招待
遥かに霞む東の空の地平線。
薄く広がる青空の果てが、紺碧に沈んでいる。
上下左右から迫り来る火龍。
今まで見たことのない、統制のとれた攻撃。
……赤帝龍。
まさかこれは、おまえが絡んでいるのか。
「イシュル」
目の前でリフィアの声がした。
「すまんが金の魔法で鉄槍を一本、出してくれないか」
リフィアが微笑む。
「わたしが右をやる」
そして彼女の眸が隣のミラに向けられた。
「わかりましたわ。ならわたくしが左を」
ミラもリフィアに微笑み返すと、山の左側斜面を上昇してくる火龍に視線を向けた。
「シャルカ!」
ミラが叫ぶと同時、頭上に金の魔力が彗星のように閃き、握りこぶし大の鉄球が無数に現れた。
「あっ」
イシュルはシャルカの魔力の強烈な煌めきに、はっとして我に返った。
「ベスコルティーノ!」
続いて黒髪の少女が杖を掲げる。
ミラとリフィアの後ろにマーヤがいた。
金の魔法の煌めきが消えると、空中を火の閃光が走った。
熱線が背中を突き抜ける。火精が前方へ向かっていくのが感じられた。
……戦え。今は考えるな。
金の精霊の異界に意識を向ける。
「リフィア、受け取れ」
イシュルは銀髪の少女の眸を見つめた。
その眸の光が一瞬、炎のごとく燃え上がる。
燃え立つ炎は赤い輝きになった。武神の矢が発動したのだ。
そして彼女の前に、空間が裂けるようにひと筋の光芒が現れた。光の線は即座に熱せられた鉄槍になる。
「ふふ」
リフィアはその熱をものともせず、宙に浮かぶ鉄槍を掴んだ。
ロミールら従者は無言で剣を抜き、みな背を低くしている。髭の男たちは荷を降ろし、尾根の両翼の斜面に散開した。
パラゴ村の案内人、アバトたちだけがその場に棒立ちになっている。
イシュルは振り返り、隊の先頭に立つフリッドに向かって言った。
「前へ出ます」
イシュルはニナ、ベニト、リリーナの横を抜けてフリッドの前に出た。
ニナは頭上にエルリーナを従えステッキを両手に持ち、ディマルス・ベニトは片膝を立てて座り、右の手のひらを地面に当てている。
水と土のふたりは防御に徹するようだ。
リリーナとフリッドは剣を抜き、腰を低くして前方を睨んでいた。
フリッドはイシュルが横を通り過ぎ前に出ても何も言わない。
イシュルが先頭に立った時にはすでに、真正面から一直線に向かってくる二匹の火龍、その一匹にベスコルティーノが絡みついていた。
火精に噛みつかれた火龍は山上に降り立ち、怒りの咆哮を上げた。
ベスコルティーノはその顎(あぎと)から、全身から炎を吹き上げ火龍を締め上げている。
互いに同じ火の属性どうし、攻め手を欠いて容易に決着がつきそうにない。
もう一匹の火龍は、同じ軸線をイシュルに向かって一直線に向かってくる。
「マーヤ、ベスコルティーノを下げろ!」
前方の火龍二匹を始末するのは簡単だが、ベスコルティーノを巻き込むことになる。
イシュルは後ろを振り向きマーヤに叫んだ。
その時、ほぼ同時にリフィアとミラが動いた。
ふたりは間合いを計っていたか、まだ攻撃をはじめていなかった。
山頂を左右に分かれ、一度急降下してから山裾を舐めるようにして上昇していた火龍は、およそ二百長歩(スカル、約130m)ほどの距離に迫っていた。
ミラは詠唱を破棄し右手を前に向けると無言で水平に払った。
瞬間、彼女の頭上に浮かんでいた鉄球が火龍に向かって放たれた。無数の鉄球は暖色に輝きオレンジ色の光芒を描いて火龍に突き刺さり、貫通し、その後方に抜けていった。
穴だらけになった火龍はもんどりうって山肌に激突した。
「ふんっ!」
片やリフィアはイシュルの生み出した鉄槍を、見事なフォームで火龍に向け投擲した。
一本の槍は山肌に触れるような低空を突き上げるようにして飛んでいき、火龍の顎に突き刺さるとそのまま胴体を貫通し、尾の付け根あたりから抜け出て後方へ飛んでいった。
リフィアの槍に頭から胴体を貫かれた火龍は、背中から血しぶきを上げて山の斜面に落下した。宙を舞う血煙が火を発し、あたりを赤く染めていった。
イシュルが前を振り向くとベスコルティーノの姿が消えていた。火精と戦っていた二匹目の龍も空に浮き上がり、討伐隊に向かってきた。
一匹目の龍は山頂の稜線に沿って、真正面から迫ってくる。
「……」
フリッドとリリーナは全身を緊張させ、さらに腰を沈めた。
ニナとベニト、水と土魔法の支援があれば二人の剣士の能力は高い。火龍とも互角以上に戦えるだろう。
だがイシュルは後続の火龍もまとめて、二匹とも一気に始末する気だった。
先頭で突っ込んでくる龍の顎が開かれ、奥で炎が渦を巻きはじめる。
もう、火龍の吐く火炎の射程に入りつつあるのだ。
イシュルは直立したまま、その火龍を無言で睨んだ。
……龍よ、風になれ。
瞬間、先頭を飛ぶ龍が塵となって消えた。赤黒く染まった塵が西の尾根に吹き上げられていく。二匹目の火龍も塵の舞う中に突っ込むと同時に消失、密度を増した血煙は赤い炎を煌めかせ、西の山の尾根に拡散し、薄く靄となって消えていった。
「おおっ」
「凄い……」
イシュルが龍を屠るところをはじめて見た、フリッドやリリーナたちから感嘆の声が上がるが、イシュルは無視して空を仰いだ。
「残る一匹は……」
最初に上昇していった火龍はイシュルら一行の上空、少なくとも千長歩(スカル、700m以上)ほどの高さを旋回していた。
陽光に両翼を広げた火龍の影が浮き上がり、瞬き霞んで見える。
……あれが指揮していたのか。
イシュルは眸を細めて空を舞う、不吉な影を凝視した。
相当、長生きしているやつかもしれない。
長寿の龍種は、人間と変わらない知能を持つようになると言われている。赤帝龍とは比ぶべくもないが、それなりの知能を有しているのだろう。
……剣さま、お見事でした。
今まで気配を見せなかったネルの声が、すぐ耳許で聞こえる。
……あれが火龍の群れの長(おさ)のようです。あの龍はわたしが始末しましょう。
「あの龍から何か聞き出せないかな?」
イシュルは誰にも聞こえない小声でネルに質問した。
……わたしとは意思の疎通ができると思いますが、何もしゃべらないでしょう。
なるほど。
「口を割らないなら、殺ってしまってかまわない」
……御意。
ネルの声が耳許から脳裏に響くと、いきなり上空で複数の風の刃が現れた。
青白く輝く、半円状の風の魔力の刃は何もない空間から姿を現すと、ゆっくりと旋回する火龍に向かって飛んでいった。
火龍はすぐ気づき急降下して逃げようとするが、速度に差がありすぎる。数本の風の刃が、羽を鋭角にすぼめ落下する黒い影と交錯した。
「ギャギャーン」
と、火龍が末期の雄叫びをあげた。
その影が四散する。
ばらばらになった胴体や羽は、ところどころ炎を上げくるり、くるりと回転しながら山裾へ落下していった。
