第6話 東京レストラン NY

 動揺していた。あれは、間違いなく石田加代子だった。身体つきは少し丸みを帯び、歳をとった感じだったけど・・。しかし、バーを出る時すれ違いざまに、こちらを見たけど何の反応も無かった。もう一度確認しようと思い、急ぎ1階におり、レセプション側からバーを覗いた。ジョージは、他の客を相手していた。ドアを開け、ジョージは振り向き、何か忘れ物?と聞いた。いや、シンディは? ママと一緒に2-3分前に帰ったよと云った。ところで、シンディのママはどこで日本食レストランやてるの?と聞くと、直ぐそこ、レキシントン・アベニューを左折、左側の3軒目レストラン東京だよと云った。なーんだ、東京レストランかあ、むかし出張で来たとき接待でよく使っていてよく知っている。メニューは、さしみ、小鉢の肴、そば、カツ丼、カレー、ラーメンなど和洋折衷何でもある。日本酒も有銘柄を数種揃えている。

味も日本で食べるのと変わりないが、価格は日本の2倍以上で高い。

明日行ってみるこにした。


 翌朝散歩がてら、東京レストランの前まで行ってみたが、オープンは12時ということで、隣のグロッサリーストアでコーヒーとサンドイッチを調達し、ひとまずホテルに戻った。昼過ぎ、東京レストランに電話を入れると、オーナーは今日は4時頃出勤するとのこと。名前とオーナーに確認したいことがある旨伝え、3時半にテーブルを予約した。店には、3時過ぎに入った。ランチタイムが終わり、他に客は無く、インド人の女性スタッフが、他のテーブルを片付けていた。店に入ると、話は伝わってるらしく、中華系のウェイターが名前を確認、窓ガラス越しにアヴェニューが見える4人掛けのテーブルへ案内し注文をとった。ドリンクはライム入りコロナビールとむかしランチの時よく食べていた「チャーシュー麺」を注文した。チャーシュー麺の値段は18ドル+TAXだ。ドリンク代とテーブルに置くチップも含めると、日本円で3000円を超えるランチとなった。


 4時10分前ハロー!といいながら、女性オーナー(石田加代子??)は店に入ってきた。来るなりミスター○○はどちらの方と英語でスタッフに声をかけた。思わず、立ち上がり、「私です。時間を頂きありがとう。」と日本語で云い、握手の手を差し出すと、握手に応じる代わりに私とテーブルを挟んで座り、英語で「はじめまして!わたしは、カヨ・イシダ、このレストランのオーナーです。残念ながら、日本語は解りません、あなたが英語を理解しないのなら、このミーティングは成立しません。英語でお願いできますか?」と云った。(何を言ってるんだ、年はとってるけど、間違いなく石田加代子だ)と思ったが、意に反して「オーケー、ではあまりうまくは無いけど英語で幾つか質問させてください。」と英語でお願いした。すると

    

 イシダ「あなた、探偵さん?それとも税務署関係の方?」

   私「いえ、どちらでもありません。ただ、教えて頂きたいことがあります。」

 イシダ「あら、何かしら?」

   私「まず最初に、あなたにお会いするのは今日が初めてではありません。」

    「覚えていませんか?」

  私の顔をジッと見ながら、

 イシダ「そういえば、昨夜タイム&アゲインにいらっしゃいました?」

   私「はい、そこであなたを見て、今日ここに来ることになりましたが、昨夜

     お会いしたのが2度目です。」

    「初めてあなたに会ったのはXX年前、日本でです。大学の自然科学史室

     で、あなたはいつも私の前の席に坐ってた、そして、学食でも会って話し

     たじゃないですか、忘れたんですか? その時あなたは私に石田加代子と

     名のった。」

  少し平常心を失っていた。対するオーナーは、困り果てた顔で・・

 イシダ「ミスター○○、確かにわたしの名前は、カヨコ・イシダです。日本生れ

     ですが、3歳の時に父の転勤でNYに移り住みました、それ以降日本に行っ

     たことはありません。両親は、父がこちらで定年を迎え、それを機に祖父

     母の面倒をみるため5年前日本へ戻りましたが、私はずっとこちらです。

     それにわたしの姓はイシダですが、これは元々主人の姓で、結婚する前は

     タガミです。」


 完全に打ちのめされた。もう話すことは、何もなかった。オーナーに時間を割いてくれた礼をいい、ランチのチェックを頼んだ。どのくらい話していたんだろうと思い、ふと壁掛け時計に目をやった。時計の針は、4時35分を指していた。2時間近く

オーナーを拘束したことを申し訳なく思った。その時、時計の下に掛かっている水彩画が目に飛び込んできた。

 海の絵だ。海辺を白いレースのワンピースを着た少女が駆けている。遠くには、見慣れた島が描かれている。そして、左下には、麦わら帽をかぶり、紺色のポロシャツ姿の少年が少女の方を見つめている。オーナーに、この絵誰が描いたの?と問うと、空かさず、このレストランをオープンしたとき、お祝いに母親が送ってくれたのだと云った。軽い目眩を覚えた。支払いのとき、幾らと云われたか聞き取れず、50ドル紙幣を渡し、Keep Change!と云った。オーナーがToo Much!と叫んだと同時に、オーナーに言った。"One more question, Can you tell me what your mama's first name is?"  She said ”KYOKO"


   

   波間を走る君を 風がやさしく誘う

   翻ったスカートの裾 今はもう夏

   揺れていた僕の心 潮風に遊ばれ

   厚く焼けた白い砂 心の中吹き抜ける


   随分遠くまで来たね ほら誰もいないよ

   煌く夏の光の中で 見つけた君の愛

   揺れていた君の心 やけた肌に包まれ

   空を飛ぶ鴎と共に 水平線に融ける


   




 


 

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