第28話 帰還


 首都アルマナに帰って主城に入ると、目の前には総隊長デリクールが報道記者からの取材を受けていた。特務隊は一般には秘匿とされているので、もちろんヘーゼンたちの存在は視界にも入らない。


「あー、俺たちが頑張ったのに。いや、俺たちの活躍こそが不可欠だったのに」


 ブツブツとダーツが不満をつぶやく。


「まあまあ。私たちは所詮は脇役なんだから。今回の戦でも大活躍でいらした主役の『仮面の君』様が何も言わないんだから、私たちなんかが文句言うなんて恐れ多いわよ」


 アムが愚痴に対し、あからさまな嫌味を乗っけてヘーゼンに贈る。


「……」


 うるさいな、こいつはと全く相手にしないでいると、


「そうそう。あの大陸に名高い魔将ニーヴェルトを撃破したんだもんな。今後、ますます貴婦人たちの憧れの的になるってもんだ」


 ダーツが愚痴の嫌味にますます嫌味を乗っけてヘーゼンにお返しする。いつもは半目し合う二人だったが、今回は結託して巨悪に立ち向かうらしい。


「……ダーツ、アム」


「「えっ?」」


「やっと実力差をわきまえたか、ゴミども。今後は気軽に話しかけてくんなよ。敬語な、敬語」


            ・・・


「「んだとこの野郎!」」


「テメーらが言ったんだろうが!自分の言葉に責任もって、今後は僕に会うたびにひれ伏して土下座しろ」


「嘘に決まってんだろうが!」「なんであんたなんかに土下座なんてするわけないでしょ!」「しょうがないだろうがお前らが虚弱なんだから」「虚弱って言うんじゃねぇよ!」「そうよ! 私たちありきの作戦だったでしょう! あんただけが活躍したんじゃないでしょう!」「自分で言ったんだろうが! ああ、テメーらは理解力が虫並みだから一度や二度じゃわかんねーんだな。じ・ぶ・ん・で・い・っ・た・ん・だ・ろ・う・が!?」「この性格最悪野郎!」


 ゴツ! ゴツ! ゴツ!


 壮絶な言い争いを割って入ったのは、デリクールの拳だった。額に右手を当てながら大きくため息をつく。


「……なにをやってるんだ貴様らは? ちょっとこい」


「「「……」」」


 ビクッと肩を震わせながら、頭を抑えながらスゴスゴと部屋に入る三人。


「アム、お前が最初に言ったんだぞ?」「ダーツが調子に乗るからだろう」「……僕は悪くない」「「お前が一番悪い」」「な、な、なんでだよ!? 僕は常に専守防衛だ。悪口を言われたから、勝って勝利しただけであって、攻撃する方が悪いだろう」「……いつ、なんじなんぷんお前が勝ったんだ?」


 コソコソと。


 ワチャワチャと。


 互いの罪を擦りつけ合う、醜い三人。


 デリクールは彼らの恩師だ。彼にとっては基本的に三人ともクソガキである。かつて、あまりに手を焼いたデリクールは、いきなり後ろから谷底へ突き落とした。食料自炊、魔物ゾロゾロの強制サバイバル大会である。理由としては獅子は千尋の谷に云々かんぬん。それから、5年以上修行と言う名のシゴキを受けた。いや、受け続けさせられた。


 魔法使いとしての実力とは全く関係なく、この三人にとって、デリクールは恐怖の対象である。


 バタン。


 ドアの閉まる音が妙に響く。


「ヘーゼンとアムがーー」「ヘーゼンとダーツがーー」「ダーツとアムがーー」


「……よくやった!」


           ・・・


「「「えっ!?」」」


「よくあのニーヴェルトを撃破した。この勝利は本当にでかいぞ」


 バンバンと背中を叩いて上機嫌のデリクール。


「そ、そうですよね! このままだったら勝てますよね!」


 ダーツが安堵した途端、調子に乗り出す。


「勝てるか! しかし、ここで停戦できる可能性はグンと高くなった」


「じょ、冗談じゃないです!敵国と停戦だなんて」


 アムがすぐに反論を始める。


「異論、反論は聞かん。うるさい! でも、よくやった」


「「……」」


 な、なんて横暴な恩師だろうと、二人は思った。


「ふぅ……とにかく休みをください」


 治癒魔法では傷は癒えるが、疲労は取れない。大陸有数の実力者と真っ向から戦い、勝利をもぎとった代償もまた大きい。とにかく、一刻も早く、少しでも長く休みたい困憊魔法使い。


「ああ、1ヶ月くれてやる!」


「そ、それだけ!?」


「ああ!」


 な、なんてケチな恩師だろうと、ヘーゼンは思った。なにを得意げに言ってるんだろうか?あの類の化け物と渡り合ったなら、半年ぐらいの療養は欲しいところだ。


「……ありがとうございます」


 しかし、怖くてとてもじゃないと言えないヘーゼンだった。

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