯人君は何も悪くないからね」
えへへっ、と顔を赤くしながら照れ笑いをする咲夜はとても可愛らしくて、思わずキュンとなった。
背中は一通り塗り終わったので、今度は両脚を塗っていくことに。ただ、裏の太ももも弱いのか、脇腹のときほどではなかったものの、体をビクつかせ、可愛らしい声を上げていた。
「よし、これで咲夜も塗り終わったな」
「たまにくすぐったかったけれど、とても気持ち良かったよ。ありがとう、颯人君」
麗奈先輩や紗衣と同じように、俺にキスをしてきた。そのことで周りから殺気を感じるけれど、何かしてこない限りは無視しておこう。時間の無駄だ。
「咲夜ちゃんも塗り終わったところで、お礼にはやちゃんの背中と両脚を塗ろう!」
「そうですね! ほら、颯人君もTシャツ脱いで」
「脱ごうね、颯人」
これから海で遊ぶとはいえ、服を脱げと言われると何だか恥ずかしいな。水泳の授業以外で肌を晒すのはひさしぶりだし。
3人に見守られる中、俺はTシャツを脱いでいく。
『おおっ……』
3人はTシャツを脱いだ俺の姿をじっと見つめている。何人もの女子に至近距離から見つめられるのは初めてだからドキドキする。好きな人の体だと、じっくりと見たくなるものなのだろうか。
「はやちゃんすごい……」
「結構な筋肉質ですよね。これが俗に言う『脱ぐと凄い』ってヤツかもしれませんね!」
「かもね、咲夜。でも、昔はここまで筋肉はついてなかったよ」
「いじめとかあったから、小学生の頃から鍛えてはいたけれど。ただ、3年前の事件を機により鍛えるようになってさ」
ただ、平穏な時間も増えてきて、高校生になってからはそこまで運動はしていない。
このまま3人にじっくりと見られるのも恥ずかしいので、俺はレジャーシートにうつ伏せの状態になる。これまで、3人がうつ伏せにこともあってか、甘い匂いが香ってくる。ただ、最後にうつ伏せていた咲夜の匂いが強い。
「じゃあ、これからあたし達3人ではやちゃんに日焼け止めを塗るからね! ちなみに、私が背中で咲夜ちゃんが左脚、紗衣ちゃんが右脚ね」
「そうなんですね。では、お願いします」
それから程なくして、背中や両脚に冷たさが。日焼け止めを塗り始めたんだな。3人ともいい手つきをしているから気持ちいいな。ただ、どこか1カ所だけならまだしも、3カ所同時っていうのは初体験だから、段々と不思議な感覚になっていく。
こうして背面を彼女達に任せているけれど、くすぐられたりしそうで不安だな。特に咲夜なんてやりそうだし。
それにしても、可愛い女の子3人に日焼け止めを塗ってもらう光景って、周りから見たらどう思われるんだろう。
「おおっ、さすがは兄貴っすね! お姉さん達に塗ってもらうなんて!」
「もう、大きい声で何を言ってるの、健太君。お手伝い中なのに。……あっ、でも本当だ。ちょうど休憩時間になっていたら、あたしも混ざりたかったな。颯人さん、背中が広くてセクシー!」
「オ、オレだって将来は兄貴みたいになるんだ……」
海の家でお手伝い中の璃子と健太はそんなことを言っている。
高校生3人だけならまだしも、小学生の女の子までに日焼け止めを塗ってもらったら、犯罪の香りがしてきそう。健太の方は……これからもランニングを中心に運動を頑張れ。
それからも3人に日焼け止めを塗ってもらうけれど、くすぐられたりすることはなかったのであった。
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