第5話 みずようかん その二
その京女、村田京子は、2年8組、木造モルタル3階建て2階、2つ先の教室で同級生だった。一学年10組あり、1-6組は男子、7-10組は女子と男女別々のクラス編成だ。何と、封建的なことか!
京子と会うときは、入口の下駄箱にメモが入っていた。校内では、一言も口を聞かなかった。週に最低3日は会った、お互いのこともいろいろ話した。夏は海水浴、市民プールに二人で出かけた。冬は彼女の家で過ごした、時々勉強もした。日曜日には
隣町にいってお好み焼きやピザを食べた。考えると、いつも一緒にいた。
3年の夏、土曜日の午後にオートバイで自損事故をお越し足と肩を骨折、一週間入院した。病院から学校に連絡がいき、保健室の先生が電話を受けた。その時、京子は保健室の掃除当番でその場に居たらしい。その日の内に見舞いに来てくれた。ギブスで上半身と左足を固定している姿を見て、泣きながら鼻の頭にキスしてくれた。「琴」の匂いがした。愛おしいと思った。
しかし、これを機に二人の付き合いが学校でオープンになった。同級生の居る前で、先生に泣きながら入院している病院を尋ねたらしい。退院して、学校に行くと、小山田が京子とはもう付き合うな、彼女のことを考えてやれと云われた。意味が解らなかった。
それ以来、下駄箱にメモが入ることは無かった。校内で顔をあわす事もあったが、互いに無言で通り過ぎた。
今はもう一人で居ることにも慣れ
キャロル・キングのレコードが僕の友達
話す言葉も忘れてしまい
ただ働いているのは瞳だけ
ああ あれはいつの事だったかな
こどもの楽隊が街の通りをあるいてた
ああ もう秋なんだね
楽しい日々を悲しいと一人思った
寂しいだなんて考えないけど
何となく気持ちが沈んでいく
そよ風を近頃冷たく感じ
手にもつタバコまでが何となく重く感じられ
疲れているんだよいつもより
みずようかんを食べたいと一人思った
寂しいだなんて考えないけど
何となく気持ちが沈んでいく
卒業式の日、帰りに下駄箱を開けると白い封筒が入っていた。京子からだ。メモと4℃のシルバーのペンダントが入っていた。メモには、
”開放されたら、会いにいくね、それまでもずっと一緒にいるよ 京子”
詰襟のボタンを開き、そのペンダントを首にかけ校舎を出た。何故か、涙が止まらなかった。卒業した寂しさからではない。
今、そのペンダントは手元にない。どこでどうしたのか思い出せない。
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