第63話『ミスコン-後編-』

『残るはあと3人となりました。その3人は同じ高校に通うお友達同士だそうです! まずはエントリーナンバー8番! 皇麗奈さんです!』


 そう紹介されて、マイクを持った麗奈先輩がステージ上に現れる。はにかみながら手を振っている。そのことで男女から綺麗だという声が上がり、近くにいる男性陣からは「オーラがあるな」「女神様だ」という声が聞かれた。


『初めまして、エントリーナンバー8番の皇麗奈といいます。高校2年生です。よろしくお願いします』


 落ち着いた口調でそう言うと、小さく頭を下げる。


『皇さんはどちらから来られましたか?』

『東京から来ました。一昨日から、友人と一緒に海野さんちの海の家のバイトをしています。9番と10番の女の子もそうです。私達のバイトは今日までなのですが、海の家は明日以降も営業しているので、みなさん遊びに来てみてくださいね』


 麗奈先輩は笑顔でそう答える。いつにない状況で緊張しているかもしれないけど、きちんと返答しつつお店の宣伝も絡めてくるところは、さすが生徒会長をやっているだけのことはあるなと思う。


『皇さんは海の家でバイトをされているんですね。何かオススメの料理とかはありますか? バイトをして食べていないかもしれないので、もしそうなら好きな料理を教えてくれますか?』

『料理担当のバイトの子が作ってくれた焼きそばはとても美味しかったです! 人気メニューだけあって、焼きそばを頼んでくださるお客様がとても多いですね』

『そうなんですか~』


 一昨日、料理の腕を確かめるために、海の家にレシピ通りに焼きそばを作ったけど、麗奈先輩……とても美味しそうに食べてくれたもんな。そのときのことを思い出しているのか、麗奈先輩はステージに登場した直後と比べて元気になっている。


『今日のバイトも頑張ってくださいね。ところで、浅河さんと深津さんが言っていましたが、お二人の教え子さんなんですよね』

『はい。去年、英語と生物を教えてもらいました。とても素敵な先生です』

『いいですねぇ。あと、毎年、学生さんにはこの質問をするのが恒例なんですけど、学校には好きな人や憧れている人っていますか?』

『……好きな人がいます』


 頬を赤くしてはにかみながら答える麗奈先輩。そのことに「おおっ」と男性はどよめき、女性は「きゃーっ!」と黄色い悲鳴が。

 司会者の女性は興奮した様子になり、


『そうなんですか! その人は生徒さんですか? それとも先生ですか?』

『後輩の男の子です。例の料理担当のバイトの子です。今も海の家でお料理を頑張っていると思います。もしかしたら、今、観客の中にいるかもしれません……が。ふふっ』


 麗奈先輩は嬉しそうな様子に。その直前に、麗奈先輩と目が合った気がするので、先輩は俺がここにいることに気付いたのかもしれない。


『す、皇さん! さりげないですが、大胆に告白しちゃってますよ! その男の子に聞こえちゃっているんじゃないですか?』

『彼には既に告白していて、その上で今はお友達として付き合っているんです。返事を待っている状況でもありますけど』

『そうなんですか。その男の子が羨ましいですね。では、海の家にいても聞こえると思いますから、今一度、好きな気持ちを伝えてみてはいかがですか?』

『はい! はやちゃん! 優しいところはもちろんだけど、バイト中に料理やスイーツを作っているときの姿はとてもかっこよくて、今までよりも好きになったよ! 本当に、本当に……大好きだよ!』