「ふむ、見事だ。いきなり五匹のも火龍が現れて肝を潰したが、なんということはなかったな」
「イシュルさんがいると、火龍相手でも楽ね」
そばにいたフリッドとリリーナがイシュルに笑顔を向けて言った。
「イシュルさま。獲物を分けていただき、ありがとうございます」
「わたしもだ。イシュル、ありがとう」
後ろからリフィアとミラが声をかけてくる。
「ああ……。うん」
イシュルも笑みを浮かべて周りの者に頷いて見せると、後ろへ戻り、唖然として固まっている案内人のアバトに声をかけた。
「いつもあんな頭のいい火龍がいるのか? しかも五匹も」
「へっ? あ、ああ。ご、五匹は多いかもしれない。そ、それよりあんた……」
アバトは最初は心ここにあらずといった風だったが、なんとか立ち直ってイシュルに脅えの混じった視線を向けてきた。
「あの強烈な風魔法、噂のイヴェダの剣ってのは、あんたのことだったのか」
「……」
イシュルは笑みを浮かべたまま、わずかに肩をすくめた。
「王家の強い魔導師さまばかりだから、襲ってきたのかもしれない」
アバトは何か根拠でもあるのか、勝手に結論づけた。自身を、無理やり納得させているようにも見えた。
「あいつらはなぜ山の上にいるんだ? いつもなんだろ?」
イシュルは食い下がってアバトに質問を続けた。
「ああ。……そうだけど、俺はよく知らない」
昨日にもあった会話だ。アバトは困惑して小刻みに何度も頷いた。
「……」
イシュルは再び視線を遠く、東の空にやった。
あの統制のある動き。なぜ火龍はいつも、この盆地の外縁部にある山稜に陣取っているんだ? 何もない山の上に。単に見晴らしがいいからか? 餌になる大物の魔獣を見つけやすいからか?
「……ただそれだけか。やつらは何で……」
イシュルの呟きは誰にも聞こえず、山頂を吹く風に瞬く間にかき消された。
五匹の火龍の群れはあっけなく退治されたが、すぐ新たな問題が持ち上がった。
アバトら、パラゴ村で雇った三名の案内人がその場で村に帰ると言いだしたのである。
彼らは今まで見たことのない火龍の攻撃的な動きに、怖じ気づいたのだった。
「ここからでも見えるだろ? あの少し窪んで低くなっている辺りだ。あそこは“土神の腰掛け”と言われていて、あそこから南の中盆地に下っていく道がついている。行けばわかるよ。丸一日ほどその道を行けば盆地の最初の村、アゴニャ村に着く」
アバトがイシュルとフリッドに説明を続ける。
アバトは「行きはあんたらと一緒だからいいが、帰りは俺たちだけだ。もしまた火龍にあんな攻撃を仕掛けられたら、とても逃げきれない。悪いがまた別の龍が集まってくる前に、俺たちは退散させてもらう」と言って、案内の契約を途中で打ち切ることを打診してきた。残金の支払いも当然要求しない、前金だけでいいと言ってきた。
……俺はかまわないんだが……。
イシュルはアバトの話を無言で聞いている、フリッドの顔を見つめた。
アバトら村の案内人は、はた目には決して脅えているようには見えない。彼らは復路のことを冷静に判断して、交渉しているのだろう。
「あの峰から降りればいいんだな?」
フリッドは低い声で言った。
「ああ、そうだ。魔導師さま」
「よかろう。王都に帰る時にはまた、パラゴ村で厄介になるしな」
フリッドは仕方がない、と言った顔で頷き、アバトらの途中帰還を認めた。
「あ、あんたの風の魔法は凄かった。見たこともない高位の精霊を従えているし……。俺たちがいなくても、あんたらなら無事アゴニャ村まで行けるさ。どうってことない」
アバトは何らかの魔法具を持っているのか、イシュルにそう言うと、村の仲間とともに早々に来た道を戻っていった。
「まぁ、仕方ないですね。とりあえずやつらの言う“土神の腰掛け”とやらに向かいますか」
「そうだな」
フリッドが頷くと、エバンとシーベスが近寄ってきた。
「この先はアゴニャ村まで、わたしが道案内いたしましょう」
エバンよりやや年上か。二十代後半くらい、他の髭の男たちと同様ありふれた顔貌のシーベスが、これまた特徴のない声で言った。
「わたしどもはアゴニャ村から先行することにします」
先に偵察に出ていたシーベスら三人は、穴蔵団の幹部、サリオに対する工作を行うため、山を越えたらすぐ本隊から分離、カナバルへ先行することになっていた。
「うむ。そうするか。マーヤ殿も異存はないな」
「うん」
続いて寄ってきたマーヤが頷く。
「サリオとの接触は慎重にな。頭目のバシリアはこちらの動きを予想して、何か手を打っくるかもしれない。サリオを餌に罠を張っているかもしれない」
イシュルはパラゴ村での打ち合わせで最後に言ったことを、シーベスにもう一度念押しした。
バシリアがずる賢い女だとは、セグローとフェルダールが何度も言っていたことだ。
そろそろ穴蔵団にもこちらの情報、王家討伐隊の面子や動きも伝わる頃だろう。彼女が噂のとおり頭のよく回る女なら、こちらが調略を仕掛けてくることも、その対象をサリオに絞っていることにも考えが及ぶ筈だ。
「はっ」
イシュルよりよほど年上で経験豊富なはずのシーベルは、何の隔意もなく頭を下げた。
「もし穴蔵団が罠を張っているのなら、それにわざと乗ってみるのも一興です」
エバンが珍しく、白い歯を見せて笑って言った。
「……」
イシュルも薄く笑って頷いてみせた。
エバンはわざと罠に嵌って見せて相手に先手を打たせる、あるいは油断させるのも手だと言っているわけだ。
バシリアの方が先に動けば、それはそれでやりやすい。戦闘力はこちらの方が圧倒的に上だから、不測の事態に陥っても力技でひっくり返すことができるだろう。
バシリアには使える手が限られている。彼女には本来、一旦こちらに恭順の意を示して俺たちが地下神殿に潜ってから妨害をはじめる、街の住民の一部を動かしてゲリラ的な戦闘を継続しつつこちらの補給を断つ、くらいしかやりようがない。
それがこちらがサリオに調略をかけてくる、となれば彼女にも対抗策の選択肢が増えるのではないか。
「敵に捕まっても、二日はもたせなさい」
リリーナがシーベスに過酷なことを言ってきた。
横に立つマーヤが彼女らしくない、鋭い視線をシーベスに向ける。
マーヤも、リリーナと同じことを要求しているのだった。
「はい」
シーベスはふたりにも神妙に頭を下げた。
……確かにバシリアに捕まれば、厳しい拷問にかけられるだろう。シーベスらはその場合、敵側に偽情報を流すことになっていた。サリオを寝返らせ、カナバルの街の住民と盗賊団の分断を計って、こちらが街の方から先に手をつける、という風にだ。
