野薔薇


 

 ゾーラを出発して二日目。

 イシュルは今、空の荷馬車の荷台に乗っている。両膝を立てて、両膝を両腕で抱え込みこじんまりと座っている。がたがたと荷車の車輪がまわる振動が、絶えることなくひびいてくる。

 ちらりと横を見ると、向かいにリフィアのお付きのメイド陣、三人娘がイシュルと同じ格好で座っている。

 三人娘は向かって一番右からマリカ、ラドミラ、ヨアナ。マリカとラドミラは二十歳前くらいの少しおねえさん、ヨアナはまだ見習いなのかイシュルより三、四歳くらい年下で、まだ子どもっぽい幼さが少し残っている感じだ。

 年上のふたりは剣帯からはずした細身の長剣を膝元に引き寄せ、年下のヨアナは吊るしているのが短剣だったので、剣帯からはずずことなくそのまま座っている。年上のふたり、マリカとラドミラは所持する剣とその物腰から、多少の剣の心得があるようだ。

 三人とも、イシュルに対してここ一日半ほどでだいぶ打ち解けてきた。出発時、リフィアからメイドたちと同じ荷馬車に乗れと命じられた時、イシュルはこの先どうなることかと危惧したが、最初こそ、それこそ親の仇を見るような憎悪と嫌悪に満ちた視線を向けられ、互いに漂う空気も緊張し険悪なものであったものの、意外にも案外に早く彼女らの敵意を解くことに成功した。

 同じ荷台に乗り、間近でイシュルの表情や仕草、口ぶりに接し、イシュルが賞金稼ぎとはいってもただの荒くれ者ではなく、賞金稼ぎやハンターの中で数は少ないものの、時々目にする没落貴族や破産した富商の家の出身者ではないかと、彼女たちが勝手に見当をつけたことと、そして何よりも、リフィアがイシュルを側に置くのを諦めメイドたちの荷馬車に同乗せたことで、隊列の先頭を行く彼女との接触がなくなったのが良かったのかもしれない。

 決定的なことは、夕方になり、ベーネルス川の支流のほとりで出発一日目の野営となったときに、荷台をいち早く降りたイシュルが、一番若年のヨアナに手を差し伸べ抱えて降ろしたことだった。

 ヨアナは最初、まだ自身に残っていた敵意や不信、恥ずかしさからイシュルの手をとろうとしなかったが、イシュルに笑顔で「さぁ、恐がることはないから。ね? 手をとって?」と催促されて、逡巡しながらも結局はイシュルの手をとり、からだを預けたのだった。

 王国をはじめ大陸の国々では特にレディーファーストのような風習はない。誰もが気遣う妊婦や老人をのぞくと、男性が女性に気をつかうのは自分の恋人か妻、母親くらいだ。よその女性なら気遣う以前に、気安く話しかけたりしない。

 ということで、彼が若く、その童顔な外見も良かったのか、育ちが良さそうに見られたからなのか、彼女らに直接触れることであっても不審に思われることはなく、イシュルの行動は気の効いた思いやりのある行為、と彼女らに受け取られた。

 結局年長のマリカやラドミラもイシュルの手を借りて荷台から降りた。

 食事も就寝も彼女らを通じてリフィアに断わりを入れ、同じように荷馬車に乗っていた領民たちとともにした。彼らの半数近くは辺境伯軍に雇われたのではなく、アルヴァへ出るのに副団長に同行を申し出て許された、フゴの住民たちだった。

 これでゾーラを出発してからはリフィアと接触することもなくなり、何か過激な行動をとるのではとイシュルの方で警戒していたメイドたちともそれなりに打ち解けて、イシュルには非常に好都合な展開となった。

 一方リフィアの方は不満を募らせ、とても機嫌が悪くなっているのか、騎士団の者たちに囲まれたその合間から、ちらちらとイシュルに向けてくる視線に殺気のようなものが混じりはじめていたが、イシュルはそれをあえて無視した。

 ああいう時は目が合うと危険だ。どんないちゃもんをつけられるかわかったもんじゃない。

 あの状態のリフィアだと、「おまえは馬に乗ってわたしの横に来い。何か面白い話でも聞かせろ」などと、他人行儀に扱えとお願いして了承させたことも、平気で反故にしかねない。

 リフィアがやきもきしていらいらを募らせるのは周囲の者にとっては災難だが、彼女のそれは多分に陽性だ。彼女を護衛する騎士団の連中は、そんなご機嫌ななめな姫君のお相手をするのも役目のうちなのだし、こちらで気にかける必要はないだろう。

 それよりも彼女とまた何らかの状況でふたりきりになり、あのしっとりと重く甘い感じになることこそ避けなければなならない。あんなこと、次は抗しきれる自信はない。

 俺もリフィアも、これ以上ふたりの距離が近づくのは避けた方がいいのだ。でないと、この後に待ち受ける悲劇がより大きなものになってしまうのではないか。特にリフィアにとっては……。もう手遅れかもしれない、今さら彼女を避けるなど無意味なことかもしれないが。