『きゃああっ!』

『うおおおっ!』


 とびきりの笑顔で告白する麗奈先輩に観客達は大いに盛り上がる。先輩の気持ちは既に分かっているとはいえ、みんなの前で告白されるとドキドキするもんだな。


『きっと、その気持ちは後輩の子に届いていることでしょう! 皇麗奈さん、ありがとうございました!』

『はい! ありがとうございました!』


 拍手喝采の中、麗奈先輩はこちらに手を振ってステージ脇に姿を消した。

 この流れだと、紗衣や咲夜からも告白されそうだ。もしそうなっても、2人の言葉をちゃんと受け止めたい。


『では、盛り上がる中で次の方にまいりましょう! エントリーナンバー9番! 天野紗衣さんです!』


 司会者の方にそう紹介されると、ステージ脇から紗衣が登場する。学校と一緒で紗衣の姿が見えた瞬間、男性の歓声も上がるが、それよりも大きな女性の黄色い声援が上がる。

 紗衣は普段からバイトで接客をしているからなのか、特に緊張した様子はなく、爽やかな笑顔を浮かべて観客席に手を振った。

 あと、俺の方を向くと紗衣はにっこりと笑みを浮かべる。きっと、麗奈先輩が俺の居場所を教えたんだろうな。


『初めまして、エントリーナンバー9番の天野紗衣です。高校1年生です。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします。皇さんも言っていましたが、海の家のバイトをするために東京から来ているんですよね』

『そうです。海野さんちの海の家の店長さんと、私が普段バイトしているスイーツ店の店長が姉妹ということもありまして。友人達と楽しく接客をしています。たまに料理を担当することもあります。私達は今日までですけど、海の家に来てくれると嬉しいですね』


 紗衣も海の家の宣伝絡めている。さすがはバイトをしているだけはあるかな。


『そうなんですか。海の家のメニューの中で得意料理はありますか?』

『腕前を確かめるために作った焼きそばも得意ですけど、カレーライスも得意です。カレーは食べる方も大好きです』

『カレーは美味しいですよね。暑い時期でも、熱いものや辛いものが恋しくなるときってありますよね』

『ふふっ、そうですね』

『では、この質問が来るのは分かっていると思いますけど、学校で好きな人や憧れている人っていますか?』

『はい。好きな人がいます』


 笑顔で紗衣がそう答えると、登場したとき以上に女性達からの黄色い声援が上がる。


『おおっ、青春ですね! もしかして、皇さんの言っていた後輩の男の子だったりしますか?』

『……そうです。実は、その子は私の従兄なんです』


 紗衣の返答に依然として女性からは黄色い声が上がるけれど、近くにいる男性陣からは「なんだそいつ」「いとこってだけでも羨ましいのに、好かれているなんて……」などと怨嗟の声も聞こえるようになってきた。その男がここにいるって知ったらどう反応するのかね?


『天野さんの従兄の方なんですね。きっと、その男の子は天野さんに似てかっこいい方なんでしょうね』

『……とってもかっこいいです。私も麗奈会長のように気持ちは伝えています』

『ふふっ、そうですか。では、皇さんのようにまた想いを伝えてみましょうか!』

『はい。……颯人。私にとっては生まれてからずっと、あなたは私の従兄です。小さい頃からずっと優しくて、たまに笑顔を見せてくれて。そんなところが大好きで。今はいとこ同士ですけど、いつかはあなたと恋人になりたいです。年齢的にまだできませんが、夫婦にもなりたい。そう思うほどに颯人のことが大好きです。返事、待ってます』


 麗奈先輩とは違って、落ち着いた口調で俺の好意を伝えてきた。ただ、告白した後に顔を赤くするのは麗奈先輩と一緒で。今までの中で一番と言っていいほどに、彼女のことが可愛らしく思えた。


『素敵な告白でした! 天野紗衣さん、ありがとうございました!』

『ありがとうございました』


 深く頭を下げ、紗衣はこちらに向かって大きく手を振りながら、ステージ脇の方へと姿を消していった。

 ついに残るは咲夜だけか。知っている5人の中で、こういう場で一番緊張してしまいそうだけど。ちゃんと答えることができるといいな。


『さて、いよいよラストとなりました! エントリーナンバー10番、月原咲夜さんです!』


 ラストということもあってか、今までよりも大きな拍手が聞こえる中で咲夜がステージに登場した。緊張しているのか、はにかみながら小さく手を振る。

 咲夜が可愛らしいからか、男女問わず歓声が上がる。近くの男性陣も「可愛い女の子だな」「でも、あの子も一緒にバイトしているみたいだし、例の男のことが好きかもな」といった声が。そうです、大正解です。


