第62話『ミスコン-前編-』

 女子高生3人が水着を着替えに行ってから10分後。

 彼女達がミスコンに出ている間の助っ人として、海野家の3人の従業員が海の家にやってきた。夏実さんが連絡したとのこと。3人には接客を担当してもらうことに。そのため、夏実さん、璃子、健太、俺だけではキツくなってきた状況が改善された。


「お待たせしました、夏実さん。水着に着替えてきました」


 紗衣のそんな声が聞こえたので、お店の入口を見てみると、そこには水着の上に海の家のシャツを着た3人が立っていた。

 海の家は宿から道路を一本挟んだところにあるけれど、水着姿ではさすがに歩けないか。ただ、Tシャツを着ているからか、3人の綺麗な両脚と、水着のショーツがチラッと見えて。それがとても艶めかしい。


「おっ、3人とも来たね」


 夏実さん、璃子、健太は女子高生3人のところへとやってくる。すると、彼女達の姿を見た璃子はニヤリと不適な笑みを浮かべる。


「……みなさん、ミスコンでは水着審査もあるみたいですし、ここで海の家のTシャツを脱ぎましょうよ。それで、あたし達に水着姿を見せてくれませんか? あたし達はお手伝いがありますから、ミスコンの様子を見ることができないんです。3人の水着姿を見てみたいなぁ。颯人さんもそう思いませんか?」

「えっ? そうだな……明日は海で遊ぶ予定だからそのときに見られるけど、とても楽しみだから今すぐに見たいかな」


 それに、3人の水着姿を見れば、彼女達がお店にいない間も頑張ってバイトができそうな気がするから。

 俺が正直に言ったからか、3人とも顔を真っ赤にさせる。


「は、はやちゃんがそう言うなら脱ごうか」

「そうですね、会長さん。いずれは脱いじゃいますし。それに、ここで颯人君に水着姿を見てもらえばミスコンも頑張れそうだし」

「咲夜の言う通りかもね。じゃあ、さっそくシャツを脱ごう」


 そう言って、3人は海の家のTシャツを脱いでいく。そのことで彼女達の水着姿が俺達の前でお披露目される。その際、健太がほんのりと頬を赤くしながら「すげー」と声を漏らしていた。

 咲夜は黄色の三角ビキニ、紗衣は青のクロスホルタービキニ、麗奈先輩は白いホルタービキニか。


「3人ともとっても可愛いですね!」

「ありがとう、璃子ちゃん。颯人君は……どう?」

「よく似合っていて可愛いよ、咲夜。紗衣や麗奈先輩もとても可愛いです」

「ありがとう、颯人君」

「えへへっ、はやちゃんに褒められちゃった」

「よく考えて選んだ甲斐がありましたね。私も嬉しい」


 3人とも、とても嬉しそうだ。前から思っていたけれど、3人ってとてもスタイルがいいよな。3人ともむ……胸も大きいし。一昨日、温泉に入っているときに璃子が憧れたのも納得かな。


「颯人。もし良かったら、私達の水着姿をスマホで撮ってもいいよ」

「……じゃあ、遠慮なく」


 俺はスマートフォンで3人の水着姿を撮影する。可愛く撮ることができたな。今、生で3人の水着姿を見て元気をもらったけれど、この後もバイトの休憩中などに見ることにしよう。


「じゃあ、みんな。ミスコンの会場に行きましょう」

『はーい!』

「みんな、頑張って」

「応援していますよ! あと、うちの宣伝もお願いしまーす!」

「お姉さん達、頑張ってください!」


 3人と夏実さんが海の家を出ると、すぐにお客様がやってくる。そのことで、俺は気持ちを切り替え、再び料理やスイーツ作りに励むことに。


『みなさん、まもなくミスコンが始まります! 今年は10人の美女が登場します! 是非、見に来てくださいね!』


 女性によるそんなアナウンスが聞こえてくる。マイクを使っているのかはっきりと聞こえるな。咲夜、紗衣、麗奈先輩。頑張れ。海の家から応援してるぞ。


「兄貴、注文入りました! 唐揚げ1つに枝豆1つ、レモンサワー1杯にチューハイ1杯です!」

「了解」


 3人もミスコンを頑張るんだから、俺もバイトの方を頑張らないと。

 俺は健太から注文を受けたメニューを用意する。今はキッチンに俺1人しかいないけど、このくらいならすぐに用意できるな。


「よし、これでOK。……璃子、2番テーブルに唐揚げと枝豆を持っていってくれ。健太も2番テーブルにレモンサワーとチューハイを。ぶつからないように気を付けて」

「分かりました!」

「了解っす!」

「2人ともよろしく」


 璃子と健太、注文したものを仲良く持っていっている。それもあってか、2番テーブルに座るお客様も嬉しそうだ。そういや、咲夜や紗衣、麗奈先輩が接客をしているときも楽しそうにしているお客様が多かったな。