 クシムの山頂で彼女に語ったこと、クシム銀山を復興し、戦死者とその遺族に償うという使命が、今の彼女のささえになっているのは確かだ。クシムの敗戦で絶望に落ちた彼女が、いち早く立ち直ったように見えるのもそのことがささえになっているからだろう。俺が復讐を果たした後も、それが彼女の心をささえ、生きていく目標になってくれれば。それを祈るしかない。

 もし、彼女の明るさが俺といっしょにいたから、俺自身が彼女のささえになっていったのだとしたら。

 それこそ自意識過剰だ、思い上がりというものだが、もしそれが真実ならどうだろう。

 その想像は恐怖そのものではないか。そう考えるのは今の自分にとってあまりに恐ろしいことだ。

 イシュルたちの乗る荷馬車は、車列の先頭を行く十騎あまりの騎馬隊のすぐ後ろについている。リフィアを世話するメイドたちが乗っているのだから、それは妥当な処置なのだろう。

 前方を窺うと、騎馬の列が続くその先に、御者の肩越しに先頭を行くリフィアの長い銀髪が風に舞い、ほのかに煌めくのが垣間見えた。

  

 イシュルは出発前、副団長につかまり、その後リフィアとふたりきりになり、辺境伯と連絡をとろうとする影働きの者がいないか、監視するために精霊を召還する時間がとれなかった。結局、出発初日の野営地で、夕食後に近くの雑木林に足を踏み入れ、人目のないところで精霊を呼んだ。

「……。今晩は」

 イシュルは召還した精霊を見て一瞬言葉を失い、表情を取り繕うのに苦労した。

 あたりは木々が繁り、月も星々の光も届かず真っ暗闇だ。木々の間、イシュルの来た方からは野営している兵らのざわめきが微かに聞こえてくる。

 彼女には夜の林間の暗さなどなんでもないだろう。俺の顔だってはっきり見えてる筈だ。

「これはきっと運命ね。かわいいかわいい剣さま」

 イシュルの前に、精霊が白く輝く半透明の姿で浮いている。ナヤルルシュクがねっとりとした視線を向けてきた。

 はは。リフィアの恨みがましい視線など、いったいどうしたというのか。

 イシュルは覚悟を決めて、妖艶な微笑みを浮かべ、とても機嫌が良さげな精霊に話しかけた。

「どうしてまた?」

「そろそろ帰ろうかと思ったらお呼びがかかったの」

 ナヤルは少し首を傾けにっこり笑った。

「あ、な、た、から」

 ぶるっときた。思わず身が震える。

 ……ともかく、それはちょっとおかしくないだろうか? 日が合わないんじゃないか? 

 彼女を召還してからもう数日経っている。精霊ならゾーラからフゴまで一日とかからないだろう。一旦精霊界を経由して、なんてことができるのならワープするようなものだ。それなら一瞬だろう。まぁ、一度こちら側に召還されているから、そういうことは出来ないんだろうが。

「頼んだ手紙、マーヤに渡せました?」

「もちろん。いろいろしゃべりかけてきたから、少しだけお話してあげたわ」

「えっ? 精霊は召還した者か契約した者以外、人間の言葉で意思疎通はできないのでは?」

「そうね。でも自分の意志で人の世界に降りて来た者は、その気になれば誰とでも会話できるわ。わたしほどの精霊であれば、たとえあなたに召還された状態であっても問題ないの」

 ふむ。狐や狸ではないが、人間を化かしたり悪戯する精霊の話は昔から数多く存在する。その話の中では人と精霊たちはよく会話している。人と話ができなければ化かす方法も限られて、彼らにとってもつまらないだろう。そしてナヤルは召還による制約の影響は受けない、と言った。高位の精霊は、召還者以外の人間とも意志の疎通ができるのだ。