『こ、こんにちは! エントリーナンバー10番の月原咲夜です! よろしくお願いします!』


 普段と違う声色から緊張しているのが伝わってくるけれど、一応、挨拶はできているので大丈夫そうかな。


『月原さんも皇さんや天野さんと一緒に、海の家のバイトのために東京から来てくれたんですよね』

『はい、そうです! 今日まで海野さんちの海の家でバイトをしています。あたしは接客をしています』

『そうなんですか。バイトが終わったら、もう東京の方に帰られるんですか? それとも、海で遊んだり、観光したりする予定があったりしますか?』

『明日、海で遊んで、東京の方に帰ろうと思っています。そのためにこの水着を紗衣ちゃんや麗奈先輩と一緒に買ったので。まさか、ミスコンで着ることになるとは思いませんでしたけど』


 咲夜のその言葉で会場は笑いに包まれる。そのこともあってか、本人の緊張もだいぶ解けてきたように思える。


『とても可愛らしい水着姿ですよ。では、月原さん。あなたにも訊きますが、学校で好きな人や憧れの人っていますか?』

『います! もしかしたら……って思っている人はいると思いますが、麗奈先輩と紗衣ちゃんと同じ人のことが好きです。昨日、この浜辺でその想いを伝えました』


 咲夜の告白に多くの人が歓声を上げるが、近くにいる例の男性陣達は「2人だけじゃなく、3人もか」「爆ぜてしまえ!」と明らかに俺を攻撃する声が。今から海に投げ飛ばして頭を冷やさせたい気分だ。

 咲夜はチラッと俺の方を見て、彼女らしいとても可愛らしい笑顔を浮かべる。


『話を聞いているだけでキュンとなってしまいますね。例の男の子、本当にモテモテですね。では、昨日の今日ですけど、月原さんも想いを伝えましょうか』

『はい! 颯人君! 昨日、あなたに好きだと告白しましたが、今日も想いを伝えさせてください。颯人君のことが大好きです。優しくて、かっこよくて、甘いものが好きで。たまに見せてくれる微笑みがとても好きです。他にも好きなところはたくさんあります。これからずっとあなたの側にいさせてください。心からそう思えるほどに大好きです!』


 気持ちを再び言葉にすることができたからなのか、咲夜は晴れやかな笑みになる。

 砂浜に立って、咲夜から告白されたからか、昨日の夜のことを思い出すな。

 3人の告白を聞くとその都度ドキドキするけれど、3人連続で告白されたからか、彼女達に心を包まれている感覚になって。本当に愛されているのだと実感して。怯えられたり、嫌われたりするのが当たり前だった俺にとっては夢のようだった。でも、両眼から温かいものが流れており、これは現実なのだと分かって。


「……幸せ者だな」


 3人は改めて俺に対して好きだという気持ちを伝えてくれた。ちゃんと3人の気持ちに向き合って答えを出さないと。


『素敵な告白でした! 月原咲夜さん、ありがとうございました!』

『ありがとうございました! 海の家にも遊びに来てくださいね!』


 咲夜は大きく手を振ってステージ脇へと姿を消した。3人や先生方もそうだったけれど、どの人もいいインタビュー審査だったな。



 その後、結果発表が行なわれた。

 優勝者にはインタビュー審査でサプライズプロポーズをし、見事に成功した女性が選ばれた。また、深津先生に感謝の気持ちを伝え、先生に抱きしめられたことが評価された浅河先生が準優勝者に選ばれた。

 ただ、個人的には……再び告白してくれた麗奈先輩、紗衣、咲夜が優勝者だと思う。ラストに再び出場者全員が登場したので、彼女達に拍手を送って海の家に戻るのであった。

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