だが実際はカナバル到着と同時に、穴蔵団のアジトになっている領主の館に直行、サリオ本人と接触、確保するとともに、頭目のバシリア以下を皆殺しにしてしまう、可能なら彼女ら幹部を捕らえる、というのがパラゴ村での夜の打ち合わせで決まったことである。
もし調略工作が露見して対策を取られても、結果としてはバシリアの裏を掻くことになる。
「まずは先を急ごう。日が暮れるまでに山を降りるぞ」
イシュルたちが小声で話していると、後ろからリフィアが催促してきた。
……五匹もの火龍がいたこと、奴らが組織的な攻撃を仕掛けてきたこと。バシリアと穴蔵団のこと。
だが今は目の前に、より重要な問題があった。
いよいよ地下神殿のある盆地に臨むところまでやって来た。
月神レーリアの介入を、警戒すべき時が近づいているのだ。
レーリアはまずその、バシリアとの対決の時に何かしてくるかもしれない。
「そこで動きがなければ、次は地下神殿でマレフィオアと戦う時だ……」
イシュルは視線を南西、盆地のある方に向け、ほんの小さな、誰にも聞こえない声で呟いた。
山稜の頂(いただき)から望む中盆地の方角は、一帯が濃い霧の中に沈んで見えた。
パラゴ村の案内人、アバトらが片手を上げて別れの挨拶をしているのが、山の稜線伝いに小さな影となって見えた。
火龍の襲撃後、フリッドは彼らの予定より早い帰還を認め、アバトらは村に帰って行った。
イシュルたちは山の頂をそのまま西へ進み、“土神の腰掛け”と呼ばれる標高のやや下がった地点で、南に下る緩やかな山裾の道らしきものを見つけ、そこから盆地に向かって降りて行った。
麓(ふもと)の方は相変わらず濃い霧に覆われ、本来なら見渡すことができる筈の“中盆地”の全容もよくわからなかった。
夕刻には木々の生い茂る標高にまで達し、小さな小川の流れる茂みの中に野営した。
うまく湧水近くの小川を見つけることはできたが、周囲は草木に塞がれ視界が悪いのが難点だった。
魔獣の発見が遅れ、戦いにくい場所だった。
フリッドは各々の天幕を密集させ、見張り番の数を増やして魔獣の警戒を厳にした。
「イシュル、ちょっといいかな」
「……」
天幕の中に吊るされた小さなランタンが、ふたりの少女の姿を照らし出す。
そろそろ寝ようかというところで、リフィアとマーヤがイシュルの天幕に入ってきた。
「イシュルと大事な話がある。従者殿、申し訳ないがしばらくの間、エバンの天幕に移ってもらえないか。彼に話は通してある」
リフィアは続いて、同じ天幕にいたロミールに声をかけた。
彼女は人払いをして、イシュルと三人だけで話がしたいと言った。
「はい。わかりました」
ロミールは気前よく返事をすると、イシュルに目礼してそそくさと天幕の外に出て行った。
「あー、何かな」
昨晩は峠の下の浅い洞穴で酷い目にあっている。イシュルは不安の入り混じった、探るような口調で言った。
……マーヤとふたりで入ってきたし、リフィアの口調から真面目な話のようだが、とにかく用心するに越したことはない。なんだかんだと言いくるめられて、ロミールはそのまま帰ってこず、このふたりに挟まれるように寝る羽目になってしまった、なんてことも起こりうる。
こいつらは、特にリフィアとミラはまったく信用ならない。
「うむ。今日の火龍の襲撃のことだ」
「イシュル、すごく気にしてたよね」
リフィアとマーヤがイシュルの向かいに座りながら言った。
「……」
イシュルの顔が真剣なものになった。
そのことか……。
「あの火龍の攻撃、ずいぶんと連携がとれていたな」
「あれほどは珍しい。たぶん、とても長生きしてるのがいて、それが指示を出していたんだと思う」
「うん」
イシュルはマーヤからリフィアに顔を向けて頷いた。
ふたりは一番の当事者なのだ、あの時の。
「イシュルは……」
「赤帝龍を思い出したの?」
……そうだ。だがやつのことを思い出したのは、俺だけじゃないだろう。
リフィアは赤帝龍との戦いで自軍の多くの兵を失い、マーヤは自ら手配した傭兵部隊を失った。
特にマーヤは俺が赤帝龍と戦う寸前まで行動を共にしていた。風の精霊のカルに頼んで彼女をフゴに帰し遠ざけたのは俺だ。
ふたりとも赤帝龍とは、俺と同じように因縁があるのだった。
「あの時、何か嫌な感じがしたんだ」
イシュルは火龍が襲ってきた時のことを、ふたりに正直に話した。
「パラゴ村の案内人は火龍の巣があると言っていたが、五匹もの火龍がいきなり現れたこと、やつらの動きには不自然な感じが拭えなかった。すべての火龍は赤帝龍の眷属のようなものだ。赤帝龍は火龍の王様なんだ」
「うむ……」
リフィアは難しい顔になって胸の前で腕を組んだ。
「イシュル、何が言いたいの」
天幕の端の方に置かれたランタンの火が微かに揺らぐ。外では時折、森の方から夜鳥の鳴く声が聞こえてくる。
マーヤの眸がじっとイシュルを見つめる。
「山頂で襲ってきたあの火龍は赤帝龍の命令を受けていたのではないか」
イシュルは心にわだかまっていた疑念を口にした。
「まさか、赤帝龍がおまえを見張っていたというのか」
リフィアの声が大きくなる。
「いや、そういうことじゃない……」
イシュルは顔を俯かせ、自信なさげに口ごもった。
……リフィアの言うとおり、そんなことはありえない。俺を見張るというのなら、なぜあの火龍はブレクタスの山中にいたのか。火龍を間近に見たのは久ぶりだ。赤帝龍が眷属の火龍に俺を見張るように命じたというのなら、どこかの山野ですでに姿を現していた筈だ。
「イシュルを見つけたら、ああいう風に攻撃しろ、って赤帝龍が指示を出していた、ってこと?」
マーヤの言うことも違うだろう。それはつまり赤帝龍が、俺がブレクタスの地下神殿に向かうことを以前から予想していたことになる。それこそありえない話だ。
「火龍どもが襲ってきたのはこちらに多くの人間がいたから、あるいは多くの魔導師がいたからじゃないか」
それは案内人のアバトも言っていたことだ。
「……そうだな」
わからない……。
イシュルは力なく頷く。
「でもあの五匹の火龍の攻撃が妙に連携がとれていたのは事実。それをイシュルが疑問に思うのはわかる」
「うーむ」
「確か、この盆地の周りにはわりと火龍が出没するらしいな」
「だが山奥なら火龍がいるのはおかしいことじゃない。盆地の南西に広がるブテクタスの山々には、もっと多くの火龍や地龍もいるだろう」
それはトラーシュ・ルージェクが手配してくれた、「ブレクタス山岳地誌」にも書かれていたことだ。だがそれ以前に、大陸の中南部の山岳地帯には大型の魔獣が数多く生息している、というのは誰でも知っている常識である。
「案内人のアバトが、中盆地の周りにはわりと多く火龍がいると言っていたんだ」
「盆地には人間の村が幾つもあるからかな」