「ただいま、3人を会場まで連れて行ったよ」

「おかえりなさい、夏実さん」

「……うん。お店の方は……まあ、ミスコンがそろそろ始まるから、普段よりは落ち着いているね」

「ですね。ただ、これだけスタッフがいれば、3人が帰ってくるまで大丈夫かと」

「そうだね」

『みなさま、お待たせしました! 今年のミスコンがついにスタートです! 10人の美女の登場です! それでは出場者のみなさん、ステージの方へどうぞ!』


 ミスコン、ついに始まったのか。参加者がステージに姿を現したのか歓声があがる。みんな、上位に入って何か賞品がもらえるといいな。

 気付けば、夏実さんはキッチンの中に入ってきていた。そして、俺と目が合うと、優しげな笑みを浮かべながら、俺の肩をそっと掴んでくる。


「ねえ、神楽君。あなたにおつかいを頼みたいんだけど」

「分かりました。何を買って――」

「ううん、何も買わなくていいよ。あとでミスコンを見た感想を聞かせてほしいの。彼女達が出場しているんだから、ミスコンを見に行って。こっちはうちの宿のスタッフが何人もいるから大丈夫よ」


 夏実さんがそう言うので店内を見てみると、璃子や健太を含め、スタッフ全員が俺のことを見て笑顔で頷いてくれる。


「行ってきてください、颯人さん」

「お店はオレ達がいるんで大丈夫っすよ、兄貴!」

「……ありがとう。じゃあ、俺……おつかいに行ってきますね」

「いってらっしゃい、神楽君」


 俺は海の家を出て、人の集まっている方へと向かう。あっちがミスコン会場かな。

 他の人が恐がったりしないよう、途中でサングラスをかける。そのおかげか、悲鳴を上げられたり、ライフセーバーのお兄さんに捕まったりすることはない。

 人の集まっているところに到着すると、その先に昨日はなかった特設ステージがあった。背が高いとこういうときに便利だな。後ろに立っていても、背伸びとかしなくても普通に見ることができる。

 ステージには水着姿の女性が10人いる。その中には咲夜、紗衣、麗奈先輩に、


「深津先生と浅河先生もいるじゃないか」


 池津で最後の思い出作りをするつもりなのだろうか。

 参加者の着ている水着のショーツ部分に、番号が描かれた名札が付けられている。参加者番号だろうか。ちなみに、6番が深津先生、7番が浅河先生、8番が麗奈先輩、9番が紗衣、10番が咲夜だ。もしかして、あの色黒おっさんが誘った20代の2人組って、先生達のことなのかな。

 今は水着審査をしているのだろうか。全員、同じポーズを取っており、男女の審査員が参加者のことを見て、何やらメモをしている。

 こうして並んでいるところを見ると、咲夜も紗衣も麗奈先輩も綺麗で可愛いな。全員から告白されたのが夢のように思えるくらいで。あと、先生方もとても美しいと思う。


『はい! これにて水着審査は終了です! これからはエントリーナンバー1番の方からインタビュー審査に入ります! 参加者のみなさんはステージ脇に着てください』


 司会者の案内により、参加者は全員ステージから姿を消す。

 やっぱり、今のは水着審査だったのか。どういう審査基準なのだろうか。水着が似合っているかとか、スタイルの良さとかなのかね。

 参加者がいなくなってから数分後。エントリーナンバー1番の女性から順番にインタビュー審査が行なわれていく。この審査が終わると、結果発表が行なわれる。

 質問内容はどこから来たのか、観光したか、好きな食べ物、好きな人はいるのかなど様々だった。また、参加者の中には恋人がおり、この場で公開プロポーズを行ない、見事に結ばれるというサプライズもあった。こういう出来事があると、ミスコンもかなり盛り上がるなと思う。