「なるほど。それで彼女は何と?」

 イシュルが質問すると、ナヤルルシュクは目を細めて笑みをつくり言った。

「イシュルは大丈夫か、怪我はないか、って。それはそれはとても心配してたわ」

「そうですか……」

「あなたの手紙を読み終わると、ちょっと機嫌が悪くなって怒ってたわよ。あなたが今どこにいるか教えてくれ、って言われたけど」

 げっ。

「もちろんそれは教えなかったけど」

 よかった。

「それに、すぐにフゴに戻るよう伝えてほしい、とも頼まれたけど」

 彼女は余裕の表情で言った。

「それも断ったわ。あなたごときがわたしに頼みごとをするの? って」

 それはマーヤも可哀想に。

 でもマーヤ、おまえの伝言はこれでしっかり俺に伝わったよ。戻らないけどな。 

「それは助かった。でも、そんなこと言って彼女は恐がらなかった?」

「大丈夫よ。やさしく言ってあげたつもりよ」

 ナヤルはつん、と顔をそらして言った。 

 本当だろうか。

「それはそうと、マーヤに俺の手紙を渡すのに随分と時間がかかったんじゃないですか? まだこちらの世界にいたなんて」

「あら。あの後、夜が明けたちょっと後には渡したわよ」

 ナヤルがイシュルを遮って言ってきた。

「ん? じゃあその後、何してたの?」

「それは」

 精霊はその笑みから妖しい色気を消して言った。

「あの生意気な火龍と、あなたが戦った場所を見に行ってたの」

 なるほど。生意気な火龍、ね。誰かさんも同じようなこと言ってたな。

「わざわざ見に行ったんだ、ナヤルが?」

「そうね。……それより、そろそろ本題に入りましょうか」

 ナヤルルシュクが話を逸らしてきた。彼女らしくない、真面目で固い口調だ。

 彼女がわざわざクシムまで行き、話を逸らしてきた理由……。

 あの時現れた、おそらく主神ヘレスと、何か関係があるのではないか。

 ナヤルも大精霊、と呼べるような存在なのだろう。イヴェダの側近くに仕えている、と言っていたのだから。

 赤帝龍が火の魔法具を持っていたから。やつが火神の結界魔法を使ったから、神の魔法具を持つ者どうしが戦ったから。

 それだけで大精霊のような存在が、召還され人界に降りてきたついでとはいえ、わざわざ現地まで見に行ったりするものなんだろうか。しかも戦いの終わった後に。それにヘレスの出現と関係ないのなら、向こうでカルリルトスに聞けばわかる話だ。

「……ついでよ。あくまでついで」

 彼女は笑みを大きくした。

 話を逸らすのなら、なぜクシムに行ったことを俺にしゃべったのか。

「さ、今度はわたしに何をしてほしいの? 坊や」

 ナヤルの声が低くなる。

 彼女の笑みは色気など微塵もない、恐ろしいものだった。


 ナヤルと話し合い検討した結果、アルヴァへ向かう影働きの者を監視するのは夜間の二日間、アルヴァへ帰還する輜重隊とアルヴァの手前の間の街道とその周辺、と決まった。もし怪しい者がいたら、ナヤルが迷いの魔法で反対方向、つまりクシムやフゴの方へ数日間誘導することになった。これはイシュルもナヤルも、その怪しい者が辺境伯の手の者だと断定することができないため、ただ怪しい、というだけで始末するのはまずかろう、ということになったためだ。

 監視する時間を夜間に絞ったのは、日中は街道を護衛をつけた行商や、地元の領民、フゴへ向かうハンターのパーティなども行き交うわけで、まったく関係のない者を巻き込むわけにはいかないし、彼らまで道に迷わすと事が大きくなって、辺境伯領内で大きな問題になりかねない、とイシュルが考えたからだった。

 つまり、辺境伯の手の者が、地元の農民や行商に変装して日中に行動していたら、イシュルの監視の手からこぼれ落ちることになってしまう。

 日中にしろ夜間にしろ、怪しい者を手当たり次第に捕らえて尋問することなど、イシュルひとりでできるものではない。本来は組織で、プロが集団で事にあたるようなことを、彼ひとりでこなすにはどうしても限界があった。アルヴァへ移動する間と辺境伯がノストールから戻ってくる間、夜も眠らず監視し続けることなどできるわけがないし、イシュルにもナヤルにも、こいつが辺境伯家の手の者、と確実に見分ける方法など持ってはいない。

 ナヤルルシュクが、「また小間使いね。次はたっぷり、わたしの用事にもつきあってもらうから」と、恐ろしい捨て台詞を残して夜の闇に消えた後、イシュルは力なく肩を落とした。

 仕方がない。ひとりではやれないことだってある。

 リフィアとのこと。ゾーラ村での面倒事、辺境伯誅殺のためのあれこれ。 

 風の魔法具の力を得、赤帝龍と戦い神々の外貌に触れ、魔法を使う経験を積み重ねようとも、イシュルひとりではどうにもならない、できないことはたくさんあるのだった。




 明日にはアルヴァに到着する最後の晩、ちょっとした騒動があった。

 街道沿いに近くを小川が流れるところで野営となった夕食後、目の前の街道を十騎あまりの騎馬の集団が通り抜けようとして、輜重隊の見張りの兵らに止められた。

 複数の馬の嘶き、乱れた蹄の音。緊張した叫び声が行き交い、街道の方へ辺境伯家の騎士らが集まりはじめている。

「何かあったのかな」 

 イシュルといっしょに焚き火にあたっていた若い男が立ち上がって言った。隣に座っている男の妻も不安そうな顔を街道に向けている。

 彼らはアルヴァへ出稼ぎに出ようとしている若い夫婦で、輜重隊といっしょに同行を求め許可されたフゴの領民だった。イシュルはここ二日ほどで彼らと知り合いになり、焚き火を囲んで輜重隊から配られる夕食をともにしていた。

