第82話

デート当日。


今日は正午あたりからなんと、雪が降るらしい。ホワイトクリスマスって言うやつだ。それに......今日はプレゼントも事前に買ったし。喜んでくれるかな?そう思いながら歩く。


いつもの待ち合わせの駅前。時刻は九時半。麗華の家に行っても良かったんだけど、それは嫌みたいだ。初めてのデートだからちゃんと待ち合わせをしたいらしい。


はぁ、と息を吐くと白い。手持ち無沙汰の手をポケットに突っ込み待ち合わせの場所に向かい、十分前に着いた。


辺りを見渡すけど、麗華の姿はない。


「ねえ、ゆう君」

「ん?麗華?」


どこだろう。


「ここだよ?」


顔を傾けられる。


「麗華?」

「うん、そうだよ。ゆう君の彼女の麗華だよ」


眼鏡をかけた麗華がニコっと笑う。


「なんで眼鏡?」

「もぉーゆう君?それより言う事ない?」


麗華はその場でくるっと一周する。


白いニットのワンピースにダッフルコートを着て、カバンには僕が前にあげたくまのストラップがくっついている。

麗華の大人っぽい雰囲気にあっていていいと思う。きれいだ。それでいて、本人は僕にウインクをして、まるで私だけを見て欲しいとアピールをしていて可愛くてしょうがない。可愛くてきれい、かわいきれい?よくわかんないけど。


「好きだよ、麗華」

「っ.......。もぅ、ゆう君。可愛いだけで、充分だよぉ」


一気にでれーっとした表情になり、僕の手を握ってくる。


「わたしも好きだよ、ゆう君、それじゃ、いこっか」

「はい」


麗華が僕の手を取り、二人で歩き出す。



電車に乗って、三十分くらいだろうか、水族館に来た。近くの広場では夜にはイルミネーションやクリスマスツリーがライトアップされるみたいだ。


「ねぇ、みてみて」

「ん?」


麗華に引っ張られ、見るとペンギンが、二人寄り添って歩いていた。片方のペンギンは少し嫌そうな顔をしながら、もう一方のペンギンはべったり。


「なんか.......前の僕たちみたいだ」

「ふふっ。そうだね。なんだかあの子が可愛く見えるよ」

「そうかな、あ、次、あれ見よう」

「あ、うん」


僕は心の中で早く素直になった方がいいぞとあのペンギンにエールを送った。




そのあと、イルカショーをを見て、ちょうど、お昼になった。


目の前では麗華が、イルカショーの余韻に浸っている。結構イルカが好きで小さい頃に一度だけ、イルカショーを見てそれで好きになったんだとか。


「イルカ可愛かったなぁ。今は、クマも好きだけど」


そう言ってカバンについている小さい熊を撫でる。


「うれしかったんだよ。初めてゆう君からちゃんと私に向けて貰えたものだったから」

「そっか」


嬉しそうに笑う麗華。今日はデートだからか何故か僕は少し照れてしまう。


「ふふっ。じゃあ午後は.......あっ。そう言えば。ゆう君とのデートが楽しくて忘れちゃうとこだった。そのために.......」

「ん?なに?」


麗華がぶつぶつと一人で喋る。


「じゃあ、午後は本屋にいこっか」

「本屋?」



昼食を済ませて、麗華が行きたいと言っていた本屋に来た。


ここに来るのも久しぶりだな。去年は参考書とか息抜きに本を買いにここに来ていたっけ。まぁ…本読んだのは結局受験終ってからだけど。


「あのね......ゆう君。この場所覚えてる?」

「え?ん?覚えてる?」


一緒に本屋なんて来たっけ?


「はぁ......やっぱり覚えてなかったかぁ。最初にあった時からそんな気はしてたけど」

「ん、え?」

「ここね、去年私たちがあった場所なんだ。この格好で、あ、でも恥ずかしくって帽子も深くかぶってたね」


ん......?んーー。.......................あ?え?あの恥ずかしがってた子かな。下を向いていたからあんまり顔が見えなかった。

確かあの時は......


「僕が本を落しちゃったんですよね」

「あ、思い出したの?そうだよ、それで私が拾って」

「それで......僕がありがとうって言ったら逃げちゃいましたよね」

「うぅ......でも今はこんなこともできるもん」


そう言って僕の腕に抱き着く。


「そうですね、あの時はまさかこんな風になるなんて全く思ってなかったな」

「……そっか」


そう感慨深げに麗華は言う。学校に入っていろんなことがあった。だから、そっかとしか言えないんだと思う。


「ゆう君。おすすめの本教えて?」

「えっとね......」


それからも楽しく時間が過ぎていき、イルミネーションが点灯される時間となった。人はそこそこいる。僕たちはツリーから少し離れた開けた場所にいる。予報通り正午から雪が少しだけ降り積もっていた。


「あとちょっとだね、ゆう君」

「そうだね、あとちょっとだ」


点灯したら、プレゼント渡そう。


あと三十秒。前あたりから大学生たちがカウントを初め、段々とみんなもカウントを始める。


30秒。


15秒。....................え?見間違いだよな。


13、12、


違う!!見間違いじゃない!


9、8、7、6、


こっちにあいつが走ってくる。


ごめん!!僕は麗華を突き飛ばす。僕は....................。


3、2、1、「「メリークリスマス!!」」


「なんで、なんで、なんで!!!」


あのクソ女が振りかぶった包丁が僕の手に深々と刺さる。ポタポタと血がたれ、白い雪を赤く染める。


滲んで消えない。











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