Lonely little Army

冷門 風之助 

VOL.1

 俺、私立探偵の乾宗十郎いぬい・そうじゅうろうは何度もため息をついた。


 秋、春先に次いで、もっとも好きな季節だ。


 ようやく残暑が去り、これから寒さにこごえる冬に入る、ほんのわずかの間、ちょうどいい気候のこの時期。


 仕事をするにも、休暇を過ごすのも、最も最適なこの時期だというのに、俺にとってはもっとも苦手で気の重い来客を事務所オフィスに迎えることになった。


 地味な紺色のフレアスカートにジャケット、ベージュのプルオーバー。


 黒い髪をポニーテールにし、化粧も派手でなく、今時の女性からすると、服装も地味で、お淑やかな印象を受ける女性。


『白鷹学園中学の教師・・・・吉岡すみれと申します』

 彼女はそう言って静かに頭を下げた。


 白鷹はくよう学園中学、といえば、私立としては一流校とはいえないまでも、そんなに悪くもない。いわば二流の上と言ったクラスの学校である。


 俺は名刺だけ受け取り、それをしまうと、無言で立ち上がり、窓際に移動して外を眺めた。


 ここから見える街路樹の葉も、すこしづつ黄色になり、ペーヴメントに散り始めている。


 俺はまたため息をつき、元の椅子に座ると、彼女と対峙した。


 『教師せんこう』と『警察官おまわり』、


  この世で最も、俺が苦手としている人種だ。


  出来れば関わりたくないのだが、警官は職業柄、顔を見ない訳にもゆかないし、教師だって依頼人となればそうそう嫌な顔もしていられない。


 まして自衛隊時代の先輩からの紹介だから、余計無下にも出来ないという訳だ。


『まずはこれを・・・・』


 そう言って彼女は傍らのバッグから、何かを取り出そうとしたが、俺はそれを制して、


『その前に契約書これを読んで、納得が出来たらサインをして渡して下さい。仕事の話はそれからです』


 事務的な口調でそういい、俺は彼女にいつもの如く契約書を出す。


 彼女は『すみません』といいながら受け取り、端から端まで丹念に読むと、ペンを取り出してサインをして寄越した。


『結構、ではお話を伺いましょう』


 俺は彼女のサインを確認してからホルダーにしまい、入れ違いにカップを取り、

今日淹れたてのコーヒーを飲んだ。美味い。


『では改めて・・・・』彼女がバッグから取り出したのは一枚の葉書、しかも何てことのない、同窓会の通知だ。


『これは?』


 俺が聞き返すと、


『御覧の通り、当校の同窓会開催の通知です。1週間前に届きました。でも・・・・』


 そこで彼女は表情を曇らせた。


 文章によれば、今年は開校40周年とかで、特別に学校の体育館で開催したいと思う。日にちに余裕がとってあるので、是非とも全員の参加をお願いしたい。


 と、あった。


 見たところ別に何の問題もない、ありふれた通知にしか見えない。


『・・・・それが、ちょっと妙なことがありまして・・・』


 彼女は少し躊躇ためらった後、葉書の末尾を指し示した。


 そこには『白鷹中学校同窓会幹事、第〇〇期卒業生、水野昭夫』とある。 


 続けて彼女が取り出したのは、一枚の集合写真だった。


 どうやら卒業式前、体育館で写したものらしい。手に手に、あの証書を入れる黒い筒を持っている。


『彼です。その水野昭夫君というのは』


 彼女が指し示した指の先・・・・三段に並んだ最前列の左端にその少年はいた。


 色の白い、小柄な、どこと言って目立ったタイプではないが、目だけ・・・・その目だけが何故か底知れぬくらさで、まっすぐ前を見つめていた。

 

 いや、にらみつけていたといったほうがいいだろう。

 


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