 その時イシュルたちは、輜重隊のテントが幾つか張られた街道沿いから少し奥まった野原にいた。

「何ですかね」

 イシュルも立ち上がり、焚き火の明かりから少し離れるようにして街道の方へ近づいていった。

 その足が止まる。テントのひとつからリフィアが姿を現した。人びとが集り騒ぎが起きている方へ足早に歩いていく。人の群れから副団長が戻って来てリフィアと何か話すと、ふたりとも集団の中に入って行った。

 しばらく経つとその集団から人びとが散りはじめ、最後はリフィアと黒ずくめの男が互いに向かい合い、ふたりの周りにはリフィア側からは少し離れて副団長、黒ずくめの方は同じく少し離れた後の方にローブを着、フードを降ろした者がふたり、いるだけになった。

 テントの傍や街道沿いに焚かれた篝火のちらちらと瞬く炎が、彼らの姿を暗闇から波打つように浮き上がらせている。

 リフィアと立ち話をしていた黒ずくめの男がふいにイシュルの方に顔を向けた。夜闇にその顔が浮かびあがる。

 イシュルは目を見はった。男はフロンテーラで大公に会った時に、大公の護衛についていた黒ずくめの魔導師、ドミル・フルシークその人だった。

 イシュルはさらに焚き火の明かりから離れ、暗闇に息をひそめた。

 大公の出した使者か? リフィアに? それともフゴへ向かおうとしているのか。

 おそらくフゴ、クシムへ行こうとしているのだろう。リフィアや辺境伯家に用があるならアルヴァに留まる筈だ。それとも一日でも早く彼女に知らせなければならない、火急の用件ができたのだろうか。

 ふたりは何事か、その場でしばらくのあいだ話を続け、やがて黒ずくめのドミル・フルシークが背を向けると、意外なことに、リフィアの方が彼に向かって跪いた。

 ドミルは自分の馬の方へ歩いていく。

 間違いない。ドミルは大公の、つまり王家の使者、いや、命令で動いているのだ。

 イシュルは焚き火の方へそろそろと戻っていった。

「何かあったんでしょうか」

 イシュルが焚き火の前に腰を下ろすと、夫の方が声をかけてきた。

「さあ。リフィアさまが黒い男の方に跪いて挨拶していたから、あの騎馬の人たちは王家の御使者か何かですね」

「そうですか。またクシムの方で何かあったんでしょうか? 赤帝龍は姫さまと王家の魔導師に負けて山奥に逃げて行った、という噂が流れてみな喜んでいたんですが」

 男は妻の方へ顔を向けて言った。

「心配だなぁ」

「……ええ」

 ふたりは赤帝龍がまた戻ってきたのではないかと怯えているのだ。

「赤帝龍はだいぶ痛い目に合わされたみたいだから、しばらくはでてきませんよ」

 イシュルはふたりを安心させると、独り言のように呟いた。

「クシムへ戦(いくさ)の検分にいくんじゃないかな。あの人たちは」


 その後、イシュルはふたりに、これからはクシム銀山の復興で、クシムやフゴに金やひとが集り景気がよくなるから、時期を見て早めにアルヴァから引き上げてもいいかもしれない、などと語った。

「これからは暮らし向きも良くなりますよ。かならず」

「そうなるといいなぁ」

「ね、あなた」

 ふたりに笑顔が戻って、イシュルも笑顔を浮かべて頷いた時だった。

 背後の森の方から、何かが近づいてくる気配がする。

 イシュルは視線を遠くにやって、夜空のあらぬ方を見た。

 何もない空間にちらちらと流れ落ち、走る光芒。これはあの紫尖晶の女と同じ、隠し身の魔法ではないか。

 イシュルは夜空に視線を向けたが、夜空を見ていたわけではなかった。

「ちょっと、用を足してきます」

 イシュルは立ち上がってふたりに声をかけると、背後の森の中に入って行った。

 足許の草を踏みつけ、木々の間をゆっくりと進んでいく。 

 光の筋がちらちらと閃く先、それは森の中をこちらの方へ突き進んでくる。

 早くも遅くもなく、森の中をきれいな曲線を描いて、イシュルの方へ確たる足どりで向かってくる。紫尖晶の女とも、森の木々をなぎ倒し一直線に突き進んできたリフィアとも違う、揺るぎのない非常に安定した動きだ。とても森の中を移動しているようには思われない。

