第3話 Time and Again (再三再四)

 ニューヨーク・マンハッタン39丁目パーク・アベニューとレキシントン・アベニューの間、Doral Tuscany(ドラルタスカニー)という英国系ホテルがある。赤レンガ造り52階建てのホテルだ。エントランスは小ぶりな回転ドア、中に入ると右側にレセプション、左側には応接セットが3セットあり、その左奥にTime and Again(タイム&アゲイン)という名のバーがある。そのバーは、通り側ホテルエントランスの左側の小さなドアから直接入ることもできる。ドアにはカウベルがついている。あれっ・・どこかにあったような!

 昔、仕事で出張してた時、このホテルは常宿だった。一週間程度の滞在中仕事終わりには必ずここで一杯やってから就寝した。バーテンダーのジョージのお勧めで、いつもデュワーズ17年(Duwards)という名のスコッチウィスキーをロックで飲んだ。ロックグラスにフレーク状の氷を目一杯入れウィスキーを満杯注ぐ、シングルもダブルも無い。グラス一杯だけで、ナイトキャップには充分であった。

 タイム&アゲインという名は、英語でTime and (Time) Again、再三再四という意味で、バーテンダーのジョージが客に毎日来て欲しいという気持ちを込めて名付けたという。完全に、その意図に嵌ってる!


 ジョージを話し相手にカウンターに座っていた。ハバナ産のいいシガーがあると云って背中側のガラス棚からカギを開けて出してきた。吸い口を専用のカッターでカットしてもらい火をつけた。デュワーズロックを口に含んで、シガーをふかした。やはり合う、昔を思い出した。いつも、こうだった。

 ドアのカウベルがカランカランとなった。日本人女性かな? このバーで女性は珍しい、しかも日本人だなんて。カウンターの奥に座った。ジョージは空かさず、その女性に近寄り"How are you, Cindy?" "What can I serve for you?" と云った。"Fine Thanks! Brady Mary, please." 女性の声が聞こえた。ニューヨーカーのアクセントだ。

彼女日本人じゃないの?とジョージに聞くと日本人女性と日系アメリカ人男性とのHybrid(混血)らしいと云った。見た感じ歳は二十代半ば、黒いショートヘア、ダイアナ・ロスがプリントされた半袖のTシャツを着ていた。黒目勝ちの大きな目が印象的だった。

「こんにちは!近くに住んでるの? このバーにはよく来るの?」日本語で話しかけたが、解らないようで返事はない。今度は英語で同様に話しかけると、「ブロンクスに住んでいる、この近くのダンススクールに通っている。今日もその帰り。母親とここで待ち合わせてる。」とのこと。

 ブロンクス区はマンハッタン区のすぐ北で閑静な住宅地、ニューヨーク5区のひとつ、地下鉄とメトロノース鉄道が通っており住むには良いところ(livable)だ。

 その後シンディからは、将来ブロードウェイで踊ることが夢で或ること、母親が日本の福岡市出身であること(なんだあ同郷だ。)、近くの日本食レストランを経営していること、そしてダンサーになることに反対していることなど聞いた。時計を診ると7時を回っていた。


 そろそろ部屋に戻ろうと立ちかけたとき、入口のカウベルがカランと鳴った。

入ってきた女性を見て、ぶっ飛んだ、石田加代子だ!


   Hey, シンディ 今何をしてるの 

   オレンジのカーテン 邪魔して見えない

   ママが出てったら 合図をしてくれ

   木の枝伝って 君の部屋へいくよ

   僕はもう1時間前から ここに居るんだ


   Hey, シンディ ママがそばに居るのかい

   古ぼけたメルヘン 聞かされているんだろう

   ママが出てったら 合図をしてくれ

   木の枝伝って 君の部屋へいくよ

   僕はもうとっくに痺れを 切らしているんだ



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