マーヤの言っていることは、それらの火龍が彼らの好物である、村で飼われている牛や馬などの大型の家畜を狙っているのではないか、ということである。
「しかしそれは山岳史にも書かれていなかったし、アバトも特に触れなかったな」
他に食用となる魔獣がいるのなら、たとえ火龍といえども人間の固まって住む街や村には、そうそう近づかない。
家畜は彼らにとってもご馳走だろうが、人間の村を襲えば火龍も無傷ではすまない。傭兵や魔法使いがいるような村を襲えば、致命傷とはいかなくても大怪我を負うことはある。
ただの村人相手でも、集団で弓矢や槍の攻撃を受けるのは火龍にとっても面倒だろう。
「それならやつらは、家畜を襲うわけでもないのに盆地の周辺を徘徊しているわけか」
それもおかしな話だな、とリフィアは続けた。
「幾つか火龍の大きな群れがあって、そのうちの一つがたまたま盆地の周辺を縄張りにしてる、て感じなのかな」
「それだ、イシュル」
とリフィアが大きく頷く。
火龍の生態など、学問的には何もわかっていないも同然だが、同種の群れの縄張り争い、というのは龍種でもあるのではないか。
もしそうだとしたら、自らの住処から遠く離れたブレクタスの縄張り争いに、赤帝龍どう絡んでくるというのだろう。
そう考えると昼間の火龍の襲撃に、赤帝龍が関与している可能性は皆無、ということになる……。
「心配することはないさ。そもそも、赤帝龍が隠れている東山地とブレクタスでは距離がありすぎる。イシュルの取り越し苦労だ」
リフィアがにこにこと笑顔になって言う。
……ふたりは火龍の襲撃の時、俺が不審な表情をしたのを見過ごさなかった。それは互いに赤帝龍との因縁があったからだろうが、リフィアは俺の疑念を晴らすことより、不安を取り除くことを考えてくれているようだ。
だがマーヤは……。
彼女は先ほどから無言でじっと考え込んでいる。その黒い大きな眸は、何を見ているのだろうか。
「マーヤ?」
「うん?」
マーヤがイシュルに顔を向ける。
その眸にイシュルの顔がぼんやりと映った。
「火龍たち、やっぱり何かを見張っているのかな」
マーヤは呟くような小声で言った。
「イシュルのことじゃなくて。……例えば地下神殿とか」
「なっ!」
「あっ」
イシュルとリフィアは目を合わせて驚きの声を上げた。
……そうか。いや、それはつまり……。
「地下神殿じゃない」
「マレフィオアを見張っているんだ……」
「うん」
……その可能性はある、かもしれない。
マーヤとリフィア、そしてイシュルは呆然と、互いに顔を見合わせた。
マレフィオアは地神の魔法具を発現させる、紅玉石の片方を持っているのだ。
俺と同じ、すべての神の魔法具を集める目的を持つ赤帝龍が、気にかけない筈がない。
赤帝龍はウルク王朝の崩壊時に、逃れてきた王国の者たちと接触している。マレフィオアの一件を耳にしている可能性はあるのだ。
「……」
イシュルは顔を俯けるとひとり、心の奥底に思考をめぐらした。
青空に浮かぶ雲が流れ、視界の端に消えていく。
暗灰色の岩肌が目前に迫ってくる。
「おっ、ほっ」
背後からディマルス・ベニトの短く叫ぶ声が上がる。
イシュルは岩山の頂上に着地すると、眼下に広がる眺望を見渡した。
翌日早朝、マレフィオア討伐隊は林間の野営地を出発し、次の目的地であるアゴニャ村に向かった。山道を降りはじめてしばらく、今まで耐えていた部隊最高齢のベニトがついに根をあげ、イシュルがおぶることになった。ベニトは昨日、山を降りる途中右足足首をかるく挫いて、それが負担になり一気に疲労が蓄積したということだった。
その間、マーヤはエバンが背負うことになった。
出発して数刻、昼を回る頃になると麓を覆っていた霧が晴れ、視界が良くなった。
イシュルは左側に谷川を挟んで並走する山嶺に、周囲が岩で覆われ草木の生えていない頂(いただき)を見つけると、隊長のフリッドに声をかけ、ベニトを背負ったままその岩山に飛んだ。
イシュルに背負われ、はじめて空を飛んだベニトは、眼下の深い谷底を見下ろし小さな悲鳴をあげて全身を硬直させた。
イシュルは岩山の頂きに降り立つと傍らにベニトを降ろした。
「いやぁ、空を飛ぶのがあんなに恐ろしいものとは……。ほう。なかなかいい眺めじゃな」
「ええ」
イシュルはちらっとベニトを横目に見ると笑みを浮かべて相槌を打った。
彼らの前方には、四方を深い山並みに囲まれ、豊かな緑に覆われた中盆地が広がっていた。
「……」
イシュルは眩い陽光に眸を細め、しばらく無言でその景色を眺めた。
……以外だな。こちらの勝手な思い込みだが、地下神殿の盆地は太古の火山活動によってできた大火口が元になった、すり鉢状の地形になっているのではと想像していた。
ブレクタス山塊の北西側、例えばアルム湖の一部は、その地形から明らかに火山湖によるものだと推察できた。おそらく何万年もの昔、同地には大小の幾つもの火山が存在したのだろう。
だから地下神殿の盆地も、火山活動によってできたものではないかと考えていた。
しかし、目前に広がる眺望は緑豊かなだけでなく、緩やかな山地、丘陵や扇状地らしき平地が複雑に入り込んだ、変化に富んだ地形をしていた。
盆地の奥に広がる遠方の山脈は、雪を冠って空に溶け込むように霞んで見えた。あの山並みの先がブレクタス山塊の中央部となる。
そこは標高が九千長歩(スカル、5000m以上)に達する高峰が連続する大山岳地帯で、人はほとんど住んでない。「ブレクタス山岳地誌」によれば山人、山窩に類するような山の民がごくわずかに存在するとされている。もちろん大型魔獣も多く生息する、魔物たちの楽園でもある。
その山並みが丘やなだらかな扇状地なって平地に消えるあたりが中盆地の中心部で、地下神殿に至る洞窟、地上の遺跡もその辺りに存在する。カナバルの街も近くにある筈だが、今は視認できない。小さな湖が点在し、陽光に湖面を鏡のように輝かしているのが見える。
「地誌にあったとおり、なかなか降水量が多そうですね。緑の色が強い」
「うむ。冬も雪が多そうじゃな」
「周りは山、降水量も多いし、長い間に盆地の全域が湖になって沈みそうな地形ですが、そうでもないですね」
ぱっと見たところ大きな河川は見えないが、小さな川が多く、おそらく地下水も豊富だろう。
「この盆地に流れ込む山の水はみな地下に染み込んで、大山塊の地中の割れ目を通ってアルサール大公国の西側に達し、そこから泉となって湧き出し、大小の川となって中海に注ぎこんでいるとされている。太古の昔には、アルサールの一部とその南側は海だったらしい。中海の一部が大陸の内側にまで入りこんでいたんじゃの」
「なるほど。……そうですか」
イシュルはベニトに顔を向けて感心したように頷いた。