 まさか隠し身の魔法具だけでなく、力の魔法具も使っているのか。

 だがそれはおかしい。フロンテーラの魔法具屋の老婆は、隠し身の魔法は意志的な動き、あるいは早く激しい動きをすれば効かなくなる、と言っていた。

 確かに隠し身の魔法が完全に働いている状態ではないようにも感じるが、武神の魔法具などと併用すれば、一発でその効力は失われる筈ではないか。

 イシュルは相手に向かって、かるく風のアシストをつけると高速で移動しはじめた。

 木々の幹を避け、草を踏み分け森の奥へと進んでいく。目の前を左右に流れ去る草木の気配、その奥に目標がいきなり姿を現した。相手も途中から足を早めたのか、あっという間だった。暗闇の中を、さらに深く黒く渦を巻くベール。それが一瞬で取り払われ、男の左のガントレットに吸い込まれる。

 イシュルの背筋を冷たい衝撃が走った。

 あれはルドル村で襲ってきた、紫尖晶の女の妹だとかいう者が放ってきた黒いものと同じ……。

 あんな使い方もできるのか。いや、あの女が放ってきた“悪霊”とは少し違うものかもしれない。暗闇に隠し身の魔法と同じ効力を発揮する、“悪霊”と似たもの。おそらく他の能力も併せもっているのではないか。

 そして最も恐ろしいこと、それはあの黒いベールはおそらく他の魔法具との同時使用が可能なのだ。つまり姿を隠したまま攻撃動作を行える、攻撃魔法が使える、ということだ。

「やあ。さすがだな、少年。わたしの気配を感じとるとは」

 低く、ざらざらした声音。

 暗闇の中で、ドミル・フルシークが笑みを浮かべるのがわかった。

 この男はあの時、街道から少し離れた暗がりに佇む俺を、目ざとく見つけだしたのだ。

 そしてリフィアたちと別れた後、しばらく街道を先に進み、途中で同行する他の者を待たせ、ひとり森の中に入り迂回して、辺境伯家側に知られぬようにしてこちらに接触してきた。

 男の頭上、空中に小さな火の玉が灯る。巌のような、しかし同時に鋭利な印象の、大公に面会した時のあの男の顔が浮かび上がった。

 こいつ……火の魔法も使えるのか。

 イシュルは思わず身を引き締めた。

 荒神バルタルの魔法具をもって悪霊らしきものを使役し、武神の魔法、火の魔法も遣う。そのどれもが扱いに熟練した印象を受ける。

 さすが大公付きの魔導師。相当な遣い手だ。

「ふふ、何も恐れることはあるまい。恐がるのならそれはむしろ、貴公よりわたしの方だと思うが?」

 イシュルは無言でドミルを見つめた。

 自分の顔に露骨な恐怖の感情は出ていない筈だ。

 こいつはこの明るさでも、こちらの身構えた、からだの小さな動きを見逃さなかった。

 男はいつぞやのように片方の眉をくいっと上げると、笑みを浮かべ話を続けた。

「そういえば失礼した。わたしはまだ貴公に名乗っていなかったな。わたしの名は……」

「知っていますよ。フルシーク卿」

 イシュルはドミルの言にかぶせるように言った。

「ふむ、……そうか」

 男の浮かべた笑みが僅かに深くなる。

 ドミル・フルシークは名乗ることも、自分の名をどうしてイシュルが知っているのか、そのことにも一切の拘りを見せず、触れることもなく本題に入ってきた。

「我々は今、クシムの検分のためにフゴに向かっているところだ。ちょうどアルヴァでエーレン殿の遣わした早馬とかち合ってな。主(あるじ)宛の書簡を読ませてもらった」

 やはりか。俺と赤帝龍の戦った現場、リフィアたちが起こした山崩れなど、銀山とその周辺の被害状況を実地に確認しに来たのだ。当然の処置だろう。確かにマーヤだけでは心もとない。

 しかしまさか、マーヤの大公宛の書簡を開封したのか? そんなことができるのか。この男は。

「うむ。此度の件、わたしは主よりすべてまかされている」

 イシュルのいぶかる表情を察したのか、ドミルが説明してきた。

「いや、ここで貴公に会えたのは僥倖だった。エーレン殿によれば君は見事、赤帝龍を撃退したそうじゃないか。辺境伯家だけではない、これは王家にとっても大変喜ばしいことだ。君は王国史に残る偉業を成し遂げたのだ」

 ドミルの視線がイシュルのからだを上下する。

「赤帝龍は大きな傷を受け、息も絶え絶えに山奥に逃げて行ったということだが、貴公はたいした怪我も負っていないようだ。辺境伯軍は御息女殿をのぞいて全滅したというのに、いや、まったく恐れいった」

 イシュルは無言をつらぬく。

「そして君は今、どういうわけかアルヴァに帰還する辺境伯軍の部隊と行動をともにしている。御息女殿から、クシムの山でアレクなる賞金稼ぎに助けてもらった、と先ほどうかがったが、アレクとは誰のことかね?」

 ドミルの唇がつり上がる。

 この男も知っているわけだ。俺のやろうとしていることも、大公との密約も。

 無表情を装っていたイシュルがはじめて笑みを浮かべた。

「いや、そのことは我々のあずかり知らぬところだ。君から聞きたいことは何もない。誤解しないでいただきたい」

 ドミルはいささかも慌てる風もなく、手当をしてきた。片手をあげて掌を見せてくる。

 そうだ。今は軽々しい態度をとるべきではないだろう。

 おまえの知りたいことはそんなことじゃないだろう。他にあるんじゃないか?

