第84話

目が覚めると、真っ白な天井が見える。


...........そうか、昨日。あんなことがあったもんな。


あの後、僕は病院の方へ、麗華は少し事情聴取のため警察の人とどこかへ消えた。


体、少しだけ、頭が痛い。でも...........心は痛くはなかった。


あの時、僕は必至で考えた。麗華を救う方法を。麗華がどこかへ行ってしまいそうだったから。


もし僕が麗華の立場だったら...........僕も彼女と同じように壊れたと思う。


それだけ大事だから。


だから僕は...........約束をした。彼女と僕を繋げてくれる、そんな”小さな”絶対に守られる約束を。


あの時、何か月、何年経ってもいいと言ったけれど...........彼女は最後…それに...........


「あ、起きたんですね。おはようございます」


思考がそこでぷつんと切れる。


「おはようございます」

「ここに朝食を置いておきますので、食べてください」


幸い刺されたのが左手だったので、食べられる。縫った跡が少しだけ痛々しくて食べる気をなくすけど。


「いただきます」


そう小さく呟いた。




「もう、大丈夫ですね。明日には退院していいです」

「そうですか。分かりました」



そう言われたのは、昨日。


僕が起きてから二日たった。


その間、警察の人とか、夏樹とか、夕夏先輩とか、母さん、父さん、姉さんが来た。


「大峰君。大丈夫なの?」

「裕也、大丈夫なのか?」

「まぁ、大丈夫だよ。生きてるし」

「そう言う事じゃないんだけどなぁ」


「ゆう。もうこんな無茶しないで」

「大丈夫。もう本当に、やっと終わったから」

「...........そっか」


夏樹には、呆れられて、夕夏先輩には心配され、父さん、母さん、姉さんには泣いて抱き着かれた。


こんないい人たちに、家族に出会えて僕は良かったと、心からそう思った。


そんなことがありつつ、今日退院していいと言われた。まぁ、まだ手には包帯とか巻いてあるけれど。


荷物はもう母さんが家に運んでくれてるし、あとは‘‘これ”を持って出るだけ。病院から家までは三十分。学校から家までの距離より、ちょっと長いくらいだ。


少しだけお世話になった病室に、先生や、ナースの人たちに感謝して、病室を出た。


エレベータに乗って、エントランスを抜け、自動ドアも抜ける。久しぶりに日に浴びたような、そんな感覚になって目を細める。


「あ、あのっ—」

「はい」


声を聞いただけで分かる。細めていた眼をゆっくり開いて麗華の顔を見る。


「裕也君、あのっ」


ゆっくりと頷く。少し会っていなかっただけで長らく会っていなかったような感覚に陥っていた。


「麗華、ちょっと待って。僕も言いたいことがあるから」

「私もあるの」

「じゃあ、二人で言おっか」

「うん」


息を吐き、大きく吸う。


「僕は、麗華の事が—」

「私は裕也君の事が」


「大好きです」



「ふふっ」

「ははっ」


二人して、何故か笑ってしまう。


「何か月、何年なんて、私は待てないよ」

「そうだよね」

「いつの間にか、私、笑ってた」


僕と彼女がこれまで一緒に乗り超えてきたものがあるし、たくさんの楽しい思い出もあるから。


だから、僕は彼女を信じた。すぐに戻ってきてくれると思って。文化祭のあの時も、一番最初のデートの時も、いつも麗華が僕を信じてくれるように、僕も麗華を信じた。


過去を、僕との思い出を思い出して、”笑って”くれると思ったから。麗華は、約束の最後、自然に笑ってくれていたから。


「あ、でも、約束、破っちゃった」

「え?」

「私も好きだって言っちゃった」

「それは、良いんじゃない?」

「良くないよ、だからもう一回」



「好きです、付き合ってください」

「はいっ!!」










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