さすがは土の宮廷魔導師。ディマルス・ベニトは大陸の地質にも詳しいようだ。
王国南部からアルサールの西南部、オルスト聖王国の南部は河川が多く、大小の湿原も無数に存在する。
ブレクタス山塊からは、周囲の平野に流れ込む河川だけでなく、地下にも巨大な水の流れがある、ということだ。
「王国史にはとくに記述はなかったですが、地下神殿も水が多そうですね」
「そうかもしれんが……。地中を流れる見えない大河は、もっと深いところを流れているだろう。案外水はけが良く、急な出水も心配する必要はないかもしれん」
ベニトは難しい顔になって言った。
地下神殿探索では彼も最奥部まで同行することになっている。もう若くなく体力面で懸念があるが、地下の探索には火と土の魔法は欠かせない。
「それなら案外楽に、マレフィオアのいるところまで行けそうですね」
「途中悪霊や悪魔、穴蛇や黒蜥蜴がたくさん出てくると思うが……。貴公ならなんでもないかの」
ベニトの言う悪霊にはこの場合、アンデッド、例えばスケルトンなどの魔物も含まれる。なかなか希少だが、この世界にもファンタジーでお馴染みの化け物が登場するのである。
地下神殿に巣食うアンデッドには、そこで命を落とした魔導師や賞金稼ぎらも数多く含まれているだろう。なんといっても元は、邪神や悪しき魔を統べる荒神、バルタルのお膝元だったのだから。
「しかし黒蜥蜴か……」
イシュルは口の中で呟いた。
……見た目はただの化け物だろうが、なかなか気のきいた名前じゃないか。
もしその黒蜥蜴とやらが妖艶な美女なら、某名探偵も登場したりするんだろうか。
イシュルは口の端を引き上げ笑みを浮かべた。
ああ、それならもういるじゃないか。バルタルの穴蔵団の女頭目、バシリアがそれだ。
「ふふ」
イシュルは微かにだが、思わず笑い声を漏らした。
一行はその後何事もなく無事、夕刻にアゴニャ村に到着した。
髭の者シーベスは二名の部下を連れ、その場で討伐隊から分かれカナバルに先行した。
道中では昨晩話し合われた、イシュルとリフィア、マーヤの話は誰も蒸し返さなかった。
地下神殿に潜むマレフィオアを、赤帝龍が眷属の火龍に見張らせている可能性はありえるが、当然、断定することはできない。
一方で、ブレクタス山塊にも多くの火龍が生息し、その一部がたまたま中盆地の周辺を縄張りにしているだけだ、という考えも充分に納得できるもので、結局あの場で結論を出すことはできなかった。
イシュルはアゴニャ村に到着し、村を治める小豪族の屋敷にひと部屋割り当てられると、すぐに外出して周辺の散策に出た。
北の山々から張り出した丘陵の突端にある同村は、パラゴ村と同様、東西と南側が岩壁になっていて、大型の魔獣や他村からの攻撃にも耐えうる、堅固な防御力を有していた。
村の北側の山裾には段々畑が、南側の崖下にはかなりの規模の麦畑があった。
イシュルは段々畑の端を抜け、山間に広がる森の中へ入っていった。
周囲の木々は下刈りや間伐が適度に行われ、よく手入れされているように思われた。イシュルはふと立ち止まり、高く飛びた檜(ヒノキ)を見上げた。
ついで視線を戻し周囲に、横に素早く走らせた。
「へへ。あんたの方から来てくれるなんてな。助かるぜ」
林間に人の気配がして、王都の貧民窟で会ったセグローとフェルダールが姿を現した。
そしてもうひとり。
その男は草むらから立ち上がると、イシュルの背後に立った。
イシュルは首を曲げてその男を横目に見ると低い声で言った。
「気に喰わないな」
……こいつがニセトだろう。セグローたちパーティの四番目の男。現地でバシリアや囚われた彼女の弟、バストルの動向を見張っている、とか言ってたやつだ。
ニセトはセグローらより若く、二十歳(はたち)過ぎくらい、ここら辺の出身なのか陽に焼けた素朴な顔立ちをしている。
しかし、ディマルス・ベニトの「ベニト」は家名だから違うんだろうが、一郎だの太郎だの「郎」と同じような意味があるのか、アバトにニセトと、ここら辺の男は「〜ト」で終わる名前が多い。
「おいニセト、俺らの方に来い。このお人を怒らせるんじゃねぇ」
セグローが背後のニセトに声をかける。
「……」
ニセトは無言でイシュルの横を周り、セグローとフェルダールの側に立った。
「アゴニャの方にはラディス王国の影の連中もいるだろう。どうやってあんたとあの辺境伯家のお姫さまと連絡をとるか、困っていたんだ」
と、フェルダールが落ち着いた声で言った。
「たまたま、偶然だな。俺はあんたらに会おうと思って森の中に入ったんじゃない」
イシュルは無表情な顔で、平坦な口調で言った。
……まぁ、おまえらの気配にはすぐに気づいたがな。
実情は違う。中盆地に入っていよいよカナバルも近い。穴蔵団ともやりあうことになるだろうし、地下にはマレフィオアが待っている。ネルに加えてあらたに金の精霊を召喚しようと思って、人気のない場所にやってきたのだ。
「カナバルまでは歩いても一日半、と言ったところだ。ここら辺であんたらと打ち合わせしたくてな」
セグローが以前と同じ、卑屈な笑みを登らせ媚びるような声で言った。
確かにこいつらは最初に会った時、現地でもう一度会うようにする、と言っていた。
セグローの横に立つニセトはずっと無言で、こちらを放心したような顔で見つめてくる。この男がイヴェダの剣か……、とでも考えているのだろうか。
陽は西の山並みに沈み込み、森の中を紅い光が横に走っている。
どこかでうら寂しい、野鳥の鳴く声がした。
「そろそろバシリアも、俺たちが盆地まで下りてすぐそこまで来ているのを知る頃じゃないか?」
イシュルは口角を歪めて言った。
「こちらの手のうちは晒せない。おまえらが裏で、バシリアとも繋がっている可能性もあるからな」
「バシリアの耳に、あんたら王家の調査隊の報らせが行ってるのは間違いないが……」
「いやいや、俺たちはあんたらを裏切ったりはしねぇ。強い方につくのは当たり前の話だぜ」
フェルダールが憮然と、セグローが両手を広げ叫ぶように言った。
「俺がおまえらだったら、王家討伐隊の情報提供や妨害を条件に、バストルの解放をバシリアに持ちかけるがな」
イシュルの笑みがさらに歪んでいく。
穴蔵団にとって、バシリアにとって、マレフィオア討伐隊の脅威は相当なものだろう。ならそんな取引だって成立するだろう。
「いや、いや。だから……」
セグローが両手を広げたまま、ブルブルと震わせる。
……この程度で、この男はすっかり脅え切っている。
だが過剰な反応、臆病者だとそしることはできないだろう。こいつらは俺の強さをよく知っている。
だが、ニセトはそうでもないか。
その名前といい、やはり盆地出身なのかもしれない。王都からそれほど離れていなくとも、人の往来が少ない山奥では情報が伝わるのも遅いし、正確さも損なわれる。