「……赤帝龍のことだが、貴公の見立てではどうかね? あれはまた、クシムに姿を現すだろうか? それはいつごろだろうか」

 ドミルは赤帝龍との戦いについて質問してきた。確かにマーヤの報告だけでは不足だろう。彼は俺と会ったことを僥倖だ、と言った。当然、俺自身から直接話を聞きたかったろう。

 だがな。

「エーレン殿の手紙を読んだんでしょ? 彼女が書いた以上のことは……」

 ドミルの質問には、俺だってはっきりとは答えられない。

 赤帝龍が去っていったことにはおそらく主神ヘレスが関わっている。やつは自力で空を飛べる状態でなかった筈だ。ほっておけば、そのまま死んでしまってもおかしくないほどの打撃を受けていた。ヘレスは助けてやるから、最低限空を飛べるようにはしてやるから、今は巣に帰れ、と赤帝龍を諭したのではないだろうか。やつもヘレスにそう言われれば従わざるを得なかったろう。

 だが、これは俺の想像で何の確証もあることではない。ヘレスと赤帝龍の間でどんな会話があったのか、何もなかったのか。例えば「おまえを助けてやるから、二度と人の住む地に出て来るな」とヘレスが言ったとしたら、やつは今後も人里に姿を現すことはないだろう。そうでなければやつは傷が癒えればかならずまた人里まで降りてくるだろう。

「俺にもわからないですね、まったく」

 大怪我を負った龍が、どれほどの期間で全治するのか。そしてやつが俺をどれほど恐れているのか。

 そこら辺がわからないと、何も確かなことは言えない。

「やつがまた人里に現れたら、そこがクシムであろうとどこであろうと、かならず駆けつけますよ」

 ドミルはにやりとした。

「ふふ、頼もしい発言だ。それで、貴公はやつにどんな魔法を使ったのかね? あれが逃げていくほどの魔法とはどんなものか」

 それは確かに知りたいだろう。ごもっともな質問だ。

 マーヤに書いた手紙には戦闘の簡単な概略しか書いていない。

「大精霊を召還しともに戦ったんです。エーレン殿も大公さま宛の手紙に書いている筈だ」

 あとは……。

 イシュルはにっこり笑って両手を広げて、

「あとは、どかーん、とやった、としか言えないですね」

 そしてイシュルは笑みをひっこめ、少し頭を傾けドミルの眸を覗き見るようにして言った。

「名のある既存の魔法は使ってないですよ」

「なるほどな。確かに尋常な魔法では勝負にもなるまい」

 ドミルはただ頷いた。イシュルから視線をはずさない。

 イシュルの返答には微かな皮肉と揶揄、自嘲が含まれていた。

 この男は俺がどれほど真面目に答えたのか、嘘か本当か推し測ろうとしている。

「俺も必死だったんであまり細かいことは憶えていないし、もし詳しく説明できたとしても、戦訓として活かせるもようなものではないと思いますよ」

 神の魔法具を持つ者どうしの戦いなど、一般の魔法使いの参考になるとは思えない。

「そうかもしれんな」

 ドミルはかるく肩を落とすと俯き加減になり、もう一度頷いた。

「それで、だ。もうひとつ君に聞きたい、聞かなければならぬ、大事なことがあるのだ」

 ドミルはまた姿勢をただし、イシュルの目をしっかりと見つめてきた。

 だがその声は随分と小さくなった。

 ドミルの眸が細くなる。

「まさか君は……、火の魔法具を手に入れてないだろうね?」

 ……来たか。

 この男が最も知りたいこと、大公に伝えたいことはこのことなのだ。

 ドミルは大公の側近、懐刀なのだ。大公の単なる護衛ではない。部将でもない。大公から知らされたか、この男も赤帝龍が火の魔法具を持つと考えている。知っている。

「そのことに関して答える前に、俺の質問に答えてくれませんか?」

 ドミルは腕を組んだ。両腕のガントレットが鈍く重い音をたてる。

「ふむ……、よかろう。何なりと」

「風、火ときたら、水と地、金の魔法具もあるんですよね? どうなんでしょうか」

 ドミルの唇が上に引き伸される。

 目の前の男から緊張した空気が漂ってくる。

 だが、それも一瞬、ドミルは歪んだ笑みを引っ込めるとすぐに真面目な顔つきになった。

 目の前に充満しつつあった緊張感が消えていく。

 確かにこの質問は俺がするのなら、危険なことなのもしれない。だが、この男は間違いなく王国の宮廷魔導師らの中心近くにいる者だ。今現在はフロンテーラにいるとしても、大公、王弟の側近くに仕える魔導師なのだ。ドミル・フルシークのような魔導師が王国にいったい何人いるだろう。彼が何も知らないのなら、この大陸で詳しく知る者はほとんどいないと考えてもいいのではないか。

