第60話 神



「……ヘーゼンさん?」


 アイシャは少し驚いた顔をしていた。そして、それが幻じゃないということを、何度も何度も確かめているように。


「ああ……お待たせ」


「よかった、夢かと思ったけど。生きて……たんですね」


「僕が死ぬものか」


「そう……そうですよね」


「アイシャ……」


 そう言いながら、ヘーゼンは彼女の腹の部分を……出血部をそっと抑える。


「嬉しい……」


「……なにが?」


「悔しいから……内緒」


 主よ。


 感謝いたします。


 私に。


 こんな私などに。


 与えてくださった。


「……なあ、イジワル言わないでくれよ」


「フフ……いつものお返しです」


 雨風を凌ぐ家と。


 日々を過ごすだけの水とパンを。


 注ぐべき愛を。


 あなたは、


 与えてくださった。


「アイシャ……言わなきゃいけないことがあるんだ」


「……はい」


 主よ。


 お許しください。


 罪深き。


 私を、どうか、お許しください。


「僕は……君のことが……」


「……」


 あなた以外の方を。


 目の前のこの方を。


 愛し……て……


「……好きなんだ」


「……」


















「だから……」

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