バシリアにも俺の情報がどれほど正確に伝わっているか、疑わしいところだ。
……もしそうなら、こちらはよほど助かる。
「バストルはまだ生きてるのか? 領主館の牢獄は地下だったか。だが──」
「ああ、もちろんまだ生きてるさ。よ、よろしく頼む」
セグローはまだビクついている。慌ててイシュルの言を遮ってきた。
穴蔵団の中にはセグローらに内部の情報を漏らす者もいる、ということだ。
「俺たちがカナバルに着いたら、しばらくは領主館に近づかない方がいい。バストルの救出は俺たちの方でやるが、状況によっては後回しになる。もしバシリアたちの隙をつけるなら、うまく頃合いを見計らって館に侵入し、おまえたちで助けてやってもいいかもしれない。だがほんとに気をつけろよ? お前たちの命の保証はできない」
イシュルは笑みを浮かべたまま言った。
「わかった」
神妙に頷くセグロー。
「お、おい。バストルは大丈夫だろうな」
だが今度はフェルダールが慌て出す。
……こいつは魔法使いだ。噂だけではない、俺の力がどれほどのものか、感じることができるのかもしれない。
カナバルの領主館は僻地の豪族らしく、一般的な城塞と変わらない。それを一気に破壊できる力を俺が持っていることを、フェルダールはわかっているわけだ。
「もちろん配慮はする」
館内の配置図は見ていないが、以前彼らから送られた手紙には領主館の外観や間取り、牢獄の大まかな位置などの説明は記されていた。
バストルが囚われている部屋は、母屋の地下にある牢獄ではなく、その裏手にある倉庫の一室だと書かれてあった。
……よほどの混戦にならない限り、そこまで被害が及ぶことはないだろう。
セグローはいつもの卑下た薄笑いを浮かべて言った。
「へへ。頼むぜ……」
「あんたは俺たちとは違う。裏切ったりしないと信じている」
「……」
イシュルはフェルダールに小さく頷いてみせた。
……だが、それはどうかな。俺は悪党じゃないかもしれないが、別に正義の味方ってわけじゃない。
誓約は守らなければならない、と考える一部の貴族や神官らとも違う。
「それじゃ、よろしくな」
「俺たちは先にカナバルに向かう」
「ああ」
セグローとフェルダールはその後も討伐隊に関し質問してきたが、イシュルは何も答えず、男たちは檜の木立の奥へ消えていった。
結局、ニセトはイシュルをただ無遠慮に見つめるだけで、何も言わずに去っていった。
イシュルは彼らの消えた方向とは逆の、やや北寄りに森の奥へ進み、辺りに人の気配がないのを確かめると、金の精霊を召喚した。
「金神ヴィロドよ。我へ熱き鋼(はがね)の強者(つわもの)を遣わし給え」
イシュルは感覚と意識の外縁を金の精霊の異界へと伸ばし、短縮した召喚呪文を唱えた。
頭上、高く伸びた木々の幹の間に夕日の光が微かに残っている。その消えてなくなりそうな残光を一瞬、強烈な魔力の閃光が突き抜けた。
木々の間を金の魔力が人型に凝縮していく。
裾の短いゆったりとしたローブにブーツ、両手首に唐草の模様の入った籠手が見える。
やや面長の整った顔立ち。今回も男の精霊だ。
「やあ、楯さま」
にやりと右の口角が引き上げられる。少しキザな優男(やさおとこ)だ。
気取った口調の、若々しい声。
「呼んでもらえてうれしいぜ」
「あ、ああ」
前に召喚したシルバとは、見た目の年齢が近そうなだけでだいぶ違う。どちらかというと美貌の風の精霊、ヨーランシェに近い。彼を少し野卑に、悪賢くした感じだ。
「名前を聞いておこうか」
イシュルは正面、頭上に浮かぶ金の精霊を見上げて言った。
「ああ、俺の名はルカストフォロブ・ルトコフスレフ、だ。よろしく、楯さま」
「……」
イシュルは呆然とその優男の精霊を見つめた。
……また強烈な名前だ……。絶対覚えられない。今まで召喚した精霊で最も難解な名前だ。
というか、まともに口に出して言切れる自信がない。
「ルカス、……いや、ルカと呼んでいいかな」
「もちろんだ。楯さま」
ルカスの笑みが大きくなる。
「よし。そ、それで、俺は風の精霊も召喚している。彼女を紹介しよう」
イシュルは慌ただしく何度か頷くと、ネルを呼ぶことにした。
なんだか、高位の精霊の難しすぎるヘンテコな名前に、久しぶりに動揺を隠せない。
ルカは、見た目はちょっと胡散臭さも漂う優男だが、その名前からしても大精霊クラスであることは間違いない。服装もローブを着ながら腕には手甲を嵌め、足下も戦闘用のブーツを履いていて、魔法使いと闘士の中間型と思われ、両方の戦闘を器用にこなすタイプに見える。
願ってもない、最も使いやすい精霊だ。
「……ネル」
イシュルは動揺を抑え、面上に薄く笑みを浮かべると風の精霊を呼んだ。
「はい、剣さま」
風の精霊はイシュルの左側、ルカスから少し間をあけてその麗しい姿を現した。
「……」
いつもより表情が薄く、あまり機嫌が良くない。
「これからいよいよ……そうだな、敵地に乗り込む。それで金の精霊も召喚した」
イシュルはネルを横目に見て言った。
「お互い仲良くとは言わないが、時には連携して戦ってもらうこともあるだろう。無用な諍いは決してしないように」
「もちろんだ。風の方は可愛らしいお嬢さんじゃないか。俺の方は文句はないぜ、楯さま」
ルカスは一瞬、にやりとネルを見ると、楽しそうにさえ聞こえる声で言った。
「ずいぶんと軽い男ですこと。これが金の大精霊なのですか」
「!!」
……ネルめ。やってくれた。
幸い、ルカは微笑を浮かべたまま、気を悪くした様子はない。
「ネル、注意したばかりじゃないか。そういのはやめてもらおうか」
イシュルは視線を鋭く、声を低くして言った。
彼女はナヤルと同じ、イヴェダの側近くに仕える女官だと言った。
つまりは気位が高いのだろう。女官とはそういうものだ。
「お、お許しを、剣さま。……仰せのとおりにいたします」
ネルはイシュルの怒気に触れると慌てふためき、頭(こうべ)を低く垂れて言った。
「ああ」
……頼むよ、ネル。ナヤルみたいのはやめてくれ、ほんとに。
イシュルは鷹揚に頷いてみせたが、内心は問題発言の多かったナヤルを思い出して、いささか辟易していた。
どうして系統が違う精霊はどいつもこいつも仲が悪いんだ……。
「……」
イシュルは控えめにため息を吐くと、ふたりに今後のことを簡単に説明した。
「最終の目的は地下神殿の奥底に潜むマレフィオア退治だ。俺はやつの持つ土の魔法具の源(みなもと)、紅玉石の片割れを手に入れたいと思っている」
イシュルは左手の甲をふたりの精霊に向け、革手袋の上を右手でなぞった。
「その前に、地上で神殿の入り口を押さえている盗賊団を屠る」
「了解した」
ルカスは笑みを引っ込め真面目な顔になって頷いた。