 それならこの機会にぜひとも聞いておかなければならない。俺の方こそ僥倖、だったのだ。

「……それはわたしにもわからん。わたしの知る限り、水神や地神の魔法具が実在した記録はない筈だ。ウルク王国の大神官が今も生きていれば何事か知っていようが」

 ドミルが僅かに頭を傾け首を捻ってイシュルを見つめてきた。

 今はその顔にうっすらと笑みが浮かんでいる。

「聖堂教会の総神官長にでも聞いてみるしかないな」

「そうですか」

 収穫はなし、か。危ない橋を渡ったのに。

「貴公もねらっているのかな? 二つ目を」

 ドミルの視線に力が入る。頭上に浮かぶ火球から照らされた、目尻の皺が深い影をつくる。

「赤帝龍もお主の風の魔法具をねらっていたのではないか」

 イシュルは動揺が面に出ないよう、堪えた。

 辺りは、いや、ふたりの間には異様な緊張感が充満している。

 風の魔法具に火の魔法具、赤帝龍の行動……。確かにその事実にたどり着くのは容易かもしれない。

「赤帝龍を確実に斃すには、複数の神の魔法具が必要かもしれません」

 こちらも眸に力を込める。

「王家も残りの神の魔法具の在処を知らないのなら、探しはじめた方がいいと思いますよ。たとえこの世に存在しないものだとしても」

 ラディス王国でも、オルスト聖王国でも、彼らが先に見つけたのなら、ただそれを奪うだけだ。

 彼らに見つけさせるのも手ではないか。

 彼らが持っているのなら、俺が動けば彼らも動く。彼らが動けば俺も動く。

 赤帝龍が現れ、結果俺が動いたように。

「神の魔法具、か。……因果なものだ」

 ドミルが視線を弱め、はずした。ため息までついて見せる。

 あたりに張りつめていた重い空気が和らいでいく。

 因果? そんなことは俺が一番わかってる。

「俺は栄爵に、金も権力にも関心はありません、今も。ただ、力を持つことは必要になってきた」

 ドミルに伝わるだろうか。

 俺が王家の敵でも味方でもないことを。

「赤帝龍を斃すのもそうですが、どうしても知らなければならないことができた」

 だが、すべてを話すわけにはいかない。

「レーネと同じ道を歩むか」

 いや、あの老婆と同じにはならない。彼女にも神々が接触してきたかもしれない。彼女も他の神の魔法具を探して手に入れようとしていたかもしれない、それでも。

 イシュルは首を横に振った。

「森の魔女と俺が求めているものは違うと思います」

「……そうか。もし、イヴェダの剣の事績が知りたければ、王家の国史編纂室に詳しい記録が残っていよう。あるいは神々の魔法具に関することもわかるかもしれん」

 ドミルが険のとれた笑みを浮かべた。

 王家の編纂室か……。

「姫君が貴公のことをいたく心配されているようだ。大公さまがこぼしておられた」

 ん? 姫君って、ペトラのことか。なぜいきなり。

「王家に仕えれば、貴公なら王家の書庫や編纂室への入室も認められよう」




 俺は王家の敵でも味方でもない。この先、味方どころか敵にまわることだってあるかもしれない。だが、王国にはベルシュ村があり、商会の人たちがいる。そしてペトラやマーヤたちがいる。

 あの後、ドミル・フルシークは、俺が火の魔法具を持っていないと自白したも同然なのに、それでもこちらにしっかり返答を求め確認し、去って行った。彼は闇に消える直前、思い出したように聞いてきた。