 あっという間に前半5人のインタビュー審査が終わり、次からは5人連続で俺の知っている人達が登場する。なので、俺もサングラスを外して様子を見ることにする。


『続いてはエントリーナンバー6番! 浅河緒花さんです!』


 司会の方の紹介があり、浅河先生がステージに登場する。先生は緊張した様子だけど、観客に向けて小さく手を振っている。近くにいる若い男性グループが「綺麗だ」と呟いている。確かに綺麗で、クールビューティーって言葉が似合いそう。


『初めまして、浅河緒花です。よろしくお願いします』

『お願いします。浅河さんはどちらから来られましたか?』

『職場の先輩と一緒に東京から来ました。その方は7番の若菜さんななのですが。夏季休暇を使って一昨日、池津に旅行に来ました』

『そうなんですか。7番の深津さんとどのようなお仕事を?』

『高校で教師をやっていて、生物を教えています。あと、偶然ってあるものなんですね。8番から10番の子が菜々さんと私の勤める高校の生徒なんです』


 浅河先生がそう説明すると、多くの観客から「おおっ」とどよめきの声が。


『それは凄いですね! 浅河さんはお若いですけど、学校で多くの学生さんと接されていると思います。学校で誰かに恋をしていたりしますか?』

『ほえっ?』


 浅河先生は頬を赤くし、学校では考えられないような間の抜けた声を出す。先生、誰か気になっている生徒や先生がいるのかな?


『こ、恋はしていません。ただ、私の勤めている生徒は素敵な人がたくさんいます。先生方も同じく』

『そうなんですかぁ。顔が赤くなるあたり、気になっている人がいるようにも思えますが』

『そ、そんなことないです! ただ、一緒に旅行に来た若菜さんにはとても感謝しています。彼女のおかげで今の私があるといいますか。今まで、こういうことのお礼を言えなかったので、ここで言わせてください。若菜さん、本当にありがとうございます』


 顔を真っ赤にして浅河先生が深津先生にお礼を言うと、深津先生がステージに登場して浅河先生のことを抱きしめた。それもあってか、会場からは温かな拍手が贈られた。


『大人になっても素敵な先輩後輩関係がありますね! 浅河さん、ありがとうございました。この流れでエントリーナンバー7番の深津若菜さんのインタビュー審査をしましょう!』


 浅河先生は深津先生にマイクを渡して、ステージ脇に姿を消していった。

 マイクを持った深津先生は普段通りの優しい笑顔を浮かべて、浅河先生よりも大きく手を振ってくる。こういうイベントには緊張しないタイプなのかな。

 ちなみに、そんな深津先生を見てか、近くにいる男性グループが「凄え胸だ」「色々と教えてほしい」「息子になりたい」と呟いている。彼氏なら分かるけれど、息子って。


『みなさんこんにちは。深津若菜です。緒花ちゃんと同じ高校で英語教師をやっています』

『浅河さんと一昨日から旅行に来ているんですよね。どこか観光しました?』

『はい! 仕事運や金運に御利益のある池津神社や水族館にも行きました。イルカやペンギンのショーはとても楽しかったです! あと、スイーツもたくさん食べましたね。抹茶アイスがとても美味しかったです!』

『ふふっ、池津を堪能してくださって、私達も嬉しくなります。深津さんも先生ですから、浅河さんのときと同じ質問になってしまいますが、学校に気になっている生徒さんや先生の方はいますか?』

『う~ん』


 深津先生は腕を組みながら考えている。気になる生徒や先生がいるのか?


『まだ恋愛的な好きじゃないですけど、一緒に旅行した緒花ちゃんですね。新人の頃から面倒を見ていますけど、とても可愛い後輩で。あとは8番から10番の子と、『海野さんちの海の家』で料理のバイトを頑張っている男の子ですね。あたしの可愛い教え子達です』

『そうですか! いい先生や教え子の方達に囲まれて幸せそうですね! ありがとうございました!』

『はーい。池津良かったです! また遊びに来まーす!』


 そう言って、深津先生はさっき以上に大きく手を振って、ステージ脇へと戻っていった。

 最後まで深津先生はマイペースだったな。ただ、インタビューを通じて浅河先生と池津での時間を楽しく過ごすことができたようで良かった。あと、俺達がバイトをしているからか、海の家の名前を出してくれて。いい先生だなと思う。

 さあ、残るは麗奈先輩、紗衣、咲夜か。どんなインタビューになるのか楽しみだな。

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