「マレフィオアとは、あの醜い大蛇のことですね」
一方、ネルは恐ろしげな微笑を浮かべ確認してきた。
マレフィオアとは人間が仮に名付けた名前だ。元は主神へレスによって名を奪われ、神の座を追われた女神の欠片だから、名はないままなのだろう。
「そうだ。ふたりとも、マレフィアについて知っていることは?」
「いや、俺は詳しくは知らない。元は水神の妹だったのだろ? なら水の精霊なら知る者もいるんじゃないかな」
とルカス。
「そのことは、わたしたちもにも詳しくは知らされていないのです。剣さま」
ネルは神妙な顔をして言った。
「なるほど……」
イシュルは顎に手を当て考える仕草をした。
……あの化け物のこと、いや水神フィオアの妹のことは、やはり精霊も人間と同じ程度のことしか知らないわけだ……。
「まさか、君たちはやつと戦えない、などと言わないだろうな」
「それは大丈夫です。剣さまの命令とあらば、わたしの全てをかけて戦いましょう」
「俺もだ、楯さま」
ふたりの精霊は力強く頷いた。
「ですが、背神の欠片にはお気をつけください。剣さま」
「背神の欠片……。神の呪いのことか?」
森の魔女レーリアが引退する原因になったと思われる、危険な存在……。
イシュルの表情が曇る。
「はい、そのことかと」
ネルが真剣な面持ちで頷いた。
「あれはほとんど魔法が効かないと思います。わたしたち精霊にはさほど害がない筈ですが、人間には効力を発揮するでしょう」
ネルは「剣さまが調べていたとおりです」と続けた。
……これは。
イシュルは瞠目してネルの顔を見つめた。
レーリアは間違いなくそれにやられたのだ。
「……背神の欠片、か」
どうせ風の精霊にマレフィオアや神の呪いのことを聞いても、まともに答えてくれないだろうと決めつけていたが、ネルの発言にはなかなか重要なことが含まれていた。
それは“背神の欠片”という呼び名、そしてやつの呪いに“魔法が効かない”の二点だ。やはりマレフィオアを完全に滅ぼすには、風の剣のような業(わざ)が必要なのだ。
イシュルは精霊から視線を逸らし、陽が落ちてすっかり暗くなった林間に視線を漂わせた。
一瞬闇の中に、何かが蠢めく錯覚に捕らわれた。
イシュルはその後、ルカスとネルの両者にいつものごとく自身の身辺と部隊の護衛、周辺の見張りを命令すると、森の中を出てアゴニャ村に向かった。
木々の間を抜けて畑に出るとすぐ、王家の“髭”の男がひとり、イシュルに向かって跪いていた。エバンではない。討伐隊の荷運び役をやっていた一人だ。
「ランデルさまがお呼びです。……いかがしました?」
「例の賞金稼ぎのパーティが接触してきた」
イシュルは森の中でセグローたちと話したことを説明した。
「もうカナバルも近い、やつらは俺たちの動きを知りたかったんだろう」
「なるほど……」
だが彼らにこちらの作戦は話していない。カナバルに到着後すぐバシリアに面会を求め、今は盗賊団の根城になっている領主館に乗り込む。その場でバシリアを捕らえ、刃向う者を排除、速やかに館全体を制圧する──というのが大まかな作戦だが、彼らに教えれば敵側に漏れる可能性があり、具体的なことは何も話せなかった。
「俺がやつらと会ったことはエバンにも話しておいてくれ」
「わかりました」
男は低い声で頷くと、イシュルに屋敷に戻るよう促した。
「イシュルさん、早く早く」
敷地に入るとロミールが館の前で待っていた。
討伐隊一行の宿舎に当てられたのは、村の北側に築かれた岩壁のすぐ内側に設けられた小城のような建物で、村を治める豪族がふだんは別館として使用していた。
「もうはじまっていますよ」
イシュルたち一行は夕食前に、その館の主にカナバルや穴蔵団についての話を聞くことになっていた。
ロミールに案内され別館の一番大きな部屋、晩餐室に入ると、中には隊長のフリッド以下、マーヤら魔導師が全て顔を揃えていた。リリーナやミラ、シャルカの姿もあった。
室内は武骨な外観と比べ、貴族の館と変わらない落ち着いた内装になっていた。木板と洋漆喰の壁に幾何学模様のレリーフのある天井、食卓も十人以上座れる重厚なものだった。
討伐隊の者はみな席に着き、下座の方に直立するまだ二十代くらいの男に注目していた。
若い男は緊張した面持ちで、ちょうどカナバルの領主館について話をしていた。
その男の斜めうしろに椅子に座った老人がいた。
どうやら若い男がこの村の主(あるじ)で、後ろに座る老人は彼の祖父か、後見の者らしかった。
「──というわけで、カナバル館(やかた)はここら一帯ではもっとも大きく、城、と称してもいいかと思います」
男は喉を鳴らすと、食卓に座る面々を不安そうな顔で見回した。
「な、何かご質問は」
男の声は幾分震えている。
「バシリアについての話はもう?」
イシュルは横に立つエバンに小声で聞いた。
「はい、一応は」
エバンも小声で答えてくる。
イシュルは食卓の空いた椅子には座らず、壁際に立っていたエバンの横に並んでいた。
バシリアがどんな人物か、彼女の持つ魔法具もセグローからの手紙で、基本的な情報は得ている。
ただ、バシリアの持つ魔法具でわかっているのは毒味と隠れ身、それに火系統の魔法具だけで、他にどんな魔法具を持っていのるか、それだけなのか、はっきりわかっていなかった。それはセグローたちも知らなかった。
「盗賊団の頭目、バシリアの街の住民の評判はどうだ?」
イシュルは一歩前に出て、男に質問した。
「えっ……」
思わぬ方向から声がして、男がイシュルの立つ方へ顔を向ける。
「おっ、イシュル殿」
食卓の方から、イシュルの入室に気づかなかったらしい、ディマルス・ベニトの小さな声が聞こえた。
「そ、それは……。あまり、良くないんじゃないか」
若い領主はどんな口を聞けばいいのか一瞬戸惑ったが、イシュルをそれほど身分の高い者ではないと判断したか、口調をあらためて答えた。
「そうか」
イシュルは短く答えて薄く笑った。
……バシリアがカナバルの街の者に恐れられ、一部の者からは蛇蝎のごとく嫌われているのはわかっている。
だが、これだけは他の者からも確認しておきたかった。
バシリアを排除し、代わりに住民寄りの者を立てれば騒ぎもすぐにおさまり、街の住民の支持も得やすいだろう。このことは重要だ。その読みを確実なものにしたかった。
「穴蔵団の連中は皆、仲がいいのか? 諍いは? 派閥争いとかはあるのか」
これもセグローたちから情報を得ているが、聞いておきたかったことだ。
「ちょっとした喧嘩ならいつもさ。派閥とかは知らん」
男はいかにも係わりたくない、といった様子で答えた。
「……」
イシュルは笑みを浮かべたまま、無言で頷いた。