「君はアルヴァの次に、何処へ行く」

 俺はもちろん、答えなかった。

 森の中を歩いて戻ると、木々の生い茂る影の間に野営地の灯りが見えはじめた。

 その灯りの中を赤く輝く小さな光点が二つ、こちらに向かってくる。発せられている魔力は小さい。

「リフィア……」

 イシュルの前にリフィアが立った。

 俺もあの男も魔法を使ったからな。決して大きなものではなかったが。リフィアめ。しっかり気づいてやがる。

「フルシーク殿と会っていたな」

 リフィアの声が低い。詰問口調だ。機嫌が悪そうだ……。

「ああ」

「そなた、やはり王家の……」

「いやいや。あの恐そうなおじさんと話したのは今夜がはじめてだよ。たまたま顔と名前は知っていたけどね」

「本当か」

 赤い光が揺れる。

「その赤いの消せよ。恐いだろ」

「なっ」

 リフィアの影が肩を怒らすのがわかる。

 イシュルはその隙にリフィアの左側に回り込み、野営地から入ってくる灯りが彼女の横顔を照らす位置に移動した。

「ふん!」

 リフィアは顔を逸らし、鼻を上に向けた。その眸から赤い色が消える。

「まぁ、あれだ。大公とは話したことがあるぞ。だからあの男とも面識はあった」

「た、大公さまと?」

 リフィアが驚きの声をあげる。

「ああ。ちなみにペトラとは友達なんだ。俺」

「はぁ? ぺ、ペトラって、あの」

 声だけでない、驚きの表情が彼女の顔いっぱいに広がった。

「ペトラ・ラディス、大公女殿下だな」

 リフィアはしばらく呆然とすると、はっ、と顔つきをあらためた。

 その顔が怒りに染まっていく。

「き、さ、まぁあああ」

 光輪が煌めき、赤い光が走った。森が揺れた。


 荷馬車の車輪から伝わる振動が、昨日傷めた背中の筋にひびいて痛い。

「うぐ」

 イシュルは背中を伸ばし、小さく呻き声をあげた。

 あれは悋気だったのか。まったく。

 昨晩はあれから、たとえ痛い目に合おうとも、話をごまかそうとしたイシュルの努力も実らず、リフィアにドミルとの会話の一部を話さざるを得なくなった。

 ドミルはイシュルが赤帝龍とどう戦ったか、自分に直接聞きたいがためにわざわざ接触してきたのだ、というイシュルの説明に、リフィアは不承不承に頷いた。

「おまえが傍にいたら、向こうも聞きづらかったんじゃないか。あのおじさん、どんな魔法を使ったのか、とかまで聞いてきたから」

 とイシュルがつけ加えたことで、リフィアはやっと納得したようだった。彼女は、ふたりが人目につかない森の中で話していたのが気にいらなかったのだろう。

「で、イシュルはどんな魔法を使ったんだ」

 リフィアにもそこまでは説明していない。彼女の質問にもイシュルはドミルと同じ答えを返した。

「難しい顔してどうされたのかしら。アレクさん」

 荷台の向かいに座る一番年長のメイド、マリカが話しかけてきた。

「いやいや、昨日の晩、ちょっと背中の筋を痛めちゃって」

 難しい、じゃなくて痛そうな顔をしてるんです、マリカさん。

「まぁ」

 マリカがお上品に口に手を当てて驚いてみせる。

「そういえば、昨日、奥の森の方で魔獣が出たんですってね。アレクさんもリフィアさまといっしょに戦われたのかしら」

 二番目のラドミラが話に加わってきた。

 マリカの驚きが大げさな感じなのはその絡みか。

「そ、そうですね。はは」

 あいつ、昨日のドタバタを魔獣が襲ってきたと偽って、ごまかしたな。

 その時、ふいに視界が明るくなった。街道の南側の木々が途切れ、視界が広がる。

「あっ、見て!」

 一番年下のヨアナが上半身を捻り、指差す。

 その先に、緑に囲まれたアルヴァの街があった。

 木々の緑の中から、たくさんの赤や紺色の屋根の建物が顔を出している。その奥、左手から伸びる山裾の先端にアルヴァ城が見えた。塔に囲まれた大小の城館、その下部に横に一筋、白く輝くものが見える。

「あの白く輝いているのは……」 

「あれが、アルヴァ城の白亜の回廊ですわ」

 イシュルの呟きに、マリカがすかさず答えた。

「あれが……」

 大公が何か言ってたな。壊さないでくれ、みたいなことを。

 続いて街道の右手も木々が途絶えた。

 草地が広がっている。そこに白い花が点々と咲いている。

 イシュルは何気に視線を下へ、道端に落とした。

 野薔薇だ。冬なのに。

「あら、めずらしい」

「今年の冬は暖かいから? かしら」

 マリカたちも声をあげる。

 イシュルは荷台から降りると、棘を避けて道端に咲く野薔薇を一輪、手折った。

 童は見たり、か。

 イシュルは薔薇の花に顔を近づけるとかるくその香りを楽しみ、荷台に乗ると棘をいくつか抜いて、一番年若のヨアナに手渡した。

「ありがとう」

 ヨアナが頬を染める。

 野薔薇を手折る……、いや。リフィアは野薔薇という感じではない。

「……」

 ふと何かの気配を感じて目を向けると、マリカとラドミラがイシュルに何か物言いたげな視線を向けてくる。

 結果、イシュルは再び道端に降り、手折った野薔薇をマリカとラドミラにも手渡すはめになった。

 微かに吹く冬の風に花の香りが舞う。

 手折られたのは俺の方か。リフィアに、そして神々に。

 ……野薔薇を手折った童、少年に薔薇の嘆きは届かなかった。それなら手折ったのは神々の方になるのか。

 白く光る一線。

 いよいよだ。 

 イシュルは遠く、アルヴァ城の方を見やった。


 

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