VOL.2

『実をいいますと、同窓会の幹事は彼じゃないんです』


 白鷹中学では卒業生の有志が四年に一度、持ち回りで幹事を引き受けることになっているのだが、今の幹事は他ならぬ吉岡すみれ、つまりは自分自身なのだという。


 彼女は、俺の淹れたコーヒーを一口飲み、それから先を続けた。


 水野昭夫とは同じ時期に学校生活を送っていたそうである。


 学年は一学年上、要するに『上級生』という訳だ


 水野は当時、小柄で痩せていて、おまけに無口で気の小さい生徒だったので、しょっちゅういじめられていたという。

 

 ただ、彼女自身年現場を直接見たことはなかったものの、噂だけは直ぐに伝わって来た。


恐喝カツアゲされる。

・トイレに入っていると、頭から水を掛けられる。

・裸踊りをさせられる。

無視シカトされる。

・教科書にいたずら書きをされる。

etc・・・・


 まあ、

』を一通り経験させられたという訳だ。


 学校が何もしなかったのは言うまでもない。


 まして彼は成績も中の下で、教師からの覚えもめでたくなかった。


 こんな生徒に対して、周りの大人、主に教師せんこうと期待などすること自体が無理である。


 それでなくても『いじめられた側にも責任はある』とか『問いただしても否定したんだから、いじめはなかったんだろう』などと、呆けたことを抜かすご時世だ。

 解決なんぞする筈はない。


 彼は学校に来たり来なかったりを繰り返していたが、どうにか卒業をし、その後は何度かクラス会や同窓会があっても、一度も顔を見せたことはなかったという。


 その後彼女は大学を卒業し、教員免許を取得して、現在は母校の国語教師になった。


 しかしそんなある日、彼女もは本来自分がやるべき筈の幹事を別の人間、それもあの水野昭夫が名乗って、臨時の同窓会の葉書を出していることを不思議に思い、彼の家を訪ねてみた。


 水野の家は彼女の実家から10分ほどしか離れていないが、向こうが無口だったせいもあってか、殆ど話もしたことはなく、道で会って挨拶をする程度だったそうだ。


 両親はまだ健在で、現在は昭夫とは2歳違いの姉が結婚して、親と同居をしている。

 

 彼女が訪ねて行くと、両親も、そして姉も、彼のその後の消息について話してくれた。


 高校を卒業した後、大学には進学せず、大田区にある自動車部品工場に勤めていたが、22歳になった時、突如会社を辞めて姿をくらましてしまったという。


 家族関係は至って普通で、特別仲が良かったとか悪かったということもなかったそうだ。

 いじめのことについても、家族には一切話したことはなかったという。


 その後は一年ほど前に1度だけ、

『元気でやっています。心配しないで下さい』という、当たりさわりのない文面が届いただけで、後はまったく音沙汰がないそうだ。


 彼女は同窓会の幹事の話をし、何とか頼んで家の中に上げて貰った。


 彼の使っていた部屋は、そのままの形で残されていたが、開けてみて彼女は驚いた・・・・。


 


















 


 

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