それでアゴニャ村の領主による説明会は終わりを告げた。
同じ部屋で夕食をとった後、フリッドはエバンに人払いを命じ、イシュルはネルに室外に音が漏れないよう、簡単な風の結界を張るようにお願いした。
「では穴蔵団討伐の確認をしようか」
フリッドは食卓に座す一同を見回し、不敵な笑みを浮かべて言った。
翌日、討伐隊は昼を回ってからアゴニャ村を出発、同日夕刻には最後の宿泊地となるガナーシュ村に到着した。
フリッドは村を治める小領主の歓待もそこそこに、晩餐会の申し出を謝絶し、一行は早々に眠りについた。翌日は夜明け前に同村を出発した。
不自然な部隊の行動は、カナバル到着の時刻が昼前後となるよう調整したためだった。
カナバルに到着後すぐ、穴蔵団のバシリアに面会を申し込む使者を差し向けることになっていた。
山間を抜け、道がよくなっても中盆地の村々に馬は少なく、一行は徒歩のままだったが、食糧そのほかの買い付けもうまくいき、休息もとれて部隊の者たちはいよいよ意気軒昂、戦意も旺盛だった。
「いよいよですわね、イシュルさま」
馬車も余裕で通行できるしっかりした道が、草原と木々の間を緩やかに曲がって丘の向こうに消えている。
「そうだな」
ミラはにこにこと機嫌よく、イシュルは苦笑して相槌を打った。
「♪〜」
後ろではリフィアが鼻歌を口ずさんでいる。
前を歩くマーヤの足取りも心なしか軽い。
イシュルは笑みを消すとカナバルの方、叢林の向こうの空を見つめた。
……こちらの狙いどおりにいけば、今日中には片がつくだろう。
相手は盗賊団である。つまりは悪者を懲らしめる戦いとなる。連合王国との戦争のように差し迫った状況ではないし、懲悪に思う存分暴れられる。油断すれば危うい場面もあるだろうが、難敵というほどではない。
だからみな、浮き浮きとしているのである。宮仕えの彼らにとってはまたとない冒険な上、行く手にはいかにもそれらしい戦いが待っている。
昨日、イシュルがセグローたちとガナーシュ村近くの森で会ったことをマーヤやリフィアたちに話すと、リフィアは「なぜわたしをその場に呼ばなかったのか」と文句を言ってきた。
彼女はバストル救出の依頼達成にやる気満々だった。大貴族のリフィアにとって賞金稼ぎの仕事は、彼女の冒険心を刺激するまたとないイベントだった。
「……だが、油断は禁物なのだ」
イシュルは誰にも聞こえないよう呟いた。
女盗賊の長(おさ)、バシリアに囚われた彼女の腹違いの弟バストル。そして目的地は太古の昔に荒神バルタルを祀った地下神殿だ。
このある意味ばかばかしい、語呂合わせのような言葉の一致は何を意味するのか。
神々は、月神はおそらく人間ごときの名前などに、関心や興味の一片も抱いていないのだろう。
だから似たような固有名詞ばかりが並ぶことになったのではないか。
もし今日、これからのことにレーリアが動くとしたら、油断するなどとんでもないことなのだ。
イシュルは歩きながら右の拳を、力を込めて握りしめた。
道端で早めの昼食をとるとイシュルはフリッドに断りを入れて空に上がった。
おおよそ二里長(スカール、約1,300m)ほどの高度まで上昇すると、南西の方角をつぶさに観察した。
その先にはもうしっかり、カナバルの街が見えた。
木々や草原に囲まれた丘の上に、石壁か土壁か、四囲を壁に囲まれた小さな城塞都市が見える。
その西側には小集落が散在し、間には牧草地や畑地が広がっていた。さらに奥の遠方には大小の複数の湖や池が見えた。
そしてすぐ手前、カナバルの街から一里長ほどの距離に、明るい灰色の遺跡のようなものが広がっていた。
……多分あれが、かつて地下神殿の入り口のあった場所だろう。
ただ今はあそこから地下には降りられない。出入り口は土砂で埋まり、内部の通路も崩落して通行は不可能だと聞いている。
「確かそれほど離れていないところに、地下神殿につながる洞窟があるはずだが……」
「それはあそこです、剣さま」
イシュルがひとり呟くと、ネルが薄く姿を現して指差した。
よく見ると、遺跡から南西に三里長ほど離れた叢林の中に、木造の櫓のようなものが垣間見えた。
……櫓があるということは、その洞窟は縦穴なのだろうか。
風の魔力を使えば、この距離でも洞窟の地上に近い、浅い部分の構造は知ることができる。
だが今は、大きな魔力は使わない方がいいだろう。カナバルの街も近い。バシリアをはじめ、穴蔵団の魔法使いに気取られるかもしれない。
「ふふ、あの穴の奥に潜む化け物と戦うわけか。楽しみだ」
ルカスも薄く、姿を現した。
「あの街を仕切る盗賊団を潰すのが先だ。手筈どおりにな」
イシュルはカナバルの方へ顎をしゃくって言った。
「かしこまりました」
「了解」
ネルとルカスはほとんど魔力も出さず、さっと姿を消した。
ふたりには、盗賊団制圧時の指示をもう出してある。
イシュルは一通り周囲を偵察すると地上に降りていった。
討伐隊は、やがてカナバルを間近に望むところまで歩を進めた。
一行はカナバルの街に直行せず、まず地下神殿の出入り口のあった遺跡に向かうことになっている。そこで現地を検分しながらバシリア宛に使者を出すことになっていた。
「おい、あれは」
遺跡に向かっていたイシュルたちの中で、最初に気づいたのはリフィアだった。
「人がいるぞ」
リフィアの指差す方を追うと、遺跡の前にひとが二人、立っているのが見えた。
「……」
部隊の全員に、微かに緊張が走った。
「あれは……、穴蔵団の者たちか」
フリッドの呟く声が、後ろにいるイシュルの許まで聞こえてくる。
……やつらはこちらに見張りをつけていたのか。いや、それならネルたちや勘のいいリフィア、髭の連中も気づくだろう。
おそらく、街の高所からこちらの動きを観察していたのだろう。
「ラディス王家の方々ですな」
遺跡に近づくと、二人の男も討伐隊の方へ歩き出した。
片方の紺色の上着の男がわざとらしく腰を下げ、イシュルたちに声をかけてきた。
「ようこそおいでくださいました」
男の口角が微かに歪む。
「どうか我らの館までお越しください。領主のバシリアがご挨拶をしたいと申しております」
そして最後に付け加えて言った。
「皆さまお揃いでどうぞ」
「……」
ほんの一瞬、イシュルはそばにいたリフィア、ミラ、マーヤと素早く視線を交わした。
笑いがこみ上げてくるのを、ぐっと堪える。
……こいつら。
イシュルは眸を細めて紺の上着の男を見つめた。
バシリアも、俺たちと同じことを考えていたのだ。
相手を一気に、ひとまとめに片付けてしまおうと。一網打尽にしようと。
イシュルは横に、丘上に佇むカナバルの街に視線を向けた。
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