第24話 形勢
「くっ……魔弩か」
初めてその仮面の奥の瞳を歪める黒髪魔法使い。
魔力の込められた魔石を矢じりに仕込んだ短弓を魔弩と呼ぶ。腕に仕込めるほど軽量で腕輪ほどの厚さしかないので見た目でわかる人は少ない。
その回転率は、ヘーゼンの魔法壁の速度を上回り始める。徐々に距離は縮まり始める。
「……くっ」
まだ、早さが足りない……早さが……早さが……早さ……
「う……おおおおおおおおっ」
その魔弩すらも超えるスピードで、ヘーゼンは
!?
「しまっーー」
ヘーゼンが、声をあげるまえに。ニーヴェルトは魔弩を放ちながら、逆に距離を取っていた。
<<氷刃よ 烈風で舞い 雷嵐と化せ>> ーー
水・土・木の三属性魔法。氷の
<<冥府の業火よ 聖者を焼き尽くす 煉獄となれ>>ーー
ヘーゼンから放たれたのは、火・闇の二属性魔法。
「ぜぇ……ぜぇ……ぐううっ」
身体中に切り裂かれたような傷で鮮血が舞い散り、片膝をつく。完全に意表をつかれた。連続攻撃で誘っておいて、タイミングを外して三属性魔法。反射的に二属性魔法で応戦したが、威力負けをして攻撃を食らった。
「惜しいな……才能では私より遥かに上だ。しかし、経験において君はまだ及ばない。投降しろ……殺すには、その才能はあまりにも遅すぎる」
「……はぁ……はぁ……それがあんたの限界だよ」
「……」
「魔法使いが……魔法以外に頼り出したら、おしまいなんだよ」
「安い挑発だな……それで、戦略を変えるとでも?」
ニーヴェルトの目はヘーゼンの指から離さない。まだ、魔弩も潤沢にある。あちら側はすでに満身創痍。ここからの逆転はない。そう確信して笑う。このまま、いけば勝てる。このまま……
その時、ヘーゼンは地面に向かって
<<命を刈り取る悪魔を死せん>>
瞬間、魔法陣から悪魔が出現した。人ほどの大きさを持ち、漆黒の翼を持つ。鋭い瞳は、明確な殺意を持ち、野獣のような牙が獰猛に光る。
悪魔召喚。
悪魔との間に主従契約を結ぶことによって、異界より召喚する魔法である。契約は各々の位階によって異なるが上位になるほどに契約内容の難度は上がる。
しかし、ただ
「仕事だ、オリヴィエ」
ヘーゼンは淡々と口にする。
「……バカな。どうやって」
ニーヴェルトは己の目を疑った。
召喚魔法は、
常人が魔法を放つ時、その腕と指を駆使して
魔法を放つには
と、言うのが世界の見解である。
いや、ヘーゼン=ハイム以外の。
彼しかできない唯一の方法で。
ヘーゼンは、魔法を放った。
「……」
「いったい……どうやって」
ニーヴェルトには理解もできない。
魔法を浴びて血を流したとき、ヘーゼンは自らの血液に魔力を巡らせ、地面に
この戦い方はヘーゼンにしかできない。常人ならば
悪魔オリヴィエ。人ほどの大きさを持ち、漆黒の翼を持つ。鋭い瞳は、明確な殺意を持ち、野獣のような牙が獰猛に光る。
「う、うおおおおおおおおおおっ!」
近衛兵の一人が不意打ちとばかりに、襲いかかってきたとき、オリヴィエの牙が、瞬時に右手を喰いちぎった。
「ぐわあああああああああああっ!」
叫びながら、地面に転げ回る。
「……気を付けた方がいい。彼は気が荒い」
仮面の魔法使いは、魔法の詠唱を始める。
「くっ……下がれ!」
ニーヴェルトは親衛隊を下がらせて、詠唱を始める。悪魔との接近戦は危険だ。必然的に、戦略は魔法使いとしての遠隔戦に限られる。
<<業火よ 愚者を 煉獄へと滅せよ 雹雪よ 嵐となりて 大地と 鋼鉄の力となれ>>ーー
四属性魔法。火・水・木・金の魔法が入り乱れた至極の一撃は、問答無用とばかりにヘーゼンに迫る。
もはや、それは願望に近かった。
それならば。自分は数倍以上の経験がある。数倍以上の魔法使いと闘い、勝ち残ってきたと言う自負が。
しかし。
対抗して描かれるヘーゼンの
その異常なまでの美しさに。
ニーヴェルトは思わず息を止めた。
<<絶対零度の 鋼鉄よ 木々を生み出す大地よ 知なき愚者に 煉獄の炎を>>ーー
ヘーゼンから放たれたそれは。
四属性魔法を飲み込みそのままニーヴェルトごと飲み